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Sacred Punisher  作者: 白川脩
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第22話


「最後の一人、やっぱりこいつだったのね」

 いつもは下ろしていた髪を結っているからか、一見ではサクラだと気付けなかったシャルロットがそう呟く。

「こいつ以外には居ないでしょうが。予測できてたんでしょう?」

「まぁね……」

 銃を構える二人。それと同時に、あちこちの壁や天井が裏返り、そこから見覚えのある連中が現れる。

 自分達を囲んだそれらを見て、シルビアは目を細めた。

「なるほど。あんたの配下だったのね」

 現れたのは、ロコン村が襲撃された後、ユーティアスへ向かった際に遭遇した忍び装束のヴァンパイア達であった。

「ちょっと。こっちは二人よ?こんなに大勢で囲むのは卑怯なんじゃないの?」

「卑怯とは人聞きの悪い。現実主義者と呼んでくださいな」

「ものは言いようね……」

 溜め息をつくシャルロット。

 ヴァンパイア達は、一斉に襲い掛かった。

 二人は銃を構え、近くに居る順に銃弾を叩き込んでいく。他のヴァンパイアと比べて動きが素早い事から、全ての銃弾を命中させる事には失敗してしまう。

 結果、二人はすぐにヴァンパイア達のクナイが届く間合いまで接近を許してしまう事になった。

 二人は移動する方向を決め、その方向に居るヴァンパイアが振り下ろした腕をそれぞれ銃を持っていない方の手で弾き、その場から移動して退避する。そして再び、その場で迎撃を始める。

 屋敷の外でノアの配下であるヴァンパイア達と交戦した時の方が数は圧倒的に多かったが、二人はその時以上に苦戦を強いられた。

一体一体の戦闘力が、その時とは比べ物にならないのだ。

 更に二人を追い詰めるかのように、サクラが歩き始める。

「たまったもんじゃないわね……!」

 シャルロットがヴァンパイア達の隙を見て、サクラに銃を向けて発砲する。

 サクラは射出された銃弾を当然のように刀で弾き、不適な笑みを浮かべた。

「このぉッ……!」

 その笑みが気に触れたシャルロットは舌打ちをし、サクラに向かって走り出す。するとサクラはそれを見て、刀を鞘に納めた。

「何の真似よ……!」

 再び、サクラがニヤリと笑う。その時、彼女の鞘を握る手が一瞬だけ力む。

 彼女が何をしようとしているのか、シャルロットには見当もつかない。それでも、足を止めずに彼女に向かって走っていく。

 しかしシャルロットは、自分の身体の周囲の温度が冷たくなるような感覚を突然覚え、反射的に立ち止まり、真横に飛び込むようにその場から離れる。受け身を取っている余裕などない、必死の回避。

 結果としてその回避は、終わろうとしていた彼女の人生を長める事になった。

 先程まで居た場所、空間に、複数の斬撃の光が煌めく。

「……色々出来るのね」

 サクラが神速の抜刀術で空間ごと斬り裂いたという事を悟ったシャルロットは、気が抜けたかのように力無く笑った。

「避けた事には賞賛を送りましょう。ですが、それだけでは私を倒す事はできませんよ?」

「わかってるわよ……!」

 サクラに向け、再び発砲するシャルロット。サクラは抜刀すると同時に銃弾を弾き、そのまま刀を斜めに振る。今度は刀から、真空刃が放たれた。

「それなら見た事あるわ!」

 サクラと初めて出会った時に披露されたその技は、容易に避ける事に成功する。シャルロットはそのまま反撃に出ようとする。

 しかし、シャルロットが引き金を引くよりも先に、左方から接近してきたヴァンパイアがクナイを振り上げた。

「危なッ――!」

 反射的に声を上げ、反射的に左手が動く。腕を外に払い、更に素早く右手の銃で至近距離からの発砲をお見舞いする。流れるようなその一連の動作にヴァンパイアは動けず、射出された銃弾はヴァンパイアの眉間に風穴を空けた。

「(まずは連中を片付ける必要がありそうね……)」

 一秒以内という速さで再装填を済ませ、サクラを軽く睨み付けてから、シャルロットはヴァンパイアの殲滅に取り掛かる。

 その意図を見て悟ったサクラは、再び刀を鞘にしまい、二人に狙いを付けた。


「シルビア!さっさと全滅させましょう!」

「簡単に言ってくれるわね……!」

 仕掛ける攻撃がことごとく避けられ、苦戦を強いられているシルビアは思わずシャルロットの言葉に舌打ちをする。

 次々と振り下ろされるクナイを避けるだけでも精一杯であり、狙いを付けて発砲するなどもってのほかだ。

 かと言って体術で反撃しようにも、敵はその分野に長けているヴァンパイア。上手くはいかない。

 それでも二人の実力は流石と言ったものであり、一体ずつ襲ってきた場合ならば、辛うじて対処する事ができた。

 早速、シルビアが一体の撃破に成功する。斬りかかってきた個体の腕を取り、四方投げの要領で背後に投げ飛ばした後、倒れた所に三発の銃弾を撃ち込んで追撃し、絶命させた。

「やれない事もないわね」

 その撃破に手応えを感じたシルビアは、ニヤリと笑ってそう呟いた。

 しかし、余裕すらも感じ始めていたシルビアのその心情は、次の一瞬で改められる事になる。

 離れた場所に居るサクラが、シルビアの居る場所に例の空間斬り、次元斬を放った。

「――ッ!」

 自分の周りの空気が冷たくなるのを肌で感じ取り、急いでその場から離れるシルビア。退避方法を考えている暇など無く、彼女は反射的にバク転を選ぶ。

 その結果、斬り刻まれる事は避けられたものの、怪我をしている両手を強く地面に着けてしまい、その痛みを更に悪化させてしまった。

「痛……」

 満足に銃を握る事すらも難しくなり、迫り来るヴァンパイア達に舌打ちをする。

「ちょっとシルビア!大丈夫なの!?」

 離れた場所に居るシャルロットが、シルビアの様子に気付いて声を掛ける。

「問題ないわ――って言ったら嘘になるわ」

「はぁ!?」

 シルビアの弱気な発言にシャルロットは顔をしかめ、道中に居たヴァンパイア達を避けながら駆け寄ってくる。

「どうすんのよ!今更謝ったって許しちゃ貰えないわよ!」

「許して貰おうなんて思っちゃいないわ。何がなんでも、奴は叩き潰すわ」

 シルビアはそう言って、自分の銃をくるりと縦に半回転させ、グリップの方をシャルロットに向ける。

「使いなさい」

「……はい?」

 その時、二人の背後にヴァンパイアが忍び寄る。

 二人はお互いに位置を入れ替えながら、それぞれ目の前のヴァンパイアに回し蹴りを放つ。

 そしてシルビアは背を向けたまま、銃を背後に居るシャルロットに上から投げ渡し、シャルロットもまたそれを見もせずにキャッチした。

「そういう事なら、また借りるとするわ」

「壊すんじゃないわよ」

「壊さないわよ……」

 背中合わせになっていた二人は、再び離れて戦闘を始めた。


 銃を手放し、洗練された蹴り技を用いてヴァンパイアを迎撃していくシルビア。二丁の祓魔銃を巧みに扱い、ヴァンパイアを殲滅していくシャルロット。

 シルビアは隙を作る事に専念し、シャルロットはその隙を生かして確実に銃弾を叩き込む。

 精鋭とも呼べるヴァンパイア達であったが、二人の連携には敵わなかった。

「(やはり敵いませんでしたか……)」

 壊滅状態である配下のヴァンパイア達を見て、サクラは哀しそうに溜め息をつく。そして、ゆっくりと歩き出す。

「よくやってくれました、あなた達。後は私がやります。下がりなさい」

 皮肉などではない、優しい声調。それを受け、忠実なヴァンパイア達はすぐに動き出した。

 しかし、視線はアルベール姉妹から外さずに、二人をじっと睨み据えたままだ。

「中々聞き分けのある良い子達ね。実力も申し分無いわ」

 一方こちらは皮肉を込め、嫌味っぽい口調。勿論、シャルロットだ。

「ふふ、その程度の挑発で動じるようにはできていませんよ?シャルロットさん」

「あらあら、それは残念ね」

 シャルロットは鼻で笑う。既に勝ちを確信しているのか、その笑みには余裕が見て取れる。そんな彼女の態度に、シルビアが釘を刺そうとする。

「シャル――」

「あぁはいはい、わかってるわよ……」

 それも返事だけであり、態度を改めるような様子は無い。そんな二人を見て、サクラは穏やかな表情でくすくすと笑った。

「相変わらずですね、あなた方は」

「……うるさいわね」

 恥ずかしそうに、コホンと咳払いをするシルビア。サクラはそのままの表情で続ける。

「ですが、あなた方の実力が確かな事に間違いはありません」

 そこで、サクラの雰囲気がすっと変わる。

「――私も、全力で挑まさせて頂きます」

 その発言と同時に、サクラの両目が深紅に染まる。

「ここからが本番って事かしら……?」

「そのようね……」

 余裕の笑みを苦笑いに変えるシャルロットと、直面した面倒な事態に思わず溜め息をついてしまうシルビア。

 サクラは深紅の瞳で二人を見据えながら、刀の柄を手を伸ばした。

「いざ……参ります……!」


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