第七十三話 密猟者
前話と数行重複しておりました、申し訳ありません。
俺達が広場に近づくと、周囲の大気に少しだけど血の匂いが混じっているのに気付いた。もしかして魔物が襲ってきたのだろうか?俺は緊張しつつ広場の様子を木の陰から伺った。
広場の上空は相変わらず九頭の天馬が嘶きながら旋回を続けていた。そして広場では一頭の天馬を押さえつけている数人の人影が見えた。
「ち、密猟者か・・・」
俺は舌打ちをしつつ状況を把握した。ギルドでマリナさんから聞かされていた事が現実に起きているのだ。俺はアリスと姉に状況を伝えるとどうするかの確認を取る。
「天馬はまだ生きているようだ、殺される前に助けるとして相手は四人。天馬が居るから範囲魔法は使えない。さてどうする?」
「決まってるわ!すぐにでも助けるわ」
俺の言葉に姉は即座に返事を返した。
「相手が四人というのは厳しいですが、見殺しはありえませんね。それにギルドからも天馬への密漁は防ぐよう言われていますし、何とかなりませんか?」
アリスも助けたいようだが、如何せん人数が多い。実力もわからないし天馬を一頭とは言え捕らえたのだから飛び道具も持っているだろう。俺は瞬間的に状況を整理すると二人に指示を出す。
「姉貴とアリスがこっちから遠距離魔法で威嚇してくれ。決して範囲は使わないこと。あいつらの意識がこっちに向いた時に俺が背後から強襲する。相手の強さが不明瞭だから決して油断するなよ?殺される前に殺すつもりで撃ってくれ」
俺の言葉に姉とアリスも覚悟を決めたように頷く。対人は俺が闘技場で戦ったのみで二人は初めてになる。殺すつもりでと言ったが二人の手を汚させるつもりは無い、一度人を殺す覚悟を決めた俺が一番躊躇は少ないはずだ。俺はそう考えると二人から離れて広場の反対側へと回る。
広場はそこそこ広いので隠密行動で反対側に回るのは時間がかかった。広場では暴れようとする天馬の両足を縄で縛りつけ終えたようだった。今すぐ殺すつもりは無いのだろうか?だが殺されたら終わりだ、恐らく残った九頭は人間に嫌悪感を持って二度と接近を許さないだろう。
それにあの天馬が捕まったのは直前に俺達が交渉をして油断させてしまった可能性もある。だとすれば責任の一端は俺達にもあるといえる。
俺は焦る気持ちを抑えながら広場の反対側へと移動を終えた。俺やアリス達に気付いた様子が無いという事は気配察知があまり得意では無いのだろうか?その程度の腕だったら助かるんだが・・・。俺の気配を追っていたのだろう、姉とアリスが木陰から立ち上がるのが見えた。
姉とアリスが中級魔法を密猟者達に向けて放った!天馬に当てない為か当然ながら密猟者から大分外れた所へと着弾する。突然の魔法に驚いたのか四人の内二人が天馬から離れて武器を抜いたが、その瞬間を狙っていたかのように初級魔法が二本片方の密漁者へと命中した。初級魔法とはいえ姉とアリスの魔力で放たれた魔法は軽傷とはいかなかったようだ、一人はその場に倒れこみ傷口を押さえて転がっている。
俺は全身の魔力を上げると身体強化を掛け一気に密猟者へと駆け出す!距離が二十メートル程あるので一瞬でとはいかないが俺の接近に気付いた一人が声を上げようとした時には俺の攻撃圏内に入っていた。
「シッ!」
俺は短い掛け声と共に剣を一人の密猟者へと叩き込んだ。狙ったのは天馬を押さえていた奴の片方だ。俺の剣をギリギリでかわした男はバランスを崩して尻餅を着いた。俺はそれに構わずに天馬を縛り付けていた縄にそのまま剣を突き立てた!剣が縄を切断すると密猟者が「あっ!」と声を上げた。俺の目的が今更ながらに気付いたのだろうが既に手遅れだ。天馬は転がりながら男達から離れると翼を広げて突風を密猟者へと浴びせる。
捕らえられていた仲間が解放された事に気付いた上空の天馬が一斉に地表へと降下を始めた。その勢いに俺は巻き込まれるのが怖くなって密猟者達から離れた。
その瞬間、九頭の天馬たちの上空からの蹄アタックが炸裂し密猟者達の全身を叩きのめした。ある者は手足を砕かれ、ある者は股間を潰され・・・。見るも無残な状態でうめき声をあげるだけで地面へと転がっていた。
姉とアリスも合流して男達を縄で捕縛した。死なない程度に回復魔法をかけると一まとめにして広場の中央に転がす。男達は抵抗する気力も無いようで大人しく転がっていた。
アリスが捕らえられて怪我をした天馬に治療を行うと、その天馬はアリスに鼻面を擦り付けて感謝の意を示していた。他の天馬達も俺や姉に鼻をこすりつけて各々感謝を伝えて来てくれているのが分かる。俺達はその後、天馬たちから追加で羽根を二十枚程貰い、密猟者達を王都まで連れていった。
ちなみに、密猟者達を運ぶ際は俺達三人が天馬の背に乗せてもらい、密猟者達は天馬が縄を口で引っ張って麓の村まで連行して行った為、村の住人からは滅多に人前に現れない天馬の群れとそれに乗る俺達に驚いて大変な騒ぎとなった。