第七十七話 ゴブリン
案内の二人と共に馬車で移動する事三日、やっと依頼のあった村までたどり付く事が出来た。流石に三日も移動するとかなり疲れる。この世界の馬車って乗り心地悪すぎるよな・・・、俺は馬車から降りると肩や首を鳴らした。
移動中案内の二人が言っていた結婚はフラグにはならなかったようで村は無事だった。だが、村に近づくと案内の村人から外周に柵が増えたという変化があると教えられた。
「やはりゴブリンの目撃が更に増えたのかもしれないな、襲撃を恐れて柵を建てたかな?」
俺はそう言いながら村長の家へと向かった。村へ入る際、警備兵のような武装した人が四人程見かけた、どこかの街から派遣されてきたのだろうか?
村長の家へと辿り着くと中から壮年の男性が出てきた。どうやらこの人が村長のようなので俺達は挨拶して来訪の目的を伝えた。
「おお、ありがたいです。王都へ依頼を出しに二人を行かせてから更に目撃数が増えましてな・・・。もはや何時襲われるかと」
村長はそう言うと俺達を家の中へと案内しお茶を勧めてくれた。話を聞いていくと近隣にある村の一つと連絡が取れなくなっているのだそうだ。当然、ゴブリンが近くをうろついている状況なので人の行き来が無くなるのは当然なのだが伝書鳥を飛ばしても返事が無いそうだ。
「村に居る武装した衛兵っぽい人達はどこから?」
俺がそう尋ねると、王都までが遠いので念のためと衛兵が居る近くの街から派兵して貰ったそうだ。当然そっちの街は自分のところを守る為に兵力は残しておく必要があるため最低限という形で四人だけ貸してくれたらしい。
「だとすると探索に行っている間の防衛に関しては安心か。その連絡が取れなくなった村というのはどっちの方角で距離はどのくらいですか?」
「村はここから更に辺境に半日の場所です。森と隣接していて伐採を生業としてる村なので人数はそんなに多くは無く三十人ほどでしょうか」
どうやら木こりとその家族の村のようだ。ひとまずその村から調査することにして状況によってはこの村まで避難して貰おう。俺はこの後少し村長と相談し、最悪の場合避難させて寄こす可能性についてや村の防衛について衛兵の人と言葉を交わしたりした。
俺達三人は馬車に乗って木こりの村へと移動を始めた。今が昼前なので夕方前には着くと思う。ゴブリンの姿が見えないかと周囲を見渡すのだが、不思議な事にゴブリンどころか狼やウサギなど野生の獣すら見つけれなかった。依頼のあった村へ来る間はそれなりに気配を感じていたのに、違和感を感じる。俺はアリスに探知魔法を使うよう頼むと武器の用意を始める。
「今の所魔物の反応はありませんが・・・、トーヤの言うとおり周囲に獣の反応すらありませんね」
アリスの返事に俺は嫌な予感が拭えなかった。ゴブリン程度が近くにいても多少なりとも獣は居る筈だ。それが居ないとなると獣達が本能で危険を感じるような何かが起きているのか?以前、巨大地震や天災の時に動物が逃げ出すという話を聞いたことがある。人間よりも動物のほうが危険感知能力は高いのだ。
「もしかすると大物がいる可能性もある。馬車を止めて徒歩で近づこう・・・」
俺達は少し戻った所で木に馬を繋いで徒歩で進む事にした。少し行くと林が見える、近づいても相変わらずシンと静まり返っていて不気味だった。俺は周囲を警戒しながら林を慎重に進む、暫く進むと木こりの村と思しき建物が見えてきたので二人に合図して立ち止まった。
村の中に人影が見えるので身体強化の応用で視覚を強化する。これで多少距離があっても顔が認識できるくらいまで視力が上がる。これはアリスや姉ではまだ使えない俺だけの特技だ、偵察とかにはもってこいの魔法だよな。
予想通りというか残念な事に村の中を歩いていた人影はゴブリンだった。手に持っていたのは人の腕だった・・・。あんなのが堂々とうろうろしているってことは村はもう・・・。
「アリス、姉貴。ゴブリンだ・・・人間の腕を持ち歩いていたから恐らく村人は殺されたか捕らえられてると思う。といっても捕らえられてるとしても女性で・・・」
俺がそう二人に伝えるとアリスと姉に悲壮な表情が浮かんだ。ゴブリンに占領されれば男は殺されるし女性は生殖に使われるだけだ・・・。
「許せないわね・・・。トーヤ、偵察を続けて数を把握してちょうだい。可能なら今のうちに殲滅するわ!」
姉が静かに怒っていた・・・。横を見るとアリスも同様だ、当然俺も頭に来ていた。俺は気配を出来るだけ消すと村へ近づいていった。林と言う事で身を隠す場所は十分あったのでちらほらと見かけるゴブリンには気付かれていないようだ。
俺はむらの家の窓から中を覗いてみるが、凄惨たる状況だった。一つを覗けば村人だっただろう肉塊やバラバラの亡骸が積み重ねられていた。視力を強化してたせいで細部まで見えてしまったので危うく吐きそうになった・・・。
村の中には十の建物があったが、その内の三つに女性が捕らえられていた。全裸に剥かれ乱暴された後があった。既に死んでしまった人もいるようだ、口から血を流している人は舌を自分で噛み切ったのだろう、どの顔にも無念さと絶望感が浮かんでいた。
生きている人も虚ろな目をしている人ばかりだ、旦那だった人が目の前で殺され自分が陵辱されるという最悪な状況下なのだから仕方が無いのだろうか?男にはきっと完全に理解はできないだろうが・・・。
そう思いながら偵察を続けるとその内の一つの建物の中に巨大なゴブリンが見えた。酒を呑んで寝ているらしくひっくり返っていびきを立てている。周囲には三匹のゴブリンが居るが杖を持っていた、あれがゴブリンメイジという奴だろうか?本でしか読んだことはないがゴブリンの上位種らしい。
そうするとあの酒を飲んでひっくり返っているのはゴブリンジェネラルか?キングじゃなっきゃいいな・・・。俺は全体の数を確認すると姉とアリスの所へ戻った。
「ゴブリンは全部で四十、内メイジと思われるのが三、でかいタイプのが一。でかい奴は酒に酔って寝てた。人質はあっちの建物三つに推定八人、状態は・・・ひどいもんだったよ・・・」
俺の報告を聞いて作戦を立てる。一番の脅威は寝てる大きいゴブリンとメイジだろう、あれに気付かれる前に雑魚の三十六体を倒すのは無理だ。かといって一度王都に戻って応援を呼ぶか?それこそ却下だ、残っている八人を助ける事すら出来なくなってしまう。