第八十五話 建国物語
やっと休みで続きがかけます、お待たせして申し訳ありませんでした。
ともかく、政略結婚の話は置いておくとして先王が俺達に会ったときに嫌な顔をされる心配は無さそうだということだけは理解した、ただし親父に似ている俺を見るとどうかはわからないけれど。
「親族に当たる訳だから会うのは問題ないよ、後々まで関係を持つかは先王次第だな。俺としてはお婆ちゃんだけじゃなくお爺ちゃんが居るのは嬉しいんだけど、なんか立場がね・・・」
俺がそう言って頭をがりがりと掻くとお婆ちゃんが苦笑した。
「私だって先王の妻で王族なのだけどね」
「お婆ちゃんは学院でしか会ってないからなぁ。王族といわれてもピンと来ないんだよね、身近な感じというか」
俺の返事に優しく微笑んでくれる、身近と言われて嬉しいようだ。
「まずはハルディオス王に会って頂戴、変な事にならないように私が全力で守るから」
お婆ちゃんのその一言で会う事については覚悟を決めた、問題は転移魔方陣の使用許可にどう影響するかだ。先王に気に入られて使用許可が貰えるのだろうか?いや、身内に初めて会うのに打算的な考えは捨てよう、相手に失礼になるだろうからな。俺はそう考え転移魔方陣については頭から切り離して考えるように努めた。
「一先ず、転移魔方陣に関しては置いとくとして先王と会ってみるよ。これ以上悩んでいても時間の無駄だしどうせ今から会う事になるんだろうし?」
俺の言葉にお婆ちゃんは頷き、屋敷までの馬車を用意してくれることになった。そして三十分後、用意された馬車に乗り込み屋敷へと向かうときになって思い出したかのようにお婆ちゃんが俺達に言った。
「そういえば、あの人は昔から武術が得意でね、トーヤ達がBランクだと言ったらとても驚いていたの。もしかするとそっちの方向で気が合うかもしれないわね」
なるほど、王族といっても身を守ったり戦争に参加したこともあったのだろう。武術が得意というなら何かしら通じるモノがあるかもしれない。会ったとしても何を話したらいいか困っていたのでこの情報は役に立つだろうな。
「因みに、先王はどのくらいの強さだったの?」
馬車が屋敷に向けて進む中、俺は何の気なしに尋ねるとお婆ちゃんは楽しそうに言った。
「若い頃はギルドでSランクと言われてたわ」
「「えぇ?!Sランク?!」」
俺と姉は今日一番驚いたと思う、強いといっても程度があるだろう。Sランクって一騎当千の強さを誇るランクだよ?なんで一国の国王がそんだけ強いんだ!アリスは知っていたのか驚いていないようだ。
俺達の悲鳴に驚いたのか一旦馬車が止まって御者が何事かと聞いてきた。お婆ちゃんは何でもないと言うと御者は首を傾げながらも戻って行った。
「なんで国王がSランクに?って思ったでしょう。トーヤ達はこの国の生い立ちについて学んだかしら?」
「いや、最近旅に出るために地理は覚えてたけど歴史は全く・・・」
俺が首を横に振って答えた、国の歴史なんて今まで知る機会も必要性も無かったので全くと言って良いほど情報を知らなかった。
「このファレームは先々代の王、つまりハルディオスの父親が建国した国なのよ。当然、国興しには魔物の討伐から隣国との小競り合いまで戦う機会は多かったのでしょうね。私とハルディオスが出会った頃は既にSランクと言われていたわ」
お婆ちゃんの言葉に唖然としながら聞いて居る事しか出来なかった。先々代からだとするとまだ建国から百年経って無いのか?すると横に座っていたアリスがお婆ちゃんの言葉を引き継いで話し始めた。
「そういえばトーヤ達に歴史って話した事なかったですよね。元々ここ一帯は古代竜の住処で人が住む事は出来なかったと言われています。その古代竜を討伐されたのが先々代の竜王と呼ばれる建国王です」
話をまとめると、この一帯は肥沃な平原だったらしいが古代竜の住処だった所為で手を出せずに近隣の国々が指をくわえて見ていたらしい。そこに先々代の王が古代竜討伐の条件に提示したのが現在のファレームの所有権だったそうだ。当然近隣の国からは当初文句も出たようだが、竜の支配地域から見れば六割程度で残りは周囲の四カ国に譲渡する事で話が纏まり、先々代の王は仲間と共に見事竜の討伐に成功したそうだ。
先々代はその逸話から『竜王』『建国王』などの呼称で呼ばれたそうだ。そんな王の息子だった先王も当然冒険者としての才覚に溢れ、若くしてSランクとなったそうだ。
「先々代の竜王様はSSランクともSSSランクとも言われたそうです。流石にそこまでは辿り着けなかったとしても、先王ハルディオス様もSランクに若くして成られました」
「私も若い頃はAランクまで行きましたけどね?息子達は嗜む程度しか武には打ち込んでいなかったのでそこまで強くなりませんでしたけれど。だからこそトーヤ達が現時点でBランクになったことに期待するかもしれませんよ?」
アリスの説明にお婆ちゃんがそう言葉を締めくくった。というかお婆ちゃんもAランクなんだな、魔法学院のトップを勤めるくらいだから当然かもしれないけど。
そんな会話をしていると馬車はお婆ちゃんの住んでいる屋敷へと辿り着いた。
初めてお婆ちゃんの住む屋敷を見たが、その屋敷の大きさに圧倒された。俺達に用意された屋敷ですら広いと思っていたのに、この屋敷はその数倍はありそうだ。
王都の中心部に近く、城ともそんなに離れていないような場所に緑に覆われた巨大な敷地が広がっていた。日本の皇居とかってこんな感じだったか・・・、木々と池が至る所にあって管理が大変そうだなとズレた感想を抱いていた。
馬車は門の前に立っていた守衛らしき五人組の手前で止まると、馬車の中を少し確認してお婆ちゃんと二言程度会話しただけでそのまま屋敷の敷地内へと進んで行った。小窓から外を見るとあちこちに庭師や警備の兵らしき姿を見ることが出来た。
敷地に入ってから数分は経過しただろうか、やっと屋敷の入り口まで辿り着いた馬車から俺達が降りると、入り口からずらーっとメイドさん達が並んで出迎えてくれた。