第七十五話 水晶
「トーヤ達を今日呼んだのはこれの事を伝える為だったわ」
よく見ると俺達がダンジョンの最下層から取って来た水晶のようだった。といっても水晶の違いなんてよく分からないけど・・・。呼ばれたという事は何か詳細が分かったのだろうか?
「俺達がお願いしてた解析の結果が出たってこと?」
俺の言葉にお婆ちゃんは頷く、そして数枚の紙を持ってくると書いてある内容を読んでくれた。
説明によればこの水晶は 《守護の水晶》 と呼ばれるものらしい。特定の呪文と共に魔力を籠めると発動して、その魔力に応じて周囲に結界を展開するらしい。前にジャッカルさんに改造して貰った時に右腕の義手に搭載された結界の強力版のような物だろうか?
「これは大きな町、当然王都も含まれるけど魔物から民を守る為に使われているものと同じね。本音を言うと国宝級の価値を持つわ」
俺は戸惑いを隠せなかった、国宝級のアイテムがダンジョンからほいほいと出てくるものだろうか?それを問いかけるとお婆ちゃんは首を横に振りながら答えた。
「勿論そんな物がこのダンジョンからは過去に出たことは無いわ、でも例が無いわけじゃないの。この国にも三つダンジョンがあるのだけど、その中でも一番大きな所からは過去に一度出たわ」
本当ならこんな小さな五層程度のダンジョンから出るような物では無いと言葉を続けた。まあ、出た物は仕方が無いとして問題はこの水晶の扱いである。やはり国に没収されるのだろうか・・・。
「元々、この 《守護の水晶》 はダンジョンから得られる物とS級の魔物から得られるだけしか入手方法が無いの、だから数が圧倒的に不足していて水晶が設置されていない街は常に魔物の脅威に晒されているわ。それに設置したとしても他国の放った間者に盗まれたりね・・・」
お婆ちゃんが溜息をつく。王族としては民を守りきれて居ないという事で心を痛めた事もあるのだろうか。そんな表情を見てると自分達の事だけを優先には出来ないよなぁ。
「お婆ちゃん、その水晶はお婆ちゃんに任せる。国の為なんて大きな事は俺には言えないけど、お婆ちゃんなら誰かを助ける為に使えるだろ?」
お婆ちゃんが驚いた顔で俺を見た。勝手に決めたけど一応アリスと姉の顔を見るが、特に反対は無いようだ。
「流石はトーヤです、普通なら利益を求めるのが普通なのに。惚れ直しますね」
アリスの言葉に俺は照れまくった、そこまで面と向かって褒められる事には慣れていないのだ。
お婆ちゃんはそんな俺達のやり取りを見て微笑んでいた。
「トーヤがそう言ってくれるのは嬉しいです。王族としてはやはり民草を守る事が一番ですから。ですがトーヤ達の権利を奪うような事はしたくなかったのですよ?トーヤ達には当然この水晶と同等の褒章が送られると思うから後日また連絡するわ」
お婆ちゃんはそう言うと水晶を金庫にしまい直した。褒章かぁ、親父達を見つける為の資金とかお婆ちゃんに負担かけてるだろうし別に生活に困ってるわけでもないから要らないのだけど・・・。
「親父達を見つける為にお婆ちゃんも色々費用かかってるでしょ?褒章とか要らないからそっちに金回してよ」
俺はそう言うと褒章を辞退した。お婆ちゃんのお陰で贅沢な家は持ってるし、普段の冒険で金はそれなりに足りてる。あまり金を持っても碌な事にならないんだよね、犯罪に巻き込まれそうだし。
それから暫く水晶の事や褒章の事でお婆ちゃんと色々話し合ったが水晶はお婆ちゃん経由で国の役に立てて貰う事になり、褒章に関しては後で何か欲しい物が出来た時に相談する事になった。姉の武器とかも欲しいしと思っていた時に日本から持ってきた親父が倉庫に入れていた武具を碌に鑑定していないことを思い出した。ついでだから魔法具職人のソフィさんの所にでも行ってみるか。
学院を後にした俺達は魔法具職人のソフィさんのところへ寄ることにした。ぱっと見只の水晶が国宝級だったのだし、親父達が持っていた武具ももしかすると凄い効果があるかもしれないと思ったからだ。これからの冒険に役に立つ機能もあるかもしれないし。
「ごめんくださーい、ソフィさん居ますか?」
俺はソフィさんの店?へと到着すると扉を叩いた。暫くすると扉を開けてソフィさんが顔を出し、俺たちの顔を見ると口を開いた。
「あら、トーヤ達じゃない。今日はどういったご用?この前頼まれたチアキの杖はまだ出来てないわよ?」
ソフィさんはそう言いながら俺たちを家へと入れてくれた。俺たちは以前通された部屋と同じ部屋へと案内されソファーに座るよう促された。
「今日はソフィさんにお願いがあって・・・」
俺は尋ねた理由について説明した。ソフィさんは親父が持っていた武具ということで興味が湧いたようで見せなさいと催促してきた。
この世界に来てから二つほど売ってしまったがまだ武器が15点と防具20点、装飾品が13点程残っている。最初に売った二つには《加速》や《爆裂火球》とかが附与されてたっけ。
俺はアイテムボックスから武具を全て出すとテーブルの周りに並べた。ソフィさんは目を輝かせると武具を鑑定し始める、俺たちの期待を他所にソフィさんはどう見ても興味を優先させて自分の世界に浸っていた。
いいけどさ・・・鑑定さえしてもらえれば、俺は呆れ顔でソフィさんを眺めつつ鑑定の結果を待った。