死因はロリ断じてロリコンではない。おそらく
突然現れたそれは二tトラックだった。車体は緑で統一されており真横から見ると会社のロゴマークの狐がプリントされていた。運転手は気づいていないのか横断歩道を渡っている小学生には目もくれずさらにスピードを上げていく。このままいけば少女の体など一瞬で吹き飛んでしまうだろう。俺は大声で小学生に逃げろと、トラックが来ていると、必死に伝えた。しかし激しい雨音のせいか少女にまるで伝わっていない。
そしてさらに最悪の展開がここで起きた。叫んでいる俺を気にしてか道路のど真ん中で止まってしまったのだ。間違いなく直撃コースである。あと数秒もすれば交通事故が発生し一人の小学生の人生は終えるだろう。助けようとしたある高校生が原因で。おいおいふざけんなよ、これじゃ俺のせいみたいじゃないか。どうする逃げるか?どうせ誰も見ていない、いま逃げればもしかしたら少女は助かり俺は無事に高校へ行けるかもしれない。そうなのだ、あの少女が勝手に信号無視した結果ではないか。俺は関係ない、それに今日を越えれば夢にまで見た大学生活が待っているのだ。すでに新居は見つけて家具も購入済み足りないものといえばアニメグッズを買いなおすことくらいだろう。そうだ、ここで逃げれば、、、、きっとうまくいく
本当にか?
「くそっ」
言葉を吐き捨てかばんと傘を放り投げながら前方の少女に向かって走る。
ここで逃げれば全てはうまくいくはずなのになぜ自分は少女へ向かって走っているのだろう。
俺は走る。すでにトラックと少女の距離はほとんどない。だが走った。なぜだろう、この時俺は確固たる証拠はない、自信もないだがなぜだか助けたいと思ってしまったのだ。普段のパシリとして勝手に鍛えられていた脚力にいまは感謝をする日がこようとは。トラックが先か俺の手が届くの先かコンマ何秒かの違いである。
俺は願った。今の一度も祈ったことのない神という存在に。祈ってしまったのだ。
ーこの少女を助けてほしいと。随分身勝手な言い分だ。普段は無神論者のくせに、こんな切羽詰まった場面や危機的状況に陥ると誰も彼もが救いを求めてしまう。なんと哀れな存在だろう。そして現時点を持ってそんな哀れな存在に仲間入りである。
結果とは常に予想を超えるものである。なんと願いはすぐさま形となって現れた。トラックがぶつかるより先に俺の手が少女の背負っているランドセルに手が届いた。瞬間力の限りランドセルごと少女を腕の力だけで後方へと力の限りぶん投げる。少女は驚いた表情でこちらを凝視している。少女の姿が視界から消え代わりに視界に移るは鉄の箱。近くで見るととんでもない大きさである。いままでの思い出が駆け巡る。これが走馬灯というやつか死ぬ前にいい経験だな。色々あったが最後にいいことができてよかった。こんな何の意味もなさない人生の最後に価値ある人生にすることができたのだ。両親も誉めてくれることだろう。どこにいるかは知らないが。
そして俺こと城ヶ崎美鶴の人生は交通事故二tトラックとの衝突により死亡のはずだった。ここでも奇跡が起きた。奇跡とはこんなにも起きていいのだろうか。少女を投げた際に遠心力で体に当るはずだった。場所が微妙にずれたのだ。今の位置は上半身は少女とともに後方へ移動し逃げ遅れた下半身のみがトラックに当ることだろう。一生車椅子になるかもしれんが仕方ない命があるだけでも儲けものだろう。今日この日ほど死を覚悟した日は無いだろう。そして今日ほど生に対して感謝した日もないだろう。
素晴らしきかな我が人生!ハレルーヤ!
■
そして俺はここで驚異的な確立を引き当てることになる。
宝くじで一等が二回連続で当ったり俺目掛けて隕石が飛来し当る確立よりもさらに高いのではないだろうか。ここで三度目の奇跡、いや神のいたずらとしか思えない事象が起きた。
ここから俺の意識はあいまいになっている。痛みは無かった。何が起きたか分からなかったが鈍い音が二回重なるように聞こえた。はるか後方へ見える下半身そして道路へと広がる赤い液体。俺は上空へと投げ出された。断頭台で首を切られたのち数秒は意識が残るという。まさしく今がその状況だろう。重く閉ざされようとしているまぶたを必死に開け状況を確認する。俺の真下にはトラックがいた。しかしそれは俺が身を呈して少女を助けた際に入れ替わりに視界に入ってきたトラックではない。対向車線からいつのまにかきていたもう一台のトラックである。少女を助けるとき気がつかなかったのか?思えば今日の出来事は全てが出来過ぎていたように感じる。
いつもは起きない時間に起き、どしゃぶりの雨が降り、少女が飛び出すのに誰も助けようとしない。むしろこの空間に人の気配は感じなかった。そして突如現れたトラック二台を見落とすなどありえない。今日起きた全ての出来事が重なり合い城ヶ崎美鶴という人間を殺そうとしているかのように思えた。
まぁ、今更ながら大学に行ったとしてもどんなに流行に合わせて服や家具を買ったとしても過去を忘れて未来に託したとしても城ヶ崎美鶴という人間は変わらないのだ。現在から目を背け続けありもしない未来に逃避し続けている。人間は簡単に変えられない、自分が変わりたいと思うことが出来ないからだ。否定してしまえば今までの人生を自分自身を殺すのと同意義だからだ。だからあの時助けにいったのは彼女のためではない、決して。
価値のない自分の人生に。
無色透明な自分自身に色をつけたかったのかもしれない。ただ一度だけでも誰かの役に立ちたかったのかもしれない。無意味な人生を意味あるものにしたかっただ。
いやそれはないか。いやぁ、死ぬ前ってのは色々考えてしまうんだな。我ながらしょうもない事を思いながら死ぬんだな。不思議と笑いがこみ上げてくる。
必死にこらえていたがついに限界が来たようだ。
あの少女は助かることが出来たのだろうか。
今となってはわからないか、こうして俺がトラックに轢かれているのだから結局の所無意味だったんだろうな。
暗転する世界の中で最後に見た景色に移っていたのは
怪我一つない先程の活発で無邪気な笑顔を浮かべていたツインテールの少女ではなく、身体から何か黒い靄のような物が全身を覆っており全体像を掴むことが難しくただハッキリと血走った眼球だけは見えており、無機質にそして路傍の石を見つめるような感情がなくただこちらをジッと見つめているソレは俺が死ぬのをただ見ていた。