第八十一話 Bランク
この日、遺体を一箇所に集めて火葬した。生き残りの八人が泣きながら見送る中、亡くなった人達は土へと還った。俺は魔法で墓石を作ると、村人から聞いた亡くなった人達の名前を魔法で彫った。そして空き家となった家だが、このまま放置すると魔物の住処になってしまう恐れがあるので、全て燃やす事にした。
村から離れた場所で家が燃える光景を皆が涙で見つめていた。少女ティアもアリスに縋り付きわんわんと泣いていた。森への延焼が無いかを燃え尽きるまで確認した後、俺達は馬車を泊めて居た所まで歩くと、そこからは馬車に皆を乗せて依頼のあった村へと向かった。
村へと着くと村長へ事情を報告した。ゴブリンに集落が襲われた事とゴブリン達は全て倒した事を報告すると村長は沈痛な面持ちで生き残った八人へと声を掛けて励ましていた。
近隣の村へと数箇所立ち寄り三人を身寄りの人へと届けると、残った五人を乗せて王都へと帰った。内四人は神殿へと事情を話して暫くお世話して貰う事にして残ったティアと俺達三人は自分の家へと一週間ぶりに帰ってきた。
「ほえ~。トーヤお兄ちゃんたちって貴族様だったの?」
ティアは俺達の家を見ると感嘆の声を上げていた。俺は違うと訂正すると出迎えたセバスさんに事情を説明して預かってもらうことにした。まだギルドへの報告が残っている俺達はティアをセバスさんに預けてギルドへと向かった。
「トーヤさん、皆さん。依頼達成おめでとうございます、そして集落の件はお疲れ様でした。生き残った村人の世話までして下さった事、感謝いたします」
ギルドの受付にいくと何時ものマリナさんが対応してくれた、そして事情を報告すると神妙な面持ちで俺達にお礼を言ってきた。
「本来、魔物の襲撃で被害を受けた村や町へは後日王都から調査団が出てと非常に手間と時間がかかる作業があるんです。トーヤさんたちが処置して下さったおかげで時間も人もかなり助かりました。国へと報告しますのでお礼くらいは頂けると思いますよ」
俺は別に礼が欲しくてやった訳じゃないと伝えると、マリナさんはわかってますと微笑んでいた。
「さて、今回の依頼達成とゴブリンの討伐、村の生き残りの処置とでBランクへとランクアップさせる事にします。これで王都まで二十人程しか居ないランクへとなります、今まで登録した冒険者の中でも最速の速さですね。これからも頑張ってください」
マリナさんの笑顔に見送られ俺達はギルドを後にした。直ぐに家に戻ると中でティアとメイド姉妹のララとリンが一緒に出迎えてくれた。
「「「ご主人様、お帰りなさいませ!」」」
三人が並んでおり、揃って俺達に挨拶をしてきた。俺はびっくりしてララとリンに事情を聞いた。
「メイド見習いという事でしたので、いけませんでしたか?」
ララは失敗したかも?という表情で俺を見上げた、というか上目遣いで可愛いララに怒れるわけがないじゃないか。
「いや、間違っては居ないがティアはここへ来て初日だ。暫く環境に慣れるまでは二人でティアに色々教えてやって欲しい。俺達は冒険に出てたりで不在が多いからな。勝手に連れてきておいてあれだけど、面倒はララとリンで頼む。歳が近いから仲良くやってくれ」
俺がそう言うとララは嬉しそうにお辞儀をしてティアのほうへと向かった。
ララは賢い子だからティアにしっかりと教えてくれるだろう、俺はリンにティアをお風呂に入れさせるようお願いをして、セバスさんとララだけを呼んで彼女の境遇の話をした。
「成る程、あの若さでお辛い経験をなさいましたな。ララさん、理解っていると思いますがご両親についてや村についての話題は極力ティア嬢が話せるようになるまで決してしないように」
セバスさんが目頭をハンカチで押さえながらララへと指示していた。ララは頷いて「まかせて!」と元気に言った。リンへはララのほうから言って貰おうと考え俺達は久々の我が家で寛いだ。
この家も総勢七人になった、だいぶ賑やかになるなぁと物思いに耽った。お風呂からあがったティアはララやリンに案内されて家の中を教えて貰っているようだ。時折部屋の外あたりから三人の声が聞こえる。
昼食の時間になったので全員が食堂へと集まった。俺はティアに食事は全員で取ること、風呂は交代だが全員が使える事などを教えると皆揃って食事にした。
ティアは出てきた食事に驚いていた、基本昼は三品目、夜は五品まで増える時がある我が家の食卓の豪華さに驚いているようだ。暫く美味しい美味しいといいながら食べていたが、不意に口を閉じて俯いてしまった。
「ん、ティアどうした?」
俺が声を掛けるとティアは悲しげな顔で首を横に振った。
「ううん、お母さんやお父さんにもこんな豪華なご飯食べさせたかったなって・・・。ごめんなさい」
俺は席を立つとティアの頭を胸に抱き寄せた。
「ティア、辛いのは当然だ謝る必要は無いよ。感情を無理に抑える事は無いから、今は素直に悲しければ泣いていいんだ・・・」
俺が優しく言うと、ティアは俺にしがみついて泣き出した。つられてかララとリンも鼻をすすっていた。十分ほども泣いていただろうか、ティアは俺から顔を離すと照れくさそうにしつつ皆に謝った。
「ごめんなさい、食事冷めちゃったね」
俺は席に戻ると食事を再開した。
「気にする事はない。晩飯はまた色々作ってもらうから温かい内に食べるといいよ。うちのララは腕がいいからね、冷めても美味しいさ」
冗談交じりに俺がそう言うと皆から笑い声が上がった。ティアも鼻をすすりながらも表情に笑顔が浮かんでいた。雰囲気が少し明るくなった食卓はいつもよりちょっと賑やかになっていた。
「そう言えば、俺達さっきBランクに昇格してたよ」
食後の紅茶を飲みながら俺は皆に報告をした。この世界では未だにコーヒーは見つけれていないので食後は紅茶が主だ。地球からもってきたコーヒー豆もあるが数が限られているので食後には飲まないようにしている。
「おお!遂にBランクですか。おめでとうございます!王都でも数えるほどしか居ないのに流石トーヤ殿たちですな」
俺の報告にセバスさんは素直に感嘆の声を上げていた。ララとリン、ティアは何のことかよくわかっていないようで首を傾げていた。
「Bランクになってキリもいいし、只の依頼を受けたりじゃなくそろそろ両親の捜索に乗り出そうかと思っている」
俺の言葉にティアが手を上げて尋ねてきた。
「あの、トーヤお兄ちゃんたちもお父さんとお母さん居ないの?」
俺は頷いてティアに説明をした。異世界については触れないが、数年前に行方不明になっていて行方を捜している最中だという事を言うとティアは申し訳無い事を聞いたという風で謝ってきた。
「気にする必要は無いよ、もう居なくなってから二年半か三年経つからな。生きてるかも分からないけど、生死だけでも確認したくてね」
親を亡くしたばかりのティアに聞かせるには無神経だっただろうか?そう不安に思ってティアを見たが、ティアは素直に「生きているといいですね!」と俺を励ましてくれた。いい子だなぁ・・・。