7月8日 ~その4~
「さて、これからどうしましょうか」
これからの行動を決めるため、俺達は一度、家に戻ってきた。鮎川も、よほど暑かったのだろう、冷房の前に身体をさらけ出し、さらにうちわを使って吐きだす冷風を全部自分の物にしようと躍起になっていた。
「とりあえず、おまじないが本当にあったことは確認した。あとは」
「それを、天璃ちゃんが本当にやったかどうか、ですか?」
「そういうことだ」
「それじゃあ、今からその秘密基地の方に?」
「そのつもりだ」
夜になってしまっては暗くて短冊など探せやしない。まだ、日が昇っている今の内に秘密基地に行かねば。
「先輩、私も行きます!」
冷却は済んだ鮎川もやる気十分と言った様子だ。だが、
「いや、あそこには俺一人で行く」
「え、なんでですか! 一人より二人の方が探し物は見つかりやすいはずです。まさか先輩、この期に及んでまだ思い出を……」
「そうじゃない。お前には天璃の方に行って貰いたいんだ」
「天璃ちゃんの方に、ですか?」
そろそろ、何かしらの問題が起きていてもおかしくないはずだ。鮎川にはそのサポートに回って欲しかった。
天璃ことは鮎川も気になっていたのか。特に反論もせずにこくりと頷いて同意してくれた。
「もしも、なにかあったらお互いに連絡を取るようにしましょう」
「わかった。そっちも天璃に少しでも変化があったら教えてくれ」
「了解しました。それじゃ、今後の予定も決まったところで、早速行きましょうか」
再び外に出て、鮎川は学校、俺は天文山へと向かう。学校までは道が同じなのでそこまでは一緒に行き、学校に着いたところで鮎川と別れた。
「……そういえば、あいつ体調不良だって言って学校サボったんだよな?」
このまま、学校に戻って大丈夫だったのだろうか。
「ま、なんかあったら連絡してくるか」
今はそんなことを考えている場合ではない。それよりも、やらなければならないことがある。
「待ってろよ、天璃」
天文山を登り、森の入り口へ向かい、それから数十分歩いて俺は秘密基地へとやってきた。この炎天下の中、歩き続けていたせいで少し疲れてはいたのだが、そんな疲労は秘密基地に着いた瞬間、あっという間に吹き飛んだ。
「不思議だよな……」
真夏日だというのに、ここはいつも涼しい。そういえば、パワースポットみたいなところはどこも涼しいと言うが、ここがそうなのだろうか。
「ま、そうなんだろうな」
天璃のことが本当なら尚更だ。
さて、本当はここでゆっくり風を感じながら昼寝でもしたいところなのだが、そういうわけにもいかない。
そのまま、湖の方に歩いていく。
「ここに、天璃の短冊があれば……」
天璃はここに来て、願ったことになる。
湖を覗き込んでみる。風に揺れる水面からは、水の底がよく見えた。まるで、ファンタジー世界の映画のように透き通っている。
「これはこれで、不思議なもんだよな」
そう思いながら、目を凝らして短冊を探す。願いが叶っているのであれば、短冊は岸に近いところにあるはずだ。
そこに狙い目をつけながら、湖の周りをぐるりと回っていく。森の奥にあるおかげで人工物が沈んでいることはない。これなら比較的早く目的を達成することが出来そうだ。
「ん?」
半周ほど回った辺り。水の中に、ピンク色の紙が沈んでいるのを見つけた。
静かに腕を伸ばしてその紙を掴みとる。水に長時間浸かっていたせいで紙はだいぶふやけてはいたが、なんとか文字を読み取ることは出来た。
そこに書いていたのは。
「やっぱり、そうなんだな……」
天璃の文字で『私がこの世から消えてなくなりますように』と、書かれている。
それはつまり、あの異変は本当にあのおまじないが引き起こしたもので、そして、この願いは天璃自身が願ったもの、ということになる。
「……」
わかってはいたものの、こうして現実としてこの短冊を見るのはすごく辛い。だって、ここに書かれていることは天璃が心から願ったもの。本心なのだ。
しかし、俺は首を振った。
ここで認めてはいけない。目を背けてはいけない。
鮎川と話して、俺は実感した。鮎川に自分の過去を話したことで、俺の中でも少しだけ整理がついた。
今までずっと、俺はしっかりと彼女と向き合って来なかった。壊れることを恐れて、これ以上、自分の罪を重ねたくなくて。
あの時からなんにも変わってない。七海が死んだ時から何一つ。
「今度は、ちゃんと向き合うんだ」
そうするって決めた。でないと、天璃がこのまま消えてしまう。天璃に謝ることも出来ないまま。天璃の夢を叶えてやることも出来ないまま。あいつはこの世から消えてなくなってしまう。
それだけは、どうしても阻止しなければならない。
「行こう」
天璃と、ちゃんと話をするために。




