第八十二話 捜索方針
この世界に来てから四ヶ月近くが経とうとしていた。ランクもBになり大概の魔物には負けない経験を積んだと思う。両親を探しにあちこち旅をするのに丁度いいタイミングではないだろうか?
こちらに来た当初と違い、生き残れるだけの戦闘力を身につけたと思うし何より親父達を指していると思われるメダリオンもある。この四ヶ月で稼いだ金もかなりになったし、最初はわかっていなかった武器の性能も知ることが出来た。姉用の杖が出来たあたりで捜索の旅へと出発してもいい頃合だ。
昼食の後、俺達三人は食堂に残って今後の方針を話し合った。この国の地図と精度は低いが世界地図をテーブルに広げて三人で囲う。
「一番確実なのは各都市まで転移装置を使ってその都度メダリオンで方角を調べる事かな。今は一方向しか分からないけど、複数から方角を調べれば地域は確定できるし」
確か三角測量とか言ったっけか、名前はうろ覚えだが方法は合っていたはずだ。問題はこの世界地図の精度だな、詳細な地図なんてこの世界には無いしあっても軍事の機密という事で他国に出回る事は無い。どこの村までは特定できなくてもある程度でも分かればいいかくらいの気持ちで調べるしか無いな。
「まず、この国ファレームの王都から示した方角がこっち北西でっと・・・、あとは隣国のガルスディアと南の妖精国のユグドラル辺りから回るか?」
隣国のガルスディアはファレームと同盟国であり、この国の北に位置する国家である。妖精国のユグドラルは交易があり、南へ広がる森の中にある妖精族の国だ。まずは南北から計測してみてメダリオンが指す方向を特定できるか試してみることにする。国交がある国なら旅行者としてや冒険者として簡単に入出国が認められる、逆に国交が無かったり敵対国だと出国すら認められない場合があるのだ、なので計測結果で万が一敵対国を示した場合は調査は難航する事も考えられる。
「転移装置の申請はお婆ちゃんに頼むか、個人で出すと費用も時間もかかるって言うしなぁ」
国で管理している転移装置は基本的に交易品の輸出入や要人の移動に使われる、俺達みたいな冒険者は自分の足で向かうのが一般的な為、使用を許可される事は稀だそうだ。
「だとすると、お婆ちゃんに強力して貰わないとね。どうせお婆ちゃんにメダリオン預けてたんだし説明は必要だったろうけど」
姉の言葉に俺は頷く、まずはお婆ちゃんに会いに行ってメダリオンを返して貰うのと都市間の転移装置の使用に便宜を図って貰えるように頼まないといけないな。その時にお婆ちゃんサイドの調査の現状も教えてもらうことにしよう。
「それと、旅に出るのならこの家をどうするかも決めないといけないですよ?かなりの長い期間家を空けるとなると残されたバトラさんやララやリンちゃん、それにティアちゃんもどうするのです?」
「ん~、そこまで長い期間空ける予定は無いからなぁ。転移の申請通ってからガルスディア戻って来るまでどの程度かかるか次第だけど、このまま雇用継続でいいんじゃないか?」
もうティア以外は二ヶ月以上も一緒に生活しているわけだし、ティアも連れてきたばかりだ。拠点はあくまでここだし、このまま住んでいて貰っていたほうがいいだろう。
「まあ、明日にでもお婆ちゃんの所へ説明に行ってその後で四人とも話をしよう」
俺はそう言うと取り合えず食堂でのミーティングを解散した。数日中には魔道具屋のソフィさんから杖が出来たという知らせが来るだろうし、それまでに出発の段取りをつけないとな。
こちらの世界に来てからずっと王都周辺しか歩いていなかったから他の国へと行くのは初めてとなる、ガルスディアは人族の国だから文化は一緒だろうけれど、妖精国のユグドラルへ行くのは正直言うと楽しみなのだ。
夕食の後、俺はセバスさんだけに予定を相談しておくことにした。家の事を一番良く知っているのはセバスさんなのでメイド姉妹やティアの事を事前に相談しておきたかった。
「そうですか、ガルスディアとユグドラルへと・・・。都市間転送装置を使えれば年単位で留守という訳でもないでしょうから我々に任せて頂ければ何時帰って来ても大丈夫なよう維持しましょう」
「なんか申し訳ないですね。普段から冒険者として留守にしてばかりなのに、更に旅に出るなんて」
俺はセバスさんに頭を下げる、なんというか家主なのに家に居ないってどうなんだろうと負い目を感じているのだ。セバスさんはそんな俺に首を横に振って頭を上げるよう言うと言葉を続けた。
「なんの、以前勤めていたファレーム家も家主が不在は多々ありましたよ。レイネシア様も若い頃は冒険者の真似をしてよく家を抜け出しておりましたしな。家長が不在の際に家を守るのも執事の仕事です、トーヤ殿はお気になさらず本来の目的の為にご尽力くだされ」
流石この道のプロだけあってセバスさんは頼りになる。セバスさんの言葉に甘えて俺達は安心して旅に出ることが出来そうだ。くれぐれもララやリン、ティアの事を頼みますと再度頭を下げた。
翌朝、俺達三人は学院へと向かった。そういえば毎回アポ無しで言ってるけど大丈夫なんだろうか・・・。一応学院の受付に学院長へ用がある旨を伝えてお婆ちゃんの予定を確認して貰う。今更な感じがするが親しき仲にも礼儀は必要だろう。
確認の為受付の人が学院長室へと向かっている間、俺達は周囲を通る学生達を見ながら時間を潰した。