魔王降臨編1
「皆の者、聞くがよい」
そう高らかに数人しかいない私たちに
注意を向けさせるために叫ぶ。
背は170㎝ほど中肉中背、この時代には珍しい黒髪。服装は豪華絢爛な王族が着るような衣装ではなく、白のシャツに黒のパンツだけという明らかに起きてから着替えていない格好。
そう、不本意だが彼がこの魔王城の主、
魔王様なのです。
申し遅れました私の名はミリアと申します。
とあることがきっかけで一ヶ月前から
この魔王城でメイドとして働いています。
ミリアと御呼びいただいて結構です。
正直な話、魔王様を慕っているわけではありません。
むしろ敬える部分が欠片も見当たらない事が唯一の長所というかなんというかここに来た初日に「仕えるのならとりあえず様をつけてもらえると嬉しいかな」という意味不明な理屈をなぜか鵜呑みにしてしまい今日に至るわけで。
さらに言わせて頂くならメイドという肩書きに不服を感じています。
元々私は冒険者ギルドの依頼を受け、この樹海一帯の調査でここに来たわけでそれがなぜか樹海の中央あたりにいきなり現れた自称魔王城なるこの屋敷で住み込みで働くことになるとはいやはや、人生何が起きるか分からないものですね。
こんな朝から魔王様が私たちを集め、
話を始めようとしていますがそもそもなぜ魔王様ごときの話を聞かなければいけないのか
時間は早朝起床するあたりまで戻ります。
早朝私は起きました。自室の窓から外の景色を眺めるとそこは一面高さ数十mはあろう樹木の密集地帯その樹海には光は届かず、上を見上げても颯爽と生い茂る樹木の葉で太陽は見える気配がしません。
時たま、フォレストバードという体長13mの全身が緑で覆われた怪鳥を食している樹海の掃除屋フォレストイーターが触手で絡め取った魔物を手当たり次第に自慢の消化液で溶かしてる光景を見て今日も変わりませんねー、と一人呟き、朝の日課の準備のため、動きやすい服に着替えます。
いつもの日課である基礎運動を行います。まず魔王城を出て、周辺を走ります。走りながらこのあたりに住んでいる魔物の方に挨拶をします。一番近く集落に住んでいるのはゴブリンですね。皆はすでに起きていて農作業をされています。私が挨拶すると一度作業を止め、九十度近く頭を下げてくれます。そこまでしなくてもいいのにと思うのですが一向に直そうとしてくれないので諦めています。
次に近い集落はリザードマンですね。彼らもすでに起きていて集団戦闘の訓練に明け暮れているようです。教えている身としては最初に比べて格段に連携がうまく取れているようで嬉しいですね。一人一人の動きを確認したり連携の際の合図などの指示を軽く行いその場を後にします。
こうした各集落の様子を見ながら、走った後素振りを行います。まずは自分の身体が覚えているのを確認しながら木刀を下段中断上段袈裟切り逆袈裟切り脇構突きの基本的な動作のちいくつかの型をを繰り返します。そして最後に残心で心を静めます。朝に鍛錬を行うのは実に清々しい気持ちになれるので一日の中で割と好きな時間かもしれません。
基礎運動が終わったので台所へ行き朝食の準備をします。なぜ私が用意するのかむしろ私も料理の経験が乏しく、お世辞にもおいしいものは作れないのですが今魔王城にいる彼らよりはましというなんとも高評価なのか低評価なのかあいまいな後押しをもらい作っているわけですがどうしましょう・・・・・とりあえず焼きますか。
そのとき
廊下の向こうから寝癖だらけで目元には目ヤニがこびりついて口元はよだれがたれているまさにいま起きてきたであろう魔王様がこちらに走ってきて
「おはよう!ミリアこれから、緊急会議だ!大広間集合、遅れるなよー」
とこちらの意を介さず言いたいことだけ発して走り去ってしまう魔王様。
いつにもまして忙しい人だな、と一瞬だけ考えてその後は朝食作りを再開しました。
今日は朝ごはんはジャイアントマッシュと闘鶏卵のサラダとフォレストディアのロースを塩で焼いたもの
我ながらほぼ調理してないなぁと思いますがまあいいでしょう。
朝食の支度を終え、配膳をしていると不意に声を掛けられました。
「よぉ、朝早くからご苦労なこったな」
なんでも魔王様と一番面識があるというこげ茶色のまっすぐな髪質でぼさぼさ感があり髪の長さが所々均等ではないのが逆に特徴の私より頭二つ分ぐらい背の丈がある人物ライオスがぶっきらぼうに話してきました。
「一応、メイドなるものやらせてもらってますからね」
「俺はすぐにもお前が尻尾巻いて街に帰ると思ってたんだがな。嬢ちゃん」
「帰ったところであそこに居場所なんてないですしね、それに案外ここにも慣れてきましたし」
ライオスはけっ、と軽く睨みながら朝食のあるテーブルへ行き用意した朝ごはんを食べ始めました。
「あんま、うまくねぇな」
よかった、ライオスのこの台詞のときは黙々と食べるときの台詞ですね。まずいときは無言でどこかへ行ってしまいますしね、初日のあれはさすがに絶句してましたが。
「あれ、ステラ知りませんか?」とライオスに尋ねる。
こちらをギロっと睨みながら知るかと言おうとした矢先彼の右肩に何か重い物がのしかかる。
「うおっ、このくそガキ!いきなり現れて肩にのしかかってくんな!」
「ふみゅう、眠い」
彼の肩を枕代わりにしている少女が先ほど私が所在を尋ねた少女で名をステラ水色の長髪と水色の瞳があいまって彼女の美しさを相乗させているのではと感じてしまう。今彼女が着ているのは明らかにサイズの合っていないだるだるの服でありかろうじて右肩で服が止まっている感じですね。というかそれ魔王様の服ですよねなぜステラがそれを?
「今日はいつにもまして眠そうですね。何かあったんですか?」
「徹夜したぁ」
「あらあら無理は禁物ですよ」
「いい木材が手に入ったから、製作意欲に熱が入った」
これでとりあえず全員揃いましたかね。
先ほど作った朝食を黙々と食べながら次は何をしようかなと考えていると
大広間から魔王様が来られ
「なんで誰も来ないんだよ!魔王が来いって言ってんだよ!?来いよ!ばかぁ」
とほぼ半泣き状態で現れたのでした。
完全に忘れてましたね。