プロローグ
満月の夜。
暗い森の畦道を、一人の少女が息を切らしながら走っている。寝間着姿で靴すらも履かずに裸足のまま、何かを大事そうに抱き抱えながら。
長い間走り続けている足の裏はもう既にぼろぼろであり、走る度に痛みが襲ってくる。綺麗なセミロングの金髪も汗や土で乱れているが、少女は何かから逃げるように走り続けた。
その時、背後から、低い雄叫びのようなおぞましい声が聞こえてきた。
少女の顔が恐怖に歪む。そして、走るスピードを更に上げる。
「急がないと……急がないと!」
自分に言い聞かせるようにそう呟き、足の痛みに耐えながら暗闇の中を駆け抜ける。
疲労が限界に達し、思わず倒れてしまいそうになったその時、正面の暗闇に微かな光が見えた。
最後の力を振り絞り、その光に向かって無我夢中で走る。その光は、教会らしき建物の窓から漏れているものであった。
なんとかその教会の元に到着したが、同時に身体が限界を迎え、建物の外で前のめりに倒れてそのまま気を失ってしまう。背後から断続的に聞こえてきていた雄叫びは、少女が教会に到着したと同時にばったりと消えていた。
気を失った少女は、苦しそうな表情でうなされている。
そのすぐ横には、少女が両手で抱き込むように持っていた、派手な装飾の十字架が落ちていた。
満月の光を受け、その十字架は怪しく輝いていた――