第九話 彼女と魔法の特訓
翌日も昼はアリスは書斎に篭り、夕飯の後に魔法の授業を行った。
今日は魔法の基本について教えてくれるらしい、実際に使えるのはいつになるんだろう?早く魔法を使ってみたいものだけど・・・、そう思っているとアリスが元気に言った。
「今日は、魔法の基礎について実践です。難しくはないのでささっと覚えて実践しましょう!」
あれ?難しい事を延々聞かされるのかと思ったらあっさり終わりそうだ。
「魔法は基本的に魔力をそのまま放出することで発動できます。まずは見本です
『魔法弾!』」
アリスはそう言うと掌を上にしてそこに黒いピンポン玉ほどの魔法を浮かせた。
おお?何か魔法って感じがするな!何かかっこいいっ!
「これは初歩の魔法で『魔力弾』ですが、属性など何も無い状態の魔法を無属性魔法といいます、色が黒いですが無属性の魔法です」
そうアリスが話しながら魔法で生み出した玉を左右に動かしている、属性ってあれだろうか?水とか火とか。
「属性については後で説明しますけれど、体内の魔力をイメージで放出するとこうなります。この魔法もそれなりに魔力を込めて対象にぶつけると殺傷力がありますので注意が必要ですよ?」
そう言ってアリスは魔力弾を電話帳に投げつけた。
ズバンッ!!
鈍い音が鳴り響き電話帳の表面から数十枚が破けた!そんなに魔力を込めていなくてもこの程度の破壊力はあるようで、人には絶対向けないよう注意を受けた。
「空間魔法などはこの無属性の魔力を使います。生活魔法での水を出すものや、攻撃魔法で属性を乗せる場合のみ属性魔法として発動させるんですよ」
軽く説明を受けた後、魔法の種類についての講義も受けた。
基本となる無属性魔法、その他は火・水・土・風・聖・闇となるそうで、聖属性はアンデッドに高い効果があり、闇属性は姿を隠したり惑乱に使用することが多いそうだ。
また、魔法は放出系と内燃系とがあり、攻撃魔法や防御魔法などとアイテムボックスなどの便利魔法は放出系、肉体強化や知覚強化などは内燃系に分類される。
「まあ、学院でもないので難しい事は無しでいきましょう。魔法なんてイメージと実践あるのみです!」
アリスはとてもいい笑顔で言い切っている。主席がこれでいいのだろうか?疑問である。
「そういえば、属性で雷とか無かったけど雷って魔法で存在しないの?」
「雷は水属性の分類ですが存在してますよ?但し雷のみ発動ではなく嵐を起こし大雨と洪水を起こす魔法の副産物的なものとして起きるんですけど」
雷単独での魔法は無いそうだ・・・、この世界の科学知識あれば使えないかな?魔法が使えるようになったら是非チャレンジしてみようと心に留めておこう。
俺と姉は一先ず『魔力弾』を出す訓練を始めた。
結果、姉がその晩の内に発動できたけれど俺は三日後だった・・・。やっぱり姉のほうが魔法への適正が高いようだ。使えないわけじゃないけど放出系は姉のほうが得意らしい。
だが、俺は若干悔しいという思いはあったものの、やはり魔法が使えたという事実が嬉しくて、姉に追いつけ追い越せの精神で魔法に打ち込んでいった。
それから毎日のように魔法の訓練を行ったが、座学が何故か初日だけだった。とにかく実践あるのみ!の教育方針らしく兎に角実践をさせられた。
魔法は無属性の物から順に属性を乗せた魔法へと推移していった。攻撃魔法なんかは家の中では危ないということで、人気の無い林や牧草地まで車で移動して行った。
内燃系の魔法は全身に魔力を行き渡らせて基本的な運動能力を向上させる効果を持っていた。走るスピードが上がったり殴る力が上がったりといった感じだ。俺は内燃系の強化魔法が気に入ってそちらを重点的に覚えていた。
一ヶ月程繰り返した結果、姉は放出系に適正があり、内燃系はあまり得意ではなかった。逆に俺は内燃系が得意で、放出系はあまり上手くいかなかった。
「一ヶ月やってみてトーヤさんは内燃系が得意なようなのでそちらに重点を置いて練習していきましょう。高位の魔法も教えていきますので内燃系を極めるつもりで、放出系は初級は全て出来ているので中級魔法を覚えれるようがんばりましょう」
アリスから今後の訓練方針を伝えられた。やはりどうしても放出系は威力も精度も姉に敵わず、一歩も二歩も姉が先に覚えてしまう。
逆に姉は放出系は中級魔法までほぼ覚えてしまい、聖属性の回復呪文まで使い始めている。
俺は回復呪文はほとんど使えず、内燃系の体力や疲労を回復する事くらいしか出来ていない。
まあ、お互い得意分野を伸ばせばひとまずいいかという事で最近では姉も俺も納得はしている。ちなみにアリスは内燃系について知識はあるものの苦手らしい、放出系だけは上級まで使えるらしく一度だけ草原で使って見せてもらったが途轍もない威力だった。
こうして三ヶ月程お互いに訓練を行い、それぞれ得意分野の魔法がかなりの威力・精度になってきた頃、俺達の運命を変える出来事が起きた。
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