囚われの御姫様―セコ〜ンド
私は只の人形に過ぎなかった。
あのお城では何もする事がなかった。
広い空を眺める事も、地を蹴る事も、人と話しをする事、そして笑うことさえも叶わなかった。願うことすらできはしなかった。
そこに自由はなかった。
それがどんなに悲しい事なのかを知る事が出来たのも彼のおかげだったのだ。
〜牢獄に閉ざされた少女の心〜
「これより、披露宴を執り行います!!」
司会の男が会場いっぱいに響き渡る程の声で叫んだ。
「なあ、なあ、もう飯食ってもいいかな。俺うまそうな物見てたら急に腹減ってきちまったんだよ。」
「駄目に決まってるでしょ。全く、もっと年上らしくちゃんとしてよ、注目浴びるでしょうが!!」
「2人ともお願いだから静かにしてよ。(それに注目なら最初からずっと受けてるからね。」
会場の端で行われているこの会話は周りの人達からしたらかなり遜色があるようだ。
他より年も若いということもあってその感じは一層強く注目の的であり、そんじょそこらの人なら叩き出されている所であるだろう。
だが、それは叶わぬのだ。どれだけ彼等にストレスを感じても彼のお供の者となると簡単には行かなくなる。
「なんだか皆さん済みませんね。あの者達にもこういう場を経験させてみようと思い連れて来たのですが、なんだか粗相のない様で。彼らには明日はこの様なことのないように言っておきますので。」
「いえいえ、構いませんよ。貴方が来てくれただけで十分なのですから。」
「そう言ってもらえると有りがたいです。」
確かに普段彼はこのような場に招待こそされるもの行きはしないので、それ故に彼と直接会って話す機会など滅多に来ず、それだけで価値があるのだ。
「ところで、クロロ氏はどちらにいらっしゃるのでしょうか?一言挨拶をしておきたいのですが。」
「彼ですか?今は裏に控えさせています。呼びますか?」
「ええ、お願いします。」
彼と会話していた年配の少し腹の垂れて来ていた男は近くのウェイターに話しかけると一分としないうちに呼ばれた男がやってきた。
「お久しぶりです、ジョーカー殿。」
「ああ、久しいね。クロロさん。」
ジョーカーとクロロは握手を交わしながら言った。
「では、貴方達もそう暇ではないでしょうから僕は彼らを宥めてきます。」
「できればまたお会いしたいですな。」
「ええ、近いうちに。」
仮面のしたの彼の顔はご機嫌そうに笑みでいっぱいだった。
「おい、お前ら。騒いでないでちゃんと花嫁の方も見ておけよ。」
「わあ、ばばっでるよ。」
「口にもの含んで喋らないでよ。」
「お前ら少し静かにしていろ。目立つのはしょうがないとして煩くするのは止めておけ。俺は気にしないが周りの者が気になって仕方がない様子だ。……次騒いだらお仕置きするぞ。」
彼の最後の脅しもあってそれなりにスムーズに進んで行き、パーティーは終わりを迎えた。
「さて、お前ら突然だが今日のパーティーで何か感じたことはなかったか?」
とあるホテルの一室で三人を集めて彼は切り出した。
「そういえば、今日の所は何か息ぐるしかったかな。閉そく感もあった。」
「確かにそんな感じはしたわね。」
皆同意の意である。
「フフッ、あそこは格式やしきたりに厳しい所があるからな。まあ、その答えでも上出来だよ。では次の質問だ。お嬢様はちゃんと見たか?どう思った。」
「言われた後見て見たけど、若くて綺麗?というか幼くて可愛いって感じだった。新郎の方は三十も半ば程に見えたけど。」
これも皆共通しているらしく、二度三度と頷いた。
「それに、花嫁の方はどう見ても楽しそうでは無かったわね。」
「あそこの家で生まれた姫は三つ頃になると、お城に閉じこもらされての教育が始まる。主にテーブルマナー、敬語、下の者への態度などあらゆる方面から指導を受けるらしい。親には会うどころか写真を見ることも叶わないらしい。そうして出来た心の掛けた人形を十五程の歳で他国との結び付きに用いる道具として使っている。だけどな、その子も夢をもっているのだ。外を走ったり、空を見上げたり、なにより思いっきり笑いたいそうだ。人目を気にせず他者の顔色を伺ったりせず自由に生きてみたい、……分かるか?一見も二見もほんの些細な夢に見えることかもしれないがそれは当たり前で暮らしている者だからこその意見だ。彼女にとってはこの心が月並みのような発想なんだ。」
斜め上に固定されていた顔を正面に向け直した。
「この件は数日前に城の人間から頼みと一緒に聞いたものだ。………今回は軍のことは全くと言っていいほどまでに関係性が薄い事、つまり只の俺の私情だ。これで最後の質問だ。お前らは御姫様救出作戦に参加するか?」
「お前がやりたいんだろ。だったら俺はやるぜ。」
光輝が即答する。
「ここまで聞いて黙ってられないわね。結婚相手国のロリオジどもに女の子の強さ見せてやるわよ。」
彼女も気合い十分である。
「で、お前はどうする?ここで留守番しててもかまわないんだぞ。」
「はぁ、俺だけ行かない訳にはいかないだろ。行くよ。行けばいいんだろ。……ったく(もっと適任の人なんて沢山いるじゃんか)。」
エディには不満も残っている様だ。
「自分を卑下するのは悪い事だとはっきり言うことは出来ないし悪いとは言わないが、あまり自分を低く見積もり過ぎたりはするなよ。もっとお前は自惚れろ。でないとその内自分を見失う事になってるやもしれないぞ。今回はお前だからここに連れて来たんだ。………隊長を呼んで来い。」
2人は程々に聞いていたので何だ何だと目を丸くしているがエディは急いで隊長の部屋へ向かって行った。
エディは最近自分の事で悩んでいる節が少しあった。
それもそうかもしれない。エディもまだ子供である。だが、子供においてはかなり強くいると思っていた。自分が周りの者より劣っているのは年が離れているからだと言い聞かせていた。
だが、そうでないかもしれぬとも感じ始めてきたのだ。
まずは彼の入隊である。最初こそ卑劣な手で掛かってきたけれであるが、一年たった今でも彼には勝つどころか放されて行く感覚さえしてくる。それも、彼の方は日中部屋で事務的活動に比べこちらは四六時中訓練にも関わらずである。
でもそれはまだ彼が天才だからだと納得しうることが出来ていた。
そこでの彼女の登場である。
彼女は最初こそもたついていたが、その壁も数月もすると超えてしまいそこからの急成長は彼を除いた皆が驚いたことだ。最近では彼女と供に訓練に励んでいると気を少し抜いただけで放されてしまう程まで差が開いてきた。
自信もなくなってきても不思議ではないと言える。
そして、今彼は、彼が自惚れろと言った。下にみすぎるなと言われた。
自分でなくてはいけないのだと言ってくれた。
自分に何があるのか聞きたい気分ではあったが、目頭が少しあつくなってきて見透かされた様に言われて泣きそうになりながら飛び出して行った。
彼は自分がここにいていいのだと、ここで必要とされているのだと思い少し安心していた。
「隊長、あいつはここからですよ。これからは今まで以上に頼みますよ。」
「ああ、分かっている。あいつは子供の出来なかった俺にとっては我が子のようなものだからな。いくらあなたが止めても気にしますよ。」
「クフフッ、頼みましたよ。今はまだ小国を相手としているので問題になってませんが、これから先の大国を見据えるとまだまだですからね。」
「ああ、それも分かっている。」
そう思っているつもりだよ。
貴方は何も分かっていない。何が我が子のようだ。年老いた主観を持ったりしやがって。
物事を総体的に捉えることの出来ない貴方には無理ですよ。
貴方の先は知れている。