四年前の幕間
レダ、オルカ、エージス、ゾッド、ムールへ
念願の「船乗り」になった喜びはもう一段落したろうか。
一週間後のフライトを控えて、今頃心配性のオルカやムールあたりは、動悸がおさまらなくなってるのではないかと思う。
レダに引っ張られて、夜の酒盛りはやめてない気もするが。
君たちは、私の長い研究人生でも出色のチームだ。
研究分野においても、技術においても、性格においてもフォローし合うことができて、訓練タスクの記録を実に3割、塗り替えてきた。
その君たちをユティエスに上げるべきかどうか、私は長い間悩んだものだ。果たしてこんな危険と使命を託していいものだろうか。
ユティエスは、優秀な人間たちであればあるほど価値が上がるが、何度も話したように、そもそもの危険がけた違いに高い。存在が秘匿されてる上に、地上からの距離が通常の何倍も離れているために、一度事故が起これば地上から助けるすべはない。ましてや「無重力下の電離物性変化実験」は何が起こるかわからない。
今だから言えるが、君たちがそれぞれ別のチームを組んでいた時には、真価が発揮できなかったのだろう、「船乗り」候補に挙がることは一度としてなかった。
それが、レダとオルカが前のチームを抜けてチームメイトハンティングに乗り出し(あの時のレダの構内演説は未だに教員の中で語り草になっている)、まるで元素化合するようにエージス、ゾッド、ムールが加入してひとつのチームになると、途端に素晴らしい勢いでトップチームになった。
私は自分の目のなさを恥じたものだ。
人は、理解し信頼し合えればどれだけの力も発揮できるというのに。
ちょうどその頃に、宇宙開発にかかわる個別の動機を調べたことがあるのを覚えているだろうか?
確か君たちのチームが出来上がる直前だった。
他の候補生たちが「小惑星の鉱物の研究をしたい」とか「雷流圏のモデルを自分なりに改良したい」と書いてくる中で、君たちの動機は、まったくユニークだった。
それぞれが、
「行ける限り遠くに行ってみたい、見られる限りのものを見たい、そして電離物性変化で世界を変えたい」
と書いてきた。
私はそれを読んで、ひどく納得したものだ。
――この年になって恥ずかしい限りだが、私がそうだったから。
夢を見ることが科学の第一歩だ。
いつの時代でもそれは変わらない。もしかしたら科学だけではなく、全てがそうなのかもしれないな。
私が君たちに決めたのは、結局その「動機」だった。
どんな状況になっても夢を見られる、その剄さを、私は十全に信じる。
3年以上にわたるミッションが君たちの心も身体も疲弊させることは想像に難くない。
どうか無理をしないように。
「船乗り」は生きて還ることが最大のミッションだ。
戻ってくる頃、ちょうどレダとゾッドの誕生日あたりだろう?
君たちがクルーに決定した時の、あの台風のようなパーティを上回る大騒ぎを用意して、待ってるよ。
航海の安全を祈りながら
ワグナム
☆
【タブロイド紙:イエローマジック 東和歴138年4月第2週号の記事から】
『ないはずの宇宙兵器・ユティエスで宇宙事故!!??』
本紙の読者には既報だが、宇宙兵器『ユティエス』で大事故が起こったらしい。政府はユティエスの存在を隠ぺいしているが、本紙は地道な調査によって、ついにその関係者を突き止めた!
関係者の証言:
「ユティエスの事故は、太陽からの瞬間的な暴風のせいで、乗員5名のうち3名が吹き飛ばされ、残り2名が救助に走ったが、第2次の暴風で彼らも吹き飛ばされ、乗員は全滅。宇宙開発史上最大の事故と言えます。
そもそも、ユティエス内部では、細菌兵器の研究をしています。西側で侵食しているアマトティハトも、どうやらユティエスで遺伝子操作した細菌が誤って投棄された結果のようです。そういう意味では自業自得なのではないでしょうか」
本紙は、責任者の宇宙開発局次長・ワグナム氏に質問状を送ったが、締め切りまでに返事はなかった。その無責任な態度に、今後も本紙は追求していくことを決定した!
今まさに、乗組員のいないユティエスは暴走を始めている!
待て次号!