第八十三話 王位継承権
時間がとれず短くてすみません。
「あら、トーヤとチアキ。良く来たわね、今日はどうしたの?」
てっきり受付の人が戻ってくるのだと思っていたら直接お婆ちゃんが来たので驚いた。俺は少し慌ててお婆ちゃんに挨拶をした。
「おはよう、お婆ちゃん学院長室に居たんじゃないの?」
「丁度教員室に用があったので降りてたのよ。そうしたら受付の子が私を探してたの」
丁度よかったのでそのまま一緒に学院長室へと向かうことにした。今は時間が空いているから話を聞けるそうなので昨晩話し合っていた事を相談することにした。
「そう、Bランクになったのね。おめでとう」
お婆ちゃんは俺達にお茶を勧めるとBランク昇格へのお祝いの言葉をくれた。そして対面に座ると軽く溜息をついた。
「そうね、Bランクになったのなら危ないからと反対するわけにもいかないわよねぇ。本当ならこちらから人員を派遣して捜索させたかったのだけど」
そう言うとお婆ちゃんはメダリオンと大きな紙を巻いたものを御付の人に持ってこさせる。
大きな巻紙を拡げると、そこには俺達が持っている地図とは比較にならないくらいの精緻な地図が画かれていた。
「これは学院の所有する地図だから預けることは出来ないけど、これを見ながら今までの調査結果を教えるわね」
お婆ちゃんはそう言うと地図とメダリオンをテーブルに置いて今までに分かったことを教えてくれた。どうやらお婆ちゃんは東の隣国に人を送って方向を調べさせたらしい。メダリオンを渡してから十日くらいしか経っていないのでメダリオンを使っての調査はそんなものだろう。
また、俺達がこの世界に来てからメダリオンに気付くまでに四カ国に調査の人を送って調べたのだそうだ。北の隣国ガルスディア、南の妖精国ユグドラル、東のカーディル帝国、西のフォンゼウン。
少なくともこの四カ国については親父達についての情報を手にいれることは出来なかったそうだ。
あとは自分達でメダリオンを用いて方角を特定していくしかないだろう。この世界も広いだろうし獣人族の国や魔族の国に居るかもしれない、今は色々な場所でメダリオンを使ってみるしかない。
「それで、各都市に行くのに都市間転移装置使わせて欲しいんだけど。何とか頼めるかな?」
俺のお願いにお婆ちゃんは難しい顔をした、もし駄目だと言われると徒歩か馬での旅になるので時間がかかり過ぎるのだが・・・。
「流石に国が管理している転移装置を使うには国王や宰相に許可を得ないといけないのよ。今までトーヤ達の事は私で情報を止めていたの、でも国王や宰相に経緯を話してとなると少し面倒な事になるかもしれないわ」
国王か・・・、一応俺達の親戚になるのだから挨拶するのは問題ないけど謁見だとか儀礼がどうと言われると面倒な気がするな。病で伏せっている前国王は喜んで俺達と会いたいと言うだろうけどとお婆ちゃんは苦笑している。
「正直、魔族と結ばれて国を出奔したリティを今でも心配しているのは、私と前国王・・・つまりリティの両親である私達ね。あとは現国王でありリティの弟であるレオハルトくらいよ。それ以外の王族は側室の子である王の弟ハルティオ、国王の二人の子供達はそもそもリティの事すら知らないの」
成る程、つまり俺達の存在が明るみに出ると余計な王位継承権を持つ厄介者になるわけか・・・。
今の代なら現国王でいいが、次の代となると長女だった俺の母親の息子である俺が王位継承権第一位になる。現国王の息子や子供達から見ればどこの馬の骨とも分からない奴に継承権を持っていかれるわけだ。
「最初に話していたように、俺達は継承権なんて要らないから。そこを明確にしておけば面倒ごとは起きないんじゃないかな?」
俺がそう言うとお婆ちゃんは渋い顔をして首を横に振った。
「何処にも現在の体制などに不満を持つものが居るのよ、そんな人たちにとってトーヤは絶好の御輿になるでしょう?最悪王都の体制が揺らぐわ」
なんとも面倒な話になってきた、転移魔法装置を使いたいだけなのに。王や宰相に話を持ちかけるのはお婆ちゃんに任せて、最悪徒歩での旅になることは覚悟しなければならないか。
俺達の探索の旅は最初から大きな壁にぶつかりそうになっていた。
お婆ちゃんは一先ず前国王、俺から見るとおじいちゃんに相談をしてみるそうだ。そこから国王や宰相に話をするかどうか決めるので暫く時間が欲しいと言われた。
俺達は学院を後にして家へと帰る道を歩いていた。
「なんか面倒な事になってきたな、王位継承権とか貴族とか面倒な事に巻き込まれたくないんだよな。そんな事になるくらいならいっそ歩くか・・・」
「トーヤが王位継承権を得れば、私は次期国王のお后様ですね」
俺の愚痴にアリスが苦笑しながら冗談を言う、・・・冗談だよな?俺はアリスの顔を見ると澄ました顔で「冗談ですよ?」と返してきた。
俺が王子になるとか悪い冗談だ、変なことに巻き込まれないように注意しないとな。俺は溜息をつきつつ家へと帰った。