第八十七話 メッセージ
先王とお婆ちゃんとの話は二時間にも及んだ、時折親父の名前が出た際には若干先王の眉間に皺が寄っていたがそれ以外は楽しい会話だった。ふと、俺はアイテムボックスに入れたままにしてあったアルバムを思い出した。
「そういえば、俺達の世界には写真というのがあって・・・」
俺はそう言うと写真について説明をする、そして急に見せても驚かないよう注意してからアイテムボックスに入っていた俺達家族のアルバムを取り出した。
「おお!これは綺麗な絵じゃな。これがシャシンという物か」
先王やお婆ちゃんは目を大きく見開き驚きつつアルバムを見つめた。いや、それはアルバムの表紙の写真であって俺達の写真は中だから・・・。俺は苦笑しつつアルバムを開くと両親の写真や俺と姉の小さな頃の写真などを順に見せた。
「おお、紛れも無いリティアラじゃ・・・」
母の写真を見ると先王とお婆ちゃんは涙を流した、姉が生まれる直前の辺りの写真には両親二人での正装した姿が映っていた。これは親父の友達の社長さんが気を利かせて写してくれた結婚写真だ。この写真の頃はこの世界から離れて一年も経たない頃だろう、懐かしい姿にお婆ちゃんは涙をポロポロと流し、先王ですら目頭に薄っすらと光るものが見える。
写真とは便利なものだ、こうして二十年も会えなかった家族にすらその時の流れを見せる事ができるのだから。アルバムは徐々に姉が生まれた頃になり、暫くすると俺が生まれた頃へと移っていく。
「トーヤ、この頃は可愛らしかったのですね」
横に居たアリスがそっと俺に話しかけた、そういえばアリスにもアルバムは見せた事が無かったな。写真自体の存在は教えてのだが。後でゆっくりと見せてあげよう。
三十分程見ただろうか、アルバムの最後のページを捲るとそこにはこちらの世界の言語で何か書かれていた。もう数年ほど開いてなかったから文字が書かれているなんて覚えていなかった。
その文字を読んだ瞬間、お婆ちゃんは堪え切れなかったのか声を上げて泣き出した。ハンカチで顔を抑えソファーに崩れ落ちた。侍女が慌ててお婆ちゃんの傍へと駆けつけると横から支えながら介抱していた。
突然の事に俺達は慌てた、先王を見ると歯を食いしばりひたすら「すまぬ・・・すまぬ!」と繰り返していた。俺はアルバムを自分の方に向けると書かれている文字を読んだ。
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ー遠い祖国のお父様、お母様へー
祖国を離れて異郷の地へと来てから早十年の月日が流れました。このような文を書いてもお父様、お母様へ届かない事は分かっていますが節目という事で書きました。
お二人の反対を押し切り愛するベルドと旅に出た事、今でも申し訳なく思っております。ですが、こうして異郷の地で千秋、十夜という二人の子供に囲まれ暮らす日々は大変幸せです。
もう二度と会う事は無いとは理解しておりますが、願わくばこの想いがお二人に届きますよう遠く離れた異界の地にて願っております。
リティアラ・アクア・ファレーム
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どうやら母さんが自分の両親に向けたメッセージのようだった。
これを読んだのならそれは号泣もするよな、横を見るとアリスも姉も少し涙ぐんでいるようだ。俺はアリスへハンカチを渡すと改めて先王とお婆ちゃんの様子を見た。
どうやら俺達が読んでいる間に少しは落ち着いたようで、お婆ちゃんもソファーに座りなおしていた。俺は何と言ったらいいのか悩みながらも二人に声を掛けた。
「読んでの通り、母さんは幸せに暮らしていたと思います。そして原因は分かっていないけど、今この世界のどこかでまだ生きていると信じています。きっと探し出してもう一度お爺ちゃん、お婆ちゃんと会えるように探したいと思います」
俺の言葉にお婆ちゃんがまた泣き出してしまった。先王は俺の肩をガシっと掴むと「頼むぞ」と言葉を搾り出した。俺は任せてくださいと答えるとアルバムから両親の写った写真を何枚かお婆ちゃんへと手渡した。
「この写真はお二人で持っていてください。もう一度会えるときまで」
俺がそう言って手渡すとお婆ちゃんは大事そうに写真を胸に抱くと「ありがとう」と呟いた。
この後二人が落ち着くまでと席を離れ、その場には俺達三人だけが残った。
「まさかアルバムの後ろにメッセージが書かれていたとはね、数年ぶりに開いたし忘れてたわ」
姉がソファーで背伸びしながら呟いた。俺も忘れていたし当時はこっちの世界の文字なんて知らなかったからな、外国語かとばかり思っていたかもしれない。
「でもお爺ちゃんとお婆ちゃんが喜んでくれたようで嬉しかったな」
俺はそう言うとアルバムをアイテムボックスの中に仕舞った。
その日、落ち着いたお爺ちゃんとお婆ちゃんに誘われるままに晩御飯をご馳走になることになった。既に最初の頃にあったぎこちない感覚は無く、田舎に来て久々にあった祖父母との交流のような関係が出来つつあった。
途中、アリスとの関係を姉が喋ってしまったせいでお爺ちゃんから色々と聞かれてしまい俺もアリスも口ごもりながら説明するはめになった。また、俺達がBランクになった話になるとお爺ちゃんは
「どれ、三人の能力を確かめてみるかのぅ!明日暇なら儂の訓練に付き合うが良い」
と言われ、明日朝から訓練に付き合わされる羽目になった。隣でお婆ちゃんが苦笑しながら病み上がりなのだから無茶しないようにと言っていたが、どちらかと言うと張り切ったお爺ちゃんに俺達が限界まで鍛えられるのではないかという心配のほうが大きかったようだ。