自作自演と手駒
『J、相手が少し大きな倉庫のような建物に入って行きました。』
やはり相手は馬鹿か。こいつ等のやってるのは唯のゲームだ。不良と変わらん。否、武器を持ってる分達が悪いか。
……仕方がない奴等だな。
「見張りはどうだ?」
間髪いれずに返答がくる。
『上に窓が二つあり、そこにそれぞれ二人と入口の前に一人、中に恐らく2人です。』
「大きめの車が入っているとしたら多めに考えてどれぐらいの数になりそうだ。」
『……?多くて5台位ですかね。出てくるとしたら左側にあるシャッターからになりそうですけど。』
「君らはそこに待機して、援護を呼んでくれ。その間に足を使って逃げようとしたら止めておけ。」
そこで通信を切った。
配置は三か所、総数はそんなにいないだろうに、見張りは7人。素人もいるかもだな。……それと中に民間人もいるかもしれないな。
………よし、それで行こう。
「な、…なぁ?」
隣に座っているエレナが声を掛けてきた。
「なんだ?」
「今…いったい何処に向かってるんだよ?」
今、彼と彼女は現在進行形で車を使い移動中であり、彼女が彼の指示で運転している状態だ。
「レジスタンスの所だ。否、正確にはレジスタンスが向かう所だ。後、面白いものも見れるぞ。」
彼は平然と言ってしまうが、彼女にはハンドル操作を誤りかける程に動揺が走った。
「え…っと……どう、して?」
「………そうだな、お前には話しておくか。全てではないが、まぁ大体は。」
そしてアレクに通信を入れた。
『隊長、……後方の人達はもういりません。……消して下さい。』
『……ああ。まかせておけ。』
次だな。
『援護の者はまだか?……そうか、では合流と同時に中に入れ。恐らく中に数十の民間人がいる。抵抗するものは打ち殺せ。だが、なるべく捕まえろ。隅にでも固めておいておけ。では頼んだぞ。』
ふぅ、疲れるな。でも次で最後だ。
「レジスタンスの方々、先の者だ。先ほどは僅かでも信頼の程、どうも有難う。」
『…君か。今、僕らはこれから君の言うように移動する所だ。』
「ああ、そうでしたか。その件について今良い事、否悪い事ですか。分かりましたので。此処はもう一つ信用して話しを聞いてもらえないでしょうか?」
向こうの方がざわついているのが、通信機越しでも十分に伝わってきた。
そして音が止む。
『一応聞くだけなら聞いてみよう。それでも良いかい。』
「ええ、構いません。それにしても向こうも中々やるみたいでしてね。どうやらそこの外で待ちかまえているらしいのですよ。今出て行けば全員捕まります。」
向こうがまた騒がしくなる。
『くっそー、やっぱり罠だったんだよ!!』『俺は最初から怪しいと思ってたんだよ。』『お前等がいらん事するから俺達まで巻き込まれたんだぞ。』『あんなやつの事聞くんじゃなかった』
やはり関係の無い人もいたのか。それも賛成でない者。否、そうじゃないかこういう奴は成功すれば喜び失敗すれば避難する、一般の模倣のような態度だな。これで俺の考えは台無しか。言う手順を間違ったか?そんなこともないか。どのみちこれは言わなければならないことだったのだ。聞けば騒いだだろうからな。電話が難しいってのが良く分かったよ。
『…これから、俺らはどうしたらいいんだ。』
とても弱い声で聞いた。
自分で考えろと言いたい所だがそれでは駄作しか思い浮かばんだろう。ふ、任せておけ。
「この作戦、又私に対する賛成、反対は大いに結構。しかし、現状は従っておくのが吉では?そして、この作戦には人数制限があるので生き残りたい者だけを募って下さい。時間がないので一分後に連絡しますのでその時までに。』
「待機って言われてもやっぱり暇だね〜。」
敵を追ってきたのはいいもののその後は手持ち無沙汰になっていた。
「黙ってみはっとけよ。敵が出て来たらどうすんだ。レイを見習ってみろ。ちょっとは見習え。」
ずっと人形の様に固まっている完璧な態度にここまでしなくてもいいと思い言い直した。そして、本人は意識していないが、暇を感じていたのだろう。黙っていろとは言ったが、いつもより饒舌になっているのだ。
「もうフラップは固いのよ。それにしてもJは本当に人使い荒過ぎ。」
「何だ。お前は反対派なのか?」
数年経った今でも彼を悪く思う者もまだ残っているのだ。
「べっつにー、私はこの隊好きだしね。基本的に餓鬼は嫌いだけど。彼はそんな感じじゃないし。」
(お前自分の事分かっていってんのか?それとも同族嫌悪とかか?)
ドッバーーーン
「何だ!!」
彼らが会話に興じていると突然、倉庫の壁を突き破ってトラックが飛び出した。
ドシュッ、
だが、レイは冷静にタイヤの片側を二輪打ち抜き転倒して止まった。
「今ので居場所がしれたかもしれない、移動するぞ。」
流石と言うべきか判断も早いが直ぐに切り替えが出来るのも素人との相違か。三人はすぐさま離れた。すると、数秒後に元居た場所で爆発が起きた。
「危なかった〜。あ、車がまた出たよ。」
十数秒後に出て来た車の運転主を三人で射殺する。ハンドルを切らない車は壁にぶつかって変形して止まる。
「今度は逃がさんぞ。」
三人の左から銃弾が飛んでくる。咄嗟に横に逃げたがそれでも全部は交わしきれず、一番左の位置にいたフラップは四肢に受けた。幸い右手と左足は動かせたので壁の死角に入った。
そこからは暫くの間敵との睨み合いが続いたがそれにも時間が来た。
『雷汞設置したぞ。』
良し、中々の手際だな。それにしても、良くそんなものがあったな。まぁ、驚きはしないが…。
「では、3人を残して退去だ。三人は徐所に下がり、相手の増援部隊が来たら地下に潜り西に進め。分からなければ水か風の流れてくる方だ。煙でも出せば分かるだろ。」
三人を残して他の者は変形した車を拾って去って行った。
「……よし!!デトネーション。」
彼の合図で爆発が起きた。
ふう、どうなったかな。こちらから聞くのはおかしいから連絡を待つしか無いのだが…、
『報告があります。』
来たか。
「何だ。」
『レジスタンスと抗争があり、隊員三名が重傷を負いました。又、レジスタンスを一部逃がしましたが、大多数を確保しました。』
…どういうことだ。爆発の規模がそこまで広くなかったということか?ちょうどこいつらの駆けつけてくる頃合いだった筈だが…現場を見ないことには何とも言えないな。下手な聞き方をする訳にもいかんし。
「車を三台手配させている。それに乗せてくれ。」
『分かりました』
三名…か。もっと重傷者が出ると思ってたが、ふぅ、中々得てして万事がうまく行くものではないな。
エレナとJはレジスタンスと交戦していた場所から車で20分程の所でまだ車を走らせている。
窓の外の光景は大分変って来ていた。
「面白い光景だろう。いろんな事を考えさせられる。」
一言で表すなら、スラムである。兎に角荒れていた。そして、ここら一帯にすむ人の全てがルソン人という訳でもないのだ。この町は社会の不成功者で構成されている。この国はかなり国境が緩くなっているので簡単に入ってくる。そして、金を稼ごうと都市部へ行き、そこで長時間労働低賃金を強いられ、潰れた先はこの町だ。この町の人数は今も増え続けているのだ。
ふと、横にいるエレナに視線をやると、少しぼんやりとしていた。
ふ、懐かしさでも感じているのか?お前の親と逃げていた頃にこういう風景を何度も見ていただろうからな。
世界を探せばこんな町、ここより酷い町等数多くあるだろう。ふふふ、こいつ等ははっぱを掛けても碌に動きはしないからな。…だから決めた、上を変えると……ふぅ、少し考え過ぎたな。
これからまだ一仕事あるんだから、冷静にならなきゃな。
「お前はここで待っていろ。」
二人はあれからさらに20分程車を走らせ、港に来ていた。
もう一度連絡を取り、今度は落ち合う約束をしたのだ。
そして、フード付きのロングコートを着てフードを目いっぱい被って、倉庫の中に入って行った。
中では既に皆がきていた。少し遠回りをしてきたのでおかしくはない。
まず、彼が中に入ると頭蓋に銃口を当てられた。
「何者だ。」
威勢の良さそうな女性が言った。
「この様な場所に明確な目的も無しに来る人等滅多にいないと思うのですが?」
彼は銃口を当てられても至って冷静である。
「じゃあ、君なのか?俺たちに指示を出したのは。」
「ああ、私だ。」
ここでこの場にいたレジスタンス9名はざわついた。
この中の者は彼の事を大概信用はしているが、批判の気で一杯であった。
それもそうだ。作戦に犠牲は付きものだが、彼の場合は犠牲のある作戦を二度も使ったからである。
だが、声事態は上がらない。上げれない。彼の作戦に乗ったのは紛れもなくここにいる者全員だからである。
「質問してもいいかな?」
「どうぞ?」
リーダーのオルターがそう言うと皆の眼が彼へと注がれ、銃口が外れた。
「君は一体どこのだれなのかな?」
最もな質問ではあるが、顔を隠して入ってきたものにこの質問も少しナンセンスではある。
「少なくとも生まれも育ちもここの辺りではない。しかし、この国に怒りを感じているのは私も同じだ。時に問うが、君達は何故今回この様な為にならないことをしたのだ。」
「それは、……」
「俺達に資金をくれてた奴に言われたんだよ!!」
隣で少し激昂気味にフランコが言った。
「君達は真意が分かっていて且今回の件に望んだのか?」
「ああ、…切られたんだろ。」
「ええ、そうだったのか!!あいつ等ー。」
フランコの怒りは上がった様だ。
成る程な。それで不良品な爆弾のわけか。それにしても、バックが消えた後だったか。新たに作るしか無いな。
「行動の理由は分かったが質問の答えとしては不十分だな。何故、この様な事をした。」
誰も答えない。
そして彼は中央へと歩んで行く。
「気付いていないのか?貴方達のやっていることは悪戯に過ぎないということが。」
「何が言いたいのよ!!」
銃をつきつけたラトが叫んだ。
「貴方達が今のまま幾等行動を起こそうと国は潰れない。変わる事はない。痛くも痒くもないからな。どうせ行動を起こすのならもっと大それたことをなせ、偉業をなせ、歴史に刻め。貴様らのやるべきことは暴動ではない。ましてや抵抗活動でも無い。国を潰すことだ。」
彼の物言いに一瞬たじろいだ。いや、畏怖や感嘆の様な形容しがたい圧迫感に気をされたのだ。
馬鹿にしようと笑い声を出そうとしたが、乾いた声しか出てこない。
「はっ、はっ、んなことできるわけねぇだろ!!」
「口だけならなんとでも言えるわね。」
「そうだ、何とでも言える。では、何故言わない。それはもうお前達の中で諦めを感じているからだ。何故諦める?まだ貴方達は何もしていないだろう。そして、俺もまだ何もなせてはいない。そこで貴方達の力を借りたい。手始めに貴方達の仲間を助けるために。」
この国が変わり始めた。
ひっさびさの更新やー。
これからは最低でも二週更新位にはしておこうと思います。
でも、大変っす。一度書きだすと5000字位あ、なんすけどな。
なんて思ったり、思わなかったり、では、又。