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不機嫌の理由

・渡戸阿奈多

新入生

亀派

 昨日、白面刀が再度現れた事が新聞に載ったことで、急遽生徒会より集団下校を行うようにとの通達が出された。


 集団下校というと仰々しいが「最低でも二人以上の人数で帰ってね」程度のものだ。それでも一人で下校しているのを巡回中の風紀委員に目撃されると、くどくど注意を受けて面倒なことは必至な訳で、俺は珍しくけいと帰り道を共にしていた。


「まったく! 本当に信じられないよね」


 今日何度目か分からないセリフを、景は口にした。下校中、コイツはさっきからずっと不機嫌だ。というより、下校中に限らず、今日一日は殆ど不機嫌だったように思う。

 理由は今朝の楽集新聞が、自分の期待したような内容ではなかった。という所だろうか。今日も白面刀が現れた事が記事になり、さぞご機嫌だろうなと踏んでいたのだが全くの逆であった。


 どうにも、白面刀が現れた。という事実よりは、その場に居合わせて生徒を窮地から救った、佐納さのうの活躍の方をメインにした内容だったのが気に食わないようであった。白面刀の名前が載ってるだけで満足するものだと思っていただけに、正直意外だ。


「別にいいだろ? 書いてる事は概ねあってるんだし」


 多少の誇張がみられるものの、書いてある内容は現場にいた身からしても、間違いないと言えるものだ。

 白面刀と遭遇して危機に陥った生徒達を、偶然通りがかった風紀委員の佐納が自慢の愛刀を振るい、白面刀は追い払った。

 まぁ、実際は風紀委員の増援が来たと勘違いして引いた。というのが正しいのかもしれないが、彼女の勇姿を考えれば、多少の脚色位してあげても良い様に感じる。


「全然良くないよ! これじゃあまるで白面刀が佐納さんに尻尾を巻いて逃げたみたいじゃないか!」

「でも実際逃げたのは事実だしなぁ?」

「だとしてもさ、まるで佐納さんが勝ったみたいな書かれ方じゃないか! あれは少なくともドローさ」

「勝負が決まってないと言えばそうだけど、逃げた方が負けとされるのは仕方ないんじゃないか?」

「むー……、阿奈多あなたはどっちの味方なのさ」

「そりゃ佐納だよ」


 なんで実際に刃を向けられた俺が、白面刀に味方せにゃならんのだ。

 オカ研からすれば、ヒーローみたいなもんなんだろうけど、多くの生徒からすれば、ただの危険人物だという事実位は認識してほしいもんだ。

 まぁ、コイツ的には怪獣映画で大怪獣が機関銃の攻撃でやられた様なもんだろうし、ショックな気持ちは何となく分かるけどさ。


「うぐぐ! 大体アレは佐納さんに負けたわけじゃないさ、多勢に無勢だったわけで」

「わかったわかった、落ち着けって」


 興奮する景を宥める。正直、助けられた身としては、あんまり佐納を悪し様に言うのは止めてほしいものだ。そもそも周りに聞かれでもしたらそれこそひんしゅくものだ。

 少なくとも、今日は学園全体が佐納の活躍を称える様な雰囲気が強い。そんな中、こんなこと言ってる奴がいたら、それこそ袋叩きにされかねない。


 そんな俺の様子を察したのか、景は唇を尖らせながら不承不承怒りを治めた。


「あーもう、本当に気分が悪いや」

「お前は本当に何様なんだよ……」


 あまりな態度に正直呆れて物も言えない。オカ研だったとしても、ここまで白面刀に入れ込む理由が正直分からない。他にも何か、特別視する理由でもあるんだろうかね?

 疑問に思っても聞かないけどな、長々と語られても正直困るし。


「そもそもさ、佐納さんの記事だけならまだしも僕の記事が差し止めになってるのは我慢ならないね」


 そう。コイツの機嫌が悪い理由はもう一つあって、今日載るはずだった七怪奇の特集記事。その記念すべき一回目が生徒会の意向で差し止めとなったからだ。

 朝っぱらから、立て続けに不愉快な事が起こって、一気に気分はどん底に落とされたものだろうし、多少は同情する。


「というか、アレお前が書いてのな」

「そうだよ! 第一回目って事と、今話題の白面刀だったし凄い気合い入れたんだよ!」


 まぁ何となく察してはいたけど、皮肉にもその気合の入れ具合が裏目に出てしまった感じだな。いやどちらにせよ記事は差し止めになったかな? 扱う内容の時期が悪かったとしか言いようがない。


「あーあ、阿奈多に読んでもらいたかったんだけどなぁ」


 拗ねた様に景は無念を呟く。読んでもらいたかったって……お前、転入生おれが正体だっていう噂もある。なんて記事をワザワザ読ませたいってどういう神経してるんだか。


「あれ? よく僕が書いた内容が分かったね」

「……お前が、この前自分から意気揚々と語ってただろうが」

「そういえばそっか。初めて見て慌てて弁明する阿奈多。とか凄い面白そうだったのに勿体ない事したなぁ」

「本当、良い性格してるよ」


 心底残念がるコイツの頭を小突くと、二人で寮への道を歩いて行った。

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