0杯目 ある町の隅っこ
自分の住んでいる町をひと言で伝えられないもどかしさ。
どこに住んでるの?と聞かれたら、ある町と答えるが、ほとんどの人が描くある町ではない。
ある町の隅っこであるが、ある町の山奥でもない。
東京の田舎に違いないが、日本最大規模のニュータウンの中のある町なのだ。
自然に囲まれ、建ち並ぶマンションも駅近で、なんでも揃っている便利さだが、説明にはどれだけ不便なことか。
私は、そんなある町で生活を再開した。
この町の開発が始まり、駅の近くにいくつもの新しいマンションが建設され、新築マンションへ人が移り住み、この町が新しい住民ばかりだった頃、私も同じようにこの町へ移り住んだ。
スーパー、階段、マンション、学校、交番、駅、バスの通ってないバスターミナルもみんな新品。
そして、新品の建物の隣にはいくつもの空き地が工事を待っていた。
1棟、また1棟と新しいマンションが建つ。
1軒、また1軒と新しいチェーン店がオープンする。
そうやってこの町は大きくなり、中途半端な開発のまま時が過ぎて行った。
大人になった私は、どこに行くにも不便なく、なおかつ静かな都内に引っ越した。
住宅街の人々が寝静まった深夜が大好きだ。
大地の呼吸が聞こえてくるような、大都会の静けさ。
数時間もすれば、人々が目覚め、もの凄いスピードで物事が動き出す。
無機質な中に小さな温もりを見つけるような。
そんな大都会で自由気ままに、人生ぐるっと一回り走り抜け、そろそろ二週目に差し掛かった頃。
なんだか再びこの町へ戻ってきた。
ある町の隅っこに。
久しぶりに戻ってみると、あの頃と変わらない懐かしいお店やマンションにほっとして、新しいお店にワクワクする。
小さくてもこだわりのあるお店が好き。
この前まで住んでいた街は、少し歩けば、小さなカフェ、お洒落なレストランやバー、器屋さんなどこだわりの個人店がいくつもあった。
住宅街に、ぽつり、ぽつりと。知る人ぞ知る小さなお店が散らばっていた。
こんなお店を求めて、ある町の隅っこを探索し始めた。
が、すぐにここはそんなお洒落な町ではないことを目の当たりにする。
チェーン店がいっぱい。
チェーン店時々お洒落なお店。
こんなにも、この町に安堵感を感じるとは思わなかった。
ある町の隅っこが心地よい。
あぁ、私、好きなんだなぁ。ここが。
探索してみよう!この町を。