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僕の彼女は異世界人  作者: 藤乃叶夢
第五章 探索編
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第九十七話 狂い樹

 今俺達はユールの街を出てから半日の場所に居た。周囲は鬱葱うっそうと茂った森・・・では無く、木の形をした魔物に囲まれていた。


 「くそ!多すぎだろ?『空斬』『空斬』!」


 俺は剣に魔力を流して付与されている魔法を発動する。飛んでいく不可視の斬撃が木の魔物の枝を断ち切ると、少しだけ魔物の勢いが削がれた。


 「トーヤ!こっちの魔物は殆ど倒したわ!ここから退却するわよ」


 姉の声が聞こえた方向へと走り魔物の群れから抜け出す。見るとアリスとフラウも姉の後を必死で追いかけていて、俺が殿しんがりのようだ。


 「もう少しで狭い渓谷に出るわ!一列にあいつらが並んだ時に一気に殲滅するわよ?」


 先頭を行く姉の指示に従って追って来る魔物の群れを振り切らない程度に俺が囮になりながら進む。暫くすると俺の左右に切り立った崖が見えてきた、どうやら目的の渓谷に入ったようだ。


 俺は木の魔物からの攻撃をなんとか躱しながら渓谷の奥へと魔物を引き連れて進む、左右が崖で挟まれている所為か、流石に枝や根の攻撃をすべて避ける事は出来ずあちこちにかすり傷が増えてきた。


 「トーヤ、そろそろオーケーよ!」


 背後から姉の声が聞こえると俺と魔物の間の大地が隆起し、壁を作っていく。これは姉の槍に付与されている《大地隆起》の効果だ。

 壁の向こうから魔物達が壁に攻撃をしているのだろう、ガリガリと音が聞こえている。俺と姉は後退しながら1m間隔で土の壁を作り出していく。五枚ほど壁を作ると俺は『光(ライト』の魔法を上空に撃ちあげた。


 その光を合図に崖の上にアリスとフラウが姿を現した。今俺たちの居る場所よりも渓谷の入口に近い場所だ。ちょうど俺たちとで魔物を挟む位置に立ち上がると火属性の魔法を放つ!


 「『陽炎の息吹フレアバースト』!」 「『火の精霊王イフリートよその力で全てを灰燼と帰せ!』」


 アリスの上級魔法とフラウの火属性の精霊魔法によって木の姿をした魔物は焼き尽くされた。やっとこれで依頼達成か、俺は安堵の溜息をつくと燃えていく魔物の姿を眺めていた。


 「おつかれ~!流石トーヤ達だね。これだけの数の『狂い樹』達をこんな短時間で倒すなんて!ボク達の以前の仲間でもこんなに早くは無理だったよ?」


 フラウが楽しそうにパタパタと飛んで来て俺の頭の上に止まった。確かに正直に真正面から討伐に当たればあんな多数を一度に相手にはできないだろうな。


 「地形で丁度いい場所があったからだけどな。それより火が消えてきたら討伐部位を探そうか」


 俺たちはいまだにくすぶっている魔物達を見て、完全に消えるまで少し休憩を取りながらこいつを狩る事になった経緯を思い出していた。



 フラウと出会ってから今日で二週間が過ぎていた。俺たちは二日に一度は依頼を受けては狩りへ出ていた。ファレームと同じような魔物もいれば、全く見たことの無いタイプの魔物も居てなかなか刺激的な日々を送っていた。

 今日受けた樹の魔物もそんな見たことの無いタイプの一つだった。ギルドで何の依頼を受けるか見ていた俺達にフラウが一枚の依頼書を見て顔を顰めた。


 「ん?フラウどうしたんだ?」


 俺がフラウの表情に気付き尋ねた。フラウは「う~ん」と唸りながら一枚の依頼書を指差した。


 「『狂い樹』の大量発生?聞いたことがない名前だな、フラウこの依頼が気になるのか?」


 俺が聞くとフラウは依頼書を見ながら口を開いた。


 「うん。この『狂い樹』っていうのは厄介でね、一匹発生すると周囲の木々へと伝染していく疫病みたいな魔物なんだ」


 なんだそのゴキブリみたいな魔物は。俺は気になって続きを促した。


 「だから倒す時は火の魔法で焼却しないといけないんだけど、周囲が森でしょ?森林火災になったりするとギルドからペナルティを貰うし、一匹ずつ安全な場所に引いていけるような甘い魔物でもないから厄介なんだよ」


 俺はギルドへと挨拶した際、ギルド職員のフェレウさんに言われた規則を思い出していた。確かに世界樹を含む自然への破壊行為の禁止という事項だ。


 「あ~確かに言われたな。そりゃちょっと厄介だ・・・」


 「でしょ?!でもコイツ、早く討伐しないと更に周囲の木々に伝染するから討伐できるとギルドからの評価がすごい高いんだ!」


 それは厄介な依頼だなと思う、上手く倒せれば評価は良くなるが失敗して周囲に影響を及ぼせば逆にペナルティだ。俺は少し考えてからフラウに尋ねた。


 「フラウ、この依頼のあった周囲の地形を調べることってできないか?」


 俺の言葉にフラウはギルドの資料室に地図があったと答えたのでそれを見てから決めることにした。そして地図を確認していると近くに渓谷を見つけた為、ある作戦を練ることにした。


 そして、今に至るわけだが上手くいったのでフラウは上機嫌だった。俺たちもそうだが、随行しているフラウも評価は高くなる。取り分け、自然破壊の可能性がある依頼を被害なく達成できたのは妖精族に対しての好感度は上がるらしい。


 「トーヤ、囮お疲れ様でした」


 アリスは俺の隣へと来ると俺の傷を治癒魔法で癒し始めた。それを見ていたフラウは「あっ!」とバツの悪そうな顔をした。


 「ごめんよ、トーヤ。回復職ヒーラー要因なのに喜んでいて回復していなかったよ・・・」


 ショボンと頭を項垂れたフラウにアリスが首を横に振って答える。


 「気にする事はないですよ?私はトーヤの傷を癒すのを口実に一緒に居たいだけですし」


 アリスのセリフにフラウはキョトンとした後、何かがツボに入ったらしく楽しそうに笑っていた。二週間も一緒にいるが、フラウは何が楽しいのか良く笑っている。チームの雰囲気は明るくなっていいので特に気にしていないが、いったい何が楽しいのだろうと時折疑問に思う時がある。

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