第七十九話 ゴブリン3
この一体を倒せば終わりなのだと気合を入れなおして攻撃へと移る。ゴブリンのくせに大きすぎだろうあの巨体・・・。普通のゴブリンは120cm程度なのにこのでかい奴は2mを越えている。繰り出される攻撃は例え槌じゃなくても危険だ、だが格闘を習っていた俺から見れば素人的な動きにしか過ぎないのでしっかりと見てさえいれば当たる可能性は殆ど無い。だが野生的な本能か俺の攻撃も当たる直前で回避されてしまい一進一退の攻防が続いていた。
攻防に変化が訪れたのはアリスからの支援魔法だった、ゴブリンの目の前、接近しているので俺の頭上に連続で『光明』が灯った。突然の光にゴブリンが眩しそうに目を瞑った、その隙を逃さずに剣で顔先に斬りつけて目を潰しにかかる、剣を突き出して目を狙って数度突くとその内の一回が目に当たり片方の視界を奪うことに成功した。目を刺された痛みでゴブリンが大槌をやたらと振り回すので流石に一旦後ろに下がって回避する。
すると今度は姉の中級魔法がゴブリンへと突き刺さる。
「『炎の槍』!」
長さ2m程もある炎の槍を姉が放つとゴブリンへと真っ直ぐに突き刺さった。炎の槍はゴブリンの腕へと刺さると痛みでゴブリンが大槌から手を放してしまった。
これで致命傷を受ける心配が無くなった俺は再度接近して右手の義手で殴ったり左手の剣で斬りつける。やたらと斬りつけ殴りつける俺の攻撃から逃れるためかゴブリンは四つん這いになって俺に背を向けた、もう戦意を失いつつあるのだろうが襲われた村人や女性の事を考えれば手心を加えるつもりは毛頭無かった。
俺はまず足の腱を切断して動けなくした、そして両手を切り落として身動きが出来ないようにする。流石上位種なのだろう、ここまでしてもゴブリンは死ぬ事も無く地面へと這い蹲りながらもギィギィと喚いていた。俺は動けなくなったゴブリンを見下ろしながら姉とアリスに捕らえられていた女性達を連れてくるよう指示を出した。
姉とアリスは俺が何をするのか漠然とだが察したのだろう、何も言わずに女性達を閉じ込めていた家へと向かう。十五分か三十分も経っただろうか?怯えた表情の女性達が建物からゴブリンの転がっている場所へと集まってきた。体へは姉やアリスがアイテムボックスから出しただろう毛布やローブを羽織っていた。周囲をキョロキョロと見回していたがゴブリン達が死体で転がっているのを見てある程度状況が理解できたのだろう、目に涙を浮かべて啜り泣きを始める女性も居た。
俺のある程度近くまで来ると、足元に転がっている大きなゴブリンがまだ生きて居る事に気付いたのか数人が小さく悲鳴を上げる、俺は安心させるようにゴブリンを足の下敷きにすると女性達に話しかけた。
「みなさん、見ての通り集落を襲ったゴブリンは殲滅しました。家族を失われた悲しみはどう俺や他の人が慰めた所で癒える事はないでしょう。ですが、集落を襲ったゴブリンのリーダーであるこのゴブリンをせめて皆さんの目の前で止めを刺す事で、亡くなった方への弔いとしたいと思います」
ここまで話している間、村の娘達は俺を見て涙を流したりゴブリンを憎しげに睨んだりとしていた。そして俺がゴブリンを殺して弔いとする所まで話し終えると互いに顔を見合わせていたが、最後には全員俺の方を向いて頷いた。
「苦手な方は目を瞑っていて構いません、目の前で殺すのも俺の自己満足かもしれないから・・・。だけど、このゴブリンを殺すことで少しでも貴方達の憎しみや悲しみが軽くなればと思います」
俺はそう言うとゴブリンの背中に剣を突き刺す。ゴブリンは「ギィィィィィ!!」と甲高い声で喚き始めた。あえて致命傷は外して一撃目を入れた、二発目で心臓へと狙いを定めると止めを刺した。
村の女性達は目を逸らす事無くその光景を見ていたが、ゴブリンが絶命すると膝が崩れて地面へと座り込むとワンワンと泣いた。俺は何も言う事が出来ずに娘達が泣き止むまでじっと待った。
三十分程経った辺りで娘達が泣きつかれたのか鳴き声も小さくなった。俺達は八人を比較的綺麗な家へと入れると火を起しアイテムボックスから出したスープを温めて全員に配った。集落が襲われてから何も食べていなかったのだろう、全員がスープをあっという間に食べ終えると緊張の糸が切れたのだろう、ウトウトとし始めた。
俺達が見張っているから安心してという俺の言葉に、皆が一塊になって眠りについた。
俺は娘達をアリスと姉に見ているように伝えると、一人外へ出てゴブリン達の討伐部位である耳を切り落としにかかった。
討伐部位を切り落とす作業をしながら、さっきの俺のやり方は正しかったのだろうか自問自答をする・・・。結局目の前で殺す事は俺の自己満足なんだろう、だけどあれで一人でも気持ちに整理がつくきっかけになってくれればと思う。
俺が討伐部位を集めて家へと戻るとアリスと姉が何やら相談をしていた。俺がどうかしたのかと尋ねるとアリスが俺の耳に口を寄せ小声で言った。
「ゴブリンなどの魔物に乱暴された方達は高い確率で魔物の子を宿す場合があります。なので魔法で浄化したほうがいいのかと話し合っていたんです」
どうやら魔物に犯された場合でも身籠るまでの期間であれば魔法で浄化すれば体内に残る魔物の体液などを無害化できるらしい。
「念のため確認だけど、普通に人間の子を宿していた場合はその魔法は影響するのか?」
俺の言葉にアリスは首を横に振って大丈夫と答えた。もしかすると元々妊婦だった人が居たかもしれなかったのだが、問題は無いようだ。俺は頷くとアリスに魔法による浄化を行うよう頼んだ。
「これで集落を出てから数ヵ月後に魔物の子を宿していたんじゃ自殺しちゃうからな。浄化して後で皆に報告して安心させよう」
俺がそう言うとアリスは眠っている女性一人一人に浄化の魔法を掛けていく。後で詳しく聞くと、魔物に襲われた人が多いこの世界で編み出された魔法なのだそうだ。体内に残る体液などを無害化して魔物の子を宿したりしないようにというこの世界ならではの知恵なのだという。