第七十八話 ゴブリン2
余り悩んでいる時間も無い、時間ばかりかけて目の前で女性達が犯されるような事になったら正気でいられる自信が無いし女性達に申し訳ない。既に遅いかもしれないがこれ以上被害が出る前に潰さないといけない。
「よし、猶予があまり無いだろうから急ごう。まずは女性の保護だけど姉さんだけでいけそう?俺とアリスで雑魚を殲滅していこうかと思うんだけど」
俺の言葉に姉が暫く「うーん」と唸っていた。
「土属性の魔法で窓と入り口の所を土壁で塞ぐのはどうかな?アリスと二人で手分けすればそんなに時間はかからないと思うし、土壁壊してまで進入する暇無いくらいに暴れればいいと思うんだけど」
姉の提案に俺は少しだけ思案して頷いた。どちらにしろ時間をかけたくない、アリスと姉が作業し易いように近くのゴブリンは俺が出来るだけ仕留める事にして、準備が終わり次第殲滅する事にした。ほとんどごり押しの力技になるがゴブリンメイジが出て来る前には可能な限り仕留めたい。
「姉貴、アリス。建物への被害は無視でいこう、加減してやれる数じゃないし。もしかすると生き残りがいるかもしれないから全壊は避ける方法でお願い」
俺の言葉を合図にまずは女性達が捕らえられている建物へと向かう。一軒ずつ確認して中にゴブリンが居ない事を確認した建物からアリスと姉が魔法をかけていく。
一軒目、二件目と中にゴブリンが居なかったので直ぐに作業を進めていく、俺は三件目の様子を見るために窓から中を覗いた。すると、中から「ギィギィ」と鳴き声が聞こえる、俺が息を潜めて声のする方向を見るとゴブリンが一人の女性に覆いかぶさっている所だった。
俺は怒りの余り窓を叩き割って家へ侵入すると覆いかぶさっているゴブリンへと駆ける。音に驚いて顔を上げたゴブリンの醜悪な顔に蹴りを入れると起き上がる前に咽を剣で切り裂いて殺した。
しまった!今の音に気付かれてしまうかもしれないと後悔しながら、放っておけなかったのだ。俺は暴行を受けていた女性にアイテムボックスから毛布を取り出すと体を隠すように覆ってやった。
女性は二十代くらいだろうか、俺の顔を見ると目に涙を溜めていたが先程覆いかぶさっていたゴブリンを射殺さんばかりに睨みつけると俺に小さな声で懇願してきた。
「あいつらを・・・ころして!」
「わかった、すぐ助けに来るから希望を捨てるなよ?」
俺は頷くと直ぐ様窓から外へ出てアリス達と合流した、既に二件とも魔法で塞いだようで俺が窓から侵入するのを見て急いでこっちに来たようだ。
俺はアリスと姉に塞ぐように指示すると中であったことを伝えた。
「憎しみがある内はまだ生きていれるだろうけど、救出した後はケアしてあげないとな・・・」
俺は周囲の気配を探りながら誰にともなく言った。憎悪でも何でも感情がある内は生きれるものだ、何も感じなくなった時が一番危ないと俺は思う。こんな事件があれば他の土地に移っても周囲の目が気になって馴染めなかったりトラウマになってしまったりするだろう。この世界にそんな施設があるかは分からないが何とかしてあげたいな、と思ってしまう。
「トーヤ、作業は終わったわ。魔力量もそんなに減ってないから直ぐ攻撃に移れるわよ!」
アリスが何時に増して感情を顕にしている。やはり同じ女性が乱暴されているという光景は堪えかねたのだろう、殺る気のようだ。
最後の一軒を土壁で覆っている間、俺は窓ガラスが割れた音を聞いたらしき三体のゴブリンを倒していた、騒ぎを聞かれればどんどん集まってくるだろうし猶予は無いな。
「よし、リーダーっぽい奴がいるのはあの建物だ、そこへ向かいながら各個撃破!」
俺はそう二人に言い、刀を構えて駆け出した。俺に続いて二人も魔力を高めながら移動を開始する。数件の建物からゴブリンが這い出してくる、さっきの暴行されていた女性や殺された村人を思うと手加減は出来そうもない。俺は刀で《空斬》を飛ばすと怯んだ隙に二体の首を切り飛ばした。
横目で見るとアリスと姉の範囲魔法で一度に数匹ずつ消し飛んでいるのが見える、ゴブリンに上級魔法とかオーバーキルだろうに・・・。魔力量に余裕がある二人じゃなければ注意するところだけどあの二人なら大丈夫だろうと思い俺も自分の目の前のゴブリンを殺すことに専念する。
戦い開始から五分程で十五匹は仕留める事ができた、あとはリーダーらしい個体の居る方へと走って逃げていった。リーダーを含むとまだ二十三体か、まとまっていてくれたら範囲魔法で吹き飛ばして貰おう。
リーダーの居る家へと向かうがやはり殆どがゴブリンメイジの指示の元隊列を作っているようで、家の前に綺麗に並んでいた。俺は好機と見ると姉とアリスに叫んだ。
「アリス!姉貴!高威力魔法で建物ごと吹き飛ばせ!」
俺の言葉を理解してか、ゴブリンメイジが「ギィギィ!」と俺達の方を見て叫ぶ。すると十体のゴブリンが俺達に突進してきた、詠唱を止めようというつもりだろうが俺の姉とアリスはそこらの魔法使いよりも詠唱が早い!《空斬》で数体に傷を負わせている内に二人の魔法が完成した。
「『絶対零度!!』」「『地精霊の雄叫び』!!」
まずゴブリンを襲ったのは姉の作り出した極寒の嵐だった。地球育ちにしかイメージできない絶対零度の冷たさで全てを瞬時に凍らせる威力を持った嵐だ、そこら辺の魔物くらいでは防ぎようが無いだろう、見る間にゴブリンが氷の彫像へと変化していく。ゴブリンメイジは上位種だからか全身が凍っては居ないようだが腕や足が凍り付いていくのが見て取れる。
そして追い討ちで放たれたアリスの上位魔法で大地に亀裂が走る。大きく地割れを起すと隆起したり地盤が落ちたりとゴブリンの居る辺りの地面が破壊されるた。凍ったゴブリンはその衝撃に耐え切れずに砕け散りゴブリンメイジも地面の陥没や隆起に転倒して身動きが取れないようだった。
俺は地面の隆起に構わずにゴブリンメイジへと駆け出した。ゴブリンメイジは俺の接近に気付いたようだが魔法を唱える体制が整わないまま俺の刀で致命傷を負って地面へと沈んだ。
これでリーダーを残すのみという所で不意に頭上に殺気を感じた。俺は身体強化の力で横へと飛ぶとさっきまで俺が立っていた所へと巨大な槌が叩きつけられた!
あぶねぇ・・・一瞬でも遅ければミンチになっていた。俺は冷や汗を流しながらリーダーの個体へと対峙した。俺と対峙したゴブリンに対してアリスや姉から魔法が放たれる、ゴブリンは巨大な槌で魔法を叩き落すと近くに落ちている大きめの石をアリスの方へと投げつけた。精度は良くなかったらしく大きく逸れると近くの家へと着弾して大きな穴を開けた。
あんなのがアリスに当たったら死ぬと思った俺は投石の暇を与えないために接近戦を仕掛けた。