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鷺宮誠

・鷺宮誠

高等部三年生

身長142

 鼻歌交じりに私は廊下を行く。

 最近の放課後はとっても静か。白面刀とか呼ばれてる奇人が刃物を持って大暴れしているからだ。

 部活動や委員会は時間を短縮され、速やかに複数での下校をする様に。との通達が生徒会より出されている。


 いっそ休校にしてしまえばいい様な気もするけれど、全寮制の学園という事もあり、登校して一ヵ所に集まらせた方が却って安全という考えだろう。今の所、犯人は放課後しか目撃情報が無いけれど、例外はいつ起こるかも分からない。


 かくいう私も襲われた内の一人だ。

 噂では学園の問題児をターゲットに狙ってるとかいう話で成程納得。

 まぁ、数ある恨みを買った連中の一人かもしれないけどね。


 どちらにせよ、私が襲われる事なんてそんなに驚くべきことでもない。だから私が放課後に一人で歩くことも、何らおかしい事ではないのだ。


「あら?」


 そんな所に、その筆頭たる生徒会長ねいろちゃんと出くわす。彼女は私を視界に収めると露骨に嫌そうな顔をした。その隣にいる書記ふたばっちは、まるで興味が無いとばかりにすまし顔だ。私とっても愛されて困っちゃうわ。


「どうもどうもお二人さん、ご機嫌麗しく。今お帰りで?」

「アナタもね、まこと!」


 私の一言一句が気に食わないとばかりに、唾を吐かんばかりにそう捨てる。別にこちらとしては、ケンカをしたいわけじゃないんだけどね。

 音色ちゃんからすれば私は不倶戴天な存在だろうから、そう簡単には行かないんだろう。

 彼女の射貫くような視線を鼻歌交じりに受け流していると、音色ちゃんは舌打ち交じりに口を開いた。


「今は学内に危険人物がいる関係上、複数人での下校を心掛けるように伝えているはずですが?」

「大丈夫、誠さんは一騎当千の力を持ってるからね。一人でもダーイジョーブイ!」

「そういう問題ではありません!」

「因みに副会長しのぶっちは? 折角の機会なのに別々なんだね」


 私の言葉に音色ちゃんは、さらに不愉快そうに顔を歪ませる。純粋な疑問だったんだけど、どうやらおちょくってると思われてしまったらしい。

 忍っちがいると、諍いを治めてくれるし、なにより音色ちゃんの機嫌も多少良くなる為、応対が楽になるから嬉しいんだけどね。

 揶揄からかう良い材料にもなるし。


笠村かさむら昌子しょうじさんを送っていきました。今日も狙われないとは限りませんから」

「やっさしぃ~。きっと自分から言い出したんでしょう」

「ふん。そんなの風紀委員に任せればいいのよ。生徒会ウチの管轄外の仕事をしないで欲しいものだわ」


 露骨に拗ねてる姿は可愛いけど、口にすれば、それこそ開戦の狼煙になりかねないので黙っておく。今日は別に音色ちゃんを揶揄うのが目的じゃないからね。


「所で……今回の騒動、アナタが裏で手を引いてるんじゃないでしょうね」

「わお。直球」

「まどろっこしいのは苦手なの。アナタと違ってね」

「そうだね。でも違う。というか私も狙われて地味に困っておる」

「アナタが?」


 白々しいとばかりに鼻で笑う音色ちゃん。

 それに私は大げさに頷いて肯定する。

 まぁ言っても信じないだろうけどね。


「昨日の新聞部に写真を提供したのは彼女です」

「本当なの?」


 そこに思わぬ援護が入る。

 先程まで、興味がなさそうに窓の外を眺めていたフタバンが急に会話に加わってきた。

 しかし、それにしても誰から聞いたのだろうか? スーさんを含めても、片手で数える位しか知らない筈なんだけどね。

 ツバメンが自分の意思で生徒会に報告するとは思えない。


「詳しいね。耳を良くする秘訣を聞きたいにゃ」

「そうですね。もう一セット用意するとよろしいかと」


 視線を合わせずに、ただそれだけを返す。

 やりにくさで言えば、音色ちゃんよりも彼女の方が正直言って上だ。

 興味を示さない人間にはとことん対応が雑だから。事あるごとに突っかかって来る上司とでは、バランスが取れてるとも言えるけど。


 そんな矢先に、彼女が顔色を変えて突如前方を見据えた。

 私と音色ちゃんは不思議に感じて彼女の視線を追いかけると、そこに居たのは黒ずくめに白い仮面を被った謎の人物。

 嘲笑うような表情に右手にはナイフ。


「白面刀」

「Bの方だね。二号でもいいけど」

「あぁ、弱い方ね」


 それぞれが第一声を発する。自分で言うのも難だけど、このメンバー誰も危機感抱かないのね。

 一応刃物を持った不審者と遭遇したんだから、もっと驚いても良いと思う。特に二人は白面刀と初遭遇なんだからさ。

 そんなのだから唯一の男性メンバーに放っとかれるのだ。


「それで、あっちもアンタを狙ってるわけ?」

「試しに三方に分かれてみます?」

「うわー、薄情者ー」


 私達の漫才に痺れを切らしたように、白面刀Bはこちらに駆けだしてきた。

 右手にはナイフ、刺されたら溜まったもんじゃない。それでも二人は怯みもせずに迎え撃つ体制を取っていた。

 音色ちゃんは胸元に、双葉っちは腰に、それぞれ制服の中へと手を入れる。


 それじゃあ私は……逃げようかな!

 そう思った矢先、何かが隣の教室から飛び出して白面刀Bの前へと躍り出た。

 

 全身を黒ずくめで覆った後姿に、左手に日本刀が握られている。

 白面刀Aだ。なんとも棟梁跋扈ちょうりょうばっこな予感だ。


 Bは突然の乱入者に戸惑い歩みを止めた。

 伺うようにAを観察すると、意を決したように飛び出した。


 AはBのナイフに一振るいで応戦した。

 目にも止まらない一線でBの持っていたナイフは弾かれ、床に転がる。

 Bは転がったナイフを一瞥するも、そのままAへと拳で殴りかかった。


 鍛錬の賜物であろう鋭い突きの連打を、Aは難なく躱すと刀の柄でBの腹部を勢いよく押し飛ばした。

「うっ」という低い呻き声と共にBは後ろへ数歩よろめき下がる。


 そして苦痛から顔を上げた瞬間を見計らってAが刀を振った。

 Bは咄嗟に後ろへ大きく飛ぶが、その一線がコートの左の袖を裂いた。

 裂けた部分を隠す様に右手で重ねると、Aを一瞥した後に背を向けて逃げ出した。


 Aはその後を追おうとしたその一瞬――

 双葉っちが右手に握った警棒で脇腹を殴りつけた。


 Aは殴られた場所を抑えながら背後の彼女を見据えるも、咄嗟に後方へと飛び退いた。今度は顔に向けて音色ちゃんが殴りかかってきたからだ。


「ちっ! はしっこい!!」


 音色ちゃんは舌打ちをして右手を軽く振るう。握り拳の間からは、銀色に輝く金属の突起物が飛び出ていた。


 Aは私達とBの逃げた先を交互に見比べると、Bを追って廊下の奥へと飛ぶように消えていった。その様子を眺めると音色ちゃんは力強く鼻を鳴らした。

 私はその様子にちょっと引き気味に話しかけた。


「よくあの状況で殴りかかるね」

「はぁ? どういう意味よ」


 音色ちゃんは言葉の意味が分からない、とばかりに逆にたずねてくる。

 一応は加勢に入ってきた人物を、相手が逃げた瞬間にノータイムで殴りかかるのは、流石に私も躊躇する。


「大体、アイツも治安を乱す異常者なのよ。あの後私達に襲い掛かってこないとも限らないじゃない?」

「まぁ、そうだねうん」


 という事は、最初から残った方を、不意打ちでボコボコにするつもりだったのか。

 確かにAが本気で襲ってきたら、私達じゃどうしようもないし、先手で怪我を負わすのは正しいのかもしれないけどね。

 逆に怒りを買ってその気にさせるだけかもしれない分、結構リスクの高い手段に思う。

 基本的に、勝てる戦いしかしない主義の私には到底できない。


「しかし作花さくか、中々の一撃だったじゃない」

「恐縮です」


 双葉ちゃんは、妙に満足気な様子で畏まる。

 怖い生徒会役員達だこと。


 呆れて首を竦めている所に、男の叫び声が聞こえてきた。

 私達は顔を見合わせると声のする方へと駆け出して行った。


★★★


 向かった先で倒れていたのは、片腕を切られて血を流す、風紀治安委員長の岡田。

 その身には体を覆い隠すような真っ黒なコート、そして傍には真っ二つに割られたBの面が転がっていた。 

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