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いけすかない二人

・昌子メアリー

新聞部所属

好きなタイプは束縛しない男

 アタシはビクビクしながら学園へ向かう道を歩いていた。何をそんなに恐れてるかって言えば、昨日アタシを襲った奴に決まってる。そりゃあね、新聞部で活動して、根も葉もない噂だったりを面白可笑しく煽っちゃたりもしてるんだから、結構な生徒から恨みを買ってきたりなんかもしてきたけどさ。それでも刃物を持って追い回される。なんての初めてな訳で、自他ともに、ふてぶてしいと認めるアタシとしてもやっぱり怖かったりするわけよ。


 何が質悪いかって、犯人の顔が分からないって所よね。だって、そこらで何食わぬ顔で登校している周りの集団の誰か、って可能性だってない訳じゃないんだから。それこそなりふり構わなければ、今スーッと挨拶がてらにやってきてグサーッ! なんてことも考えられる訳で、アタシの今の警戒レベルはもう限界突破って感じだ。


「メアリーさんおはよう」

「んぎゃああああああああああああ!」


 そんな状態で突然後ろから声を掛けられた所為で、口から心臓を飛び出さん勢いで大声を張り上げる。周りの生徒たちは何事かとばかりに、一斉にこちらに視線を集中させていた。そんなの当然よね、いきなり登校中に女生徒が大声で悲鳴を上げれば、誰だって振り向く。アタシだったらカメラを持って現場に駆けつけちゃうものね。でもね、それはそれで、これはこれだ。物珍しそうに見てんじゃねぇわよチクショウ。


「だ、大丈夫!? メアリーさん」


 声を掛けた当の本人は、あいさつした女が急に叫んで飛び上がるもんだから、半パニック状態だ。慌ててアタシの体調を気遣ってくる。その心意気は非常にありがたいけど、完全にアンタの所為だからね。まぁ昨日の恩人だし、そこは多めに見ますよ。えぇ。


「いや、大丈夫。いきなりだったから、ビックリしただけ」

「そ、そっかゴメン。昨日の事もあって心配だったんだけど、ちょっと性急に声をかけすぎちゃったね」


 素直に自分の落ち度を認めて副会長は謝罪する。それならそれで、もうちょっと心細やかな気遣いをしてほしいものだ。まぁ、アタシの事を心配して気が急いたっていう理由は正直、その、嬉しいのでそこまで咎めないでおきますけどね。うん。


「なんか凄い声出てたわね。ぎゃあああ! なんて叫び、実際初めて聞いたかも」

「会長、あんまり茶化さないでください。メアリーさんだって怖かったんでしょうから」


 副会長の後ろで、生徒会長がアタシの痴態を思い出しクスクスと笑っていた。何とも性の悪い事だが、仕草に優雅さが感じられるのが、また腹ただしい。なんでこんな女が生徒会長なのかしらね。副会長が嗜めても小煩さそうに「ハイハイ」と聞き流していた。そんな事をやっていると、遠巻きに眺めていた生徒達も、なんでもない事を理解したのか、視線を外して学園へ向かって歩いていく。


「メアリーさんは一人?」

「え? まぁハイ。登校時間はだいたい人が居るし」

「ダメだよ。昨日の事があるんだから、ホラ一緒に行こう? 難しそうだったら今日は休んでも良いし? それだったら送っていくし」

「い、いやそこまでは良いですよ。大丈夫」

「あんな叫び声だして大丈夫って言われても。ねぇ?」


 生徒会長はまたもおかしそうに笑う。

 この女……。


 副会長はそんな様子を気にも留めず、アタシの体調をしきりに伺ってくる。正直ちょっと心配しすぎて鬱陶しい感じはするが、本気で心配している様子が伝わる所為か、どうにも邪険に扱いづらかった。楽しそうに笑ってた女は彼の様子を見て、詰まらなそうに表情変えて鼻を鳴らした。


「まぁ、無理してでも学校には行っといたほうが良いんじゃない? 一人よりは大勢でいた方が安心でしょう」

「それはそうかもしれませんけど、精神的に無理をさせるのも正直」

「だから大丈夫ですって! さっきのは本当に驚いただけ! 確かに昨日の事が原因だけど、そんなに気にしなくても平気ですから」


 実際さっきまでの妙な緊張感は無くなっていた。もしかしたら副会長が一緒にいる、というのが大きいのかもしれない。なんだかんだでアイツを追っ払ってくれたわけだし、その彼が付いていてくれる。という事が無意識に精神的な余裕が生まれたのかも知れない。


「そう? でもあんまり無理をしないでね。何かあったら呼んでくれていいから」

「その言葉だけで十分。頼りにしちゃいますから」

「そうね。存分に頼るといいわ」


 何故だかやたらと生徒会長が偉そうなのが引っかかるが、うっとうしいので脇に置いておこう。取り合えず、こんな所で突っ立ってる訳にも行かないし、とっとと登校してしまいましょう。


★★★


「あれ? 渡戸わたしど君じゃない」


 校舎に入ってそうそう、渡戸と出くわした。彼とは、新聞部でインタビュー記事を書いた時以来だろうか? 色々疑いをかけちゃあいたけど、すぐさま今の事件が起きちゃった所為か、彼への疑念の熱もすっかり冷めちゃったわね。まぁ、なんかネタになればいいや、位のものだったから別にいいんだけど。


「あぁ……新聞部の」


 名前を思い出そうとしてみたものの、無理だったみたいで彼はそう返す。アタシが名前が覚えてんのに、相手が覚えてないっていうのは、正直言ってムカつくわよね。まぁ 入学早々の事だし仕方ないのかもしれませんけどね。


「その後どうかしら? お姉さんは見つかった?」

「あぁ……、全然ですね。まぁ気長にやります」


 アタシの質問に肩を竦めてそう答える。全然感情がこもっておらず、まったく残念そうに感じない。こんな所に来てまで探す位な筈なのに、イマイチ真剣味というか、必死さが見えないのだ。アタシがコイツの事をイマイチ信用できないのはこういった所だ。


「それにしても昨日は大変みたいでしたね」


 渡戸の隣にいる、別の生徒が私に質問をしてきた。見たことが無い顔だ。学年色から見ると一年生の様だが、渡戸の友人かしらね。中性的な顔立ちに薄ら笑いを浮かべていて、なんとも胡散臭い印象だ。人によっては柔和な笑顔、とでも称しそうなもんだが、アタシとしては生理的にあまり好ましい部類じゃないわね。


「どうも。おかげさまで怪我もなく、大したことなかったけど」


 この子が言ってるのは、まぎれもなく昨日の襲われた件だ。副会長に無理を言って、部室に寄って貰い事情と写真を渡してから帰ったから、今日の新聞に載っているはずだ。本当はアタシも参加したかったけど、流石にそこまでは許してくれなかった。なんだか彼ってやたらと過保護よね。女性を束縛したいタイプなのかしら。当の本人は、アタシの発言に後ろで神妙な顔をしていた。


「昨日なんかあったのか?」

昌子しょうじさんが、白面刀の偽物に襲われたのさ」

「うぇ!? 襲われたのって昌子先輩だったのか。そうか……メアリーって」


 そう言って何処からともなく楽集新聞を取り出して、渡戸に見せる。彼も流石に驚いて、アタシの安否をたずねるが、何だか取ってつけたような感じでイマイチ心に響かない。大体さっき答えたっつーの。


「所で、何で偽物って決めつけたのかしら?」


 さも当然の様な物言いに、ついアタシはたずねた。副会長は実際に対峙した上での結論だけど、新聞の記事を見た上で何故そう判断したのかが疑問だった。まぁ前日に載せた写真と仮面の顔が違うんだから、そういう判断でもいいけどさ。


「簡単ですよ。過去の記録にある白面刀は、全て刀を持って居ましたからね。今回持っていたのはナイフ一本。そもそも刀を持ってるからこその白面()な訳で、持ってない以上は白面刀とは言えません」

「ナイフだって小刀って言うんだし、間違いじゃないんじゃないか?」

「それは詭弁だよ」

「オマエの言い分もよっぽどだけどな」


 過去の記録。というのは昔の学生新聞という事? なんでそんなニッチな情報を知ってるのかしら? もしかしてオカ研の関係者だったりするのかしらね。後ろに生徒会の二人がいる状況で、非公式の部活所属かを聞くほど無神経なアタシではない。なのでここは予想に止めるしかできない。


「んじゃ、俺達はこれで。けい行くぞ」

「はぁ、阿奈多も真面目だなぁ。まだ遅刻するほどでもないって、全く」


 連れの腕を引きながら、渡戸は教室への道を歩いていく。彼らが見えなくなってから、詰まらなそうに、アタシたちのやり取りを見ていた、生徒会長が口を開いた。


「今のは?」

「確か、新入生の渡戸君ですよ。今年から高等部に入った」

「違う。もう片方よ」


 訝しい目で、先程まで彼らが居た場所を睨む会長。そんな彼女の質問に副会長も暫く考えた後、首を傾げた。


「いや、知らないですね。確かに初めて見る顔な気が」

「昌子さんは知ってる?」

「いや、実はアタシも知らないんですよね」


 各々の答えに彼女は「ふぅん」と小さく呟く。イマイチ答えに納得いってない感じね。言われてみれば、こんな閉じた学園の中で、顔すら見覚えのない生徒っていうのは非常に珍しい気がする。学年が違えば名前を知らない生徒位はいるだろうけど、それでも一度も見覚えが無い。というのは正直ありえないんじゃないかしらね。見た事はあるけど記憶に残ってない。と言う可能性もあるけれど、どちらかと言えば印象に残る顔立ちだったし、それはなさそうなのよね。


 ましてや、生徒会の会長と副会長に新聞部だ。一般の生徒に比べれば、学園の人物に明るいであろう立ち位置の人間が、これだけ揃って誰一人知らないっていうのは、ちょっと考え辛い。まぁ実際ありえてるんだけどさ。


「まぁ、いいけど」


 興味を無くしたのか、会長は小さく鼻を鳴らしてそう漏らした。

 それを皮切りにアタシ達も自身の教室へと急ぐのであった。

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