2章 戦場の少女
AとBは時間の軸が一年程ずれています。
ある日戦場で一人の女の子が生まれた。
そして、その子の親は戦場から逃げだした。
だが、その国はその様な行為を許しはしなかった。
すぐに追ってはやってきて必死に逃げて逃げて時には闘いまた逃げて、そうして幾つかの年月を越え身も心も芯から疲れ果て、遂に捉ってしまった。
無情にも少女と供に戦場へ送り込まれた。
生き残る為に一心不乱に戦ったが、それでも戦況不利に進み続け敵の集団に追い詰められた。
「私達は構わない。でも、この子だけは。」
親は武器を捨て、少女を背の後ろにやり相手に頼み込んだ。
周りの者はざわめき二つに分かれた。殺せという者助けて上げようと言う者。
だが、その中から現れ躊躇なく2人の親を撃ち殺した者が出た。
そのものは背は低く、漆黒のマントで全身を包み頭には何を思ったかきつねの面をつけ不敵に笑っていた。
そして、絶命寸前の虫の息でボロボロの体の2人を見下ろせる程まで近づいて肩を抱き、震える子供を一見し、声を出した。
「お前らの願いは受け入れた。親切としてこの子の世話も見てあげましょう。……安らかに眠れ。」
親は最後に子供に笑顔を見せ、息を引き取った。
子供は涙を流しながら、仮面の少年に睨みを利かせた。
親の死に際に涙をながし、親を追い詰めた母国を恨み、こんな目に逢わなければならなかった数奇な運命に不条理を覚え、戦争を作り、親を追い詰め、あざ笑うかのような顔を見せ見下しながら視線を向けた少年に怒りを感じた。
普通に暮らしたかっただけなのに、わずかな幸せで良かったのに……。
そうか……君の涙は怒りなんだね。
美しいね…ああ、美しいよ。今空に瞬いているどの星々よりも君の涙をいつくしく感じてしまう。
その瞳の向かう方に僕はいつまでもあり続ける様に……。
それから数年が経った。
「むむむ、嫌な夢を見ました。……この夢を見たって事は殺しに行かなくちゃあなりませんね。」
彼女の名はエレナ、世界征服を企む悪の国の住人
そんな彼女が大きなお城の中で目を覚ましました。
「今日こそは殺ってやります。」
まだ、日が顔を出したばかりの夜と朝の境界の時間に静かに部屋を抜けて行った。
バン!!
「覚悟し……ろっ。」
ドアを開けて勢いよく少女が部屋に入ろうとしたが部屋に一歩踏み入れた直後、上から網が降ってきた。
「なんのっ、これしき。」
横に跳躍してかわし、次に目の前から数十もの刃が飛んでくる。
「はっ!!」
ガキキキキィィン、
腰のベルトにつけられた鞘から柄がなく、細身の白い短剣を取り出し全て弾く。
彼女のとり出した剣はこの城専属の変態武器製造者の師匠が世に残した10本の刀の内の一振りで名を『白月』と言い、その切れ味は熟練の者なら鉄でさえも両断し、軽さも短剣であるので申し分ないのだが、リーチが欠点であり、使おうとする者がいなかった一品で彼女が目を付けるまで埃を被るほど眠っていたというか、忘れ去られていた。
「御命貰った!!」
一瞬でベットまで走り、膨らみのある所に短剣を刺す。
「手応えが…」
ドウン、キィィン
「残念でした。俺は後ろだよ。」
銃を片手にドアに体を傾けて口を吊り上げて不敵な笑みを少年は向けていた。
「フフフッ、まだまだ精進が足りんな。俺を倒すには3か月早かったようだぜ。」
「三か月って、もう直ぐそこじゃないですか。」
「当たり前だ。お前の親は戦場では有名な化け物だったんだぞ。その血を引いているお前も当然のことながら化け物なのだ。人間が頑張ってどうにかなる境地である達人クラスに俺はもうなってるんだ、お前ら見たいに超人になれる奴らと一緒に考えようと言うのがそもそもの間違えであってだな。」
しかももう俺は不意を突かなければ延命出来んほどだぞ。絶対ここに住んでいる奴らは俺の弱さを見くびっているよな。
「フフッ、分かりました。……三ヶ月後までに覚悟してなさい。」
ふっ、甘いな。この城には限られた奴しか知らない逃げ道があるんだよ。それにかくれんぼは俺の十八番だぜ。三か月たったら戦ってやんないよ。
「それにしても、どうしてここにくることが分かったですか?ちゃんと殺気はもちろん気配も殺して監視カメラにも気をつけたのに。」
「ん、それはな。お前の部屋のプライバシーを俺が持っているからだ。例えばだな……嫌な夢を見ました、とかな。」
あら、何か下を向いて震えだしたぞ。はてな……あ、しまったかも。……逃げよう。
「……待ちな。お前の命は此処で終わらしてやらあ。」
ヤバい。……死んだかもしれん。
今日も暗殺は失敗に終わってしまった。
初めの内は今よりずっと簡単にボロボロになるまでやられていた。
あの人はかなりのサドで女の子にもお構いなしで、私が出会って来た同年の男の子は本気で殴ってきた事なんて一度もなかったのでめちゃめちゃ痛かった。実は彼と私は同い年らしい。
来る日も来る日も襲いかかってはやられるのを繰り返していた。その内見かねた戦闘部に入っていた女性の人が先頭しなんをしてくれた。
この時は全然知らなかったけど、見かねたのは確かだけど鍛えるようにいうのは彼だったらしい。
彼は今でも憎いし許したくはないけど、私は今の暮らしが親と一緒に逃避行していた時以上に気に入ってしまっている。
皆と笑って時には泣いて、ちょっと変わった世界だけど何よりも望んでいた幸せを見せてくれた彼に今は素直に感謝していたりもしている。
そして、歯車は回り出す。
押せば外れてしまうような歯車だけど、今日も今日とて回っていた。