プロローグ「僕は狼だ。」
これは「狼になった。」の再編集版です。
未完ですが、そちらも読んでいただけると嬉しいです。
ポタポタと雨の落ちる音を洞窟の中で奏でながら梅雨の豪雨が外を荒い背景を作り出していく。
つめたく冷やされた空気が静かな洞窟内を充満した。
ジメジメと体にまとわり付く要な湿気が徐々に僕の体温を奪い、毛皮を濡らしていくのを感じる。
静寂・・・最早荒れ狂う雨の音すら僕の耳から遮断されるのは、ある意味必然的だったのかもしれない。
「・・・寒いなぁ」
冷えた体を温まるように、僕は体を丸めた。
全身に生え揃った毛皮のお陰で徐々に体温が上昇していくのが感覚的に理解出来る。
獣であるこの体は元人間として時々不便ではあると感じるが、その分色々と利点があるのを僕は知っている。
もこもこの毛皮はセーターを着ているようにとても暖かく感じるのだ。人間にはない装備だ、ほーれもこもこぉ。尻尾だってふかふかで暖かいのだ。
そう思い、ちょっとした狼のお得感を味わっていると、不意に自分の体に寄り添う獣の感触が毛皮から伝わってきた。
あぁ、彼女が来たんだなと僕は察した。匂いでわかる。
「・・・いい?」
「・・・いいよ。」
「ん。」
隣に座る許可を求め、その僕の返答にぶっきらぼうに答えた彼女だが、ブンブンと勢いよく振られている尻尾が僕の体をペシペシと叩いてきた。
こんな口調だが、彼女は大喜びしているのがよくわかった。うん、とてもわかりやすい。
そんな愛らしい彼女に、僕の尻尾も揺れてしまう。やれやれこれのせいで自分の感情がバレバレじゃないか。
「・・・寒いわね。」
「寒いね。」
「「・・・・。」」
彼女と僕の他愛もない会話はすぐに終ってしまうが、そのあとは居心地のいい沈黙が辺りを満たす。
暖かい・・・彼女といるだけで僕は癒されて、幸せになれるんだ。
彼女は人間じゃないけど・・・僕だって本当は狼なんかじゃない。
お互いがお互いに異種族なのだ。
それでも僕らは・・・・
「一年・・・ね。アンタが来てから。」
「一年だね・・・君に会ってから。」
「最初は変態かと思った。」
「ひどいなぁ。」
「でも優しかった。」
「やめろよ照れるぜ。」
「アンタはあたしを救ってくれた。」
「僕も君に救われた。」
「アンタはあたしを守ってくれた。」
「君は僕を強くしてくれた。」
「アンタがいてくれたから」
「君がいてくれたから」
「「僕は生きてる。」」
「「・・・・」」
ザァァァァァ・・・。
「被っちゃったね。」
「フフッそうね。」
「でも・・・これでいい。」
「えぇ。」
「うん。」
「・・・来てくれるわよね?」
「・・・うん?」
意識が遠のいていく。
「また、来てくれるわよね?」
「大げさだなぁ・・・」
僕から溢れる血が止まらない。
「いいから約束してっ」
「だから・・・大丈夫だって」
そんな泣きそうな顔をしないでおくれよ。
「いやよっ約束してっ!!」
「強引だなぁ」
やっぱり君は元気に怒鳴っている方が似合っているよ・・・
「ア・・ンタが、約束、守るって、知ってるんだものっ!」
「・・・君は僕を信じてくれているんだね。・・・僕は人間だよ?」
君の恨んでいた宿敵だよ?
「いいのっ!人間でもっ!獣でもっ!木でも石ころでも川の水でも雑草でも、アンタはアンタなんだからっ!!」
「い、石ころって・・・」
ひどいなぁもう。
「・・・僕を信じてくれているんだね?」
「・・・あたしはアンタを信じてる」。
「そっか・・・うれしいなぁ・・・」
お陰で涙が止まらないよ。
「・・・約束する。きっと会いにいく。」
「約束する。あたしはずっとここで待ってる!」
「・・・うん。」
「・・・だから・・・」
「わかってるよ。・・・僕は」
「あたしは」
「君を」
「アンタを」
「「愛してる。」」
静かに、雨雲の隙間から太陽の光が差し込んだ。
一ヶ月1更新です。
プロローグは短いですが本編は結構長めにします。