第七十一話 天馬
朝食を食べると冒険者ギルドへと足を運んだ。早速身の丈に合った依頼を探す為だ、俺達は掲示板に向かうと貼り出されている依頼書に目を通す。
掲示板には魔物討伐の他に薬草採取やレア素材の買取などが書かれている。しかし、商隊護衛とか普通ありそうなものなのに依頼書が見当たらない、時期的に悪かったのだろうか?
俺は窓口に行くと受付にいたマリナさんに挨拶すると護衛とかの依頼が無いか尋ねた。
「おはようございます、トーヤさん。護衛の依頼は基本的に王都の騎士団が担当しているので冒険者には殆ど来ないですよ?」
マリナさんに当たり前のような顔をされてしまった。詳しく説明をお願いすると、商隊などは基本複数の商人がまとまって街を移動するそうだ。ルートも決まっていてどの村や街に何時ごろと時期まで既に決まっているらしい。それに合わせて王都の騎士団が護衛に付くらしい。
「ですので冒険者に依頼が来るのは疫病や魔物の襲来などがあって突発的に赴かないといけない場合のみなんです」
マリナさんはそう言うと、他に聞きたいことは?と促してきた。俺は納得がいったので礼を言うと掲示板に戻った。さて、そうすると護衛などの依頼は無いのか・・・。再度掲示板を見ていると姉が俺の肩を叩いた。
「ねぇ、この依頼とか面白そうじゃない?」
姉がそう言って指差した依頼書は素材の収集だった。依頼書には麓の山に生息する幻獣の羽根が欲しいと書いてある。そしてその幻獣の名は・・・
「天馬?」
天馬ってギリシア神話に出てくる翼を持った馬だよな?こっちの世界だと実在するんだ・・・。俺は興味が湧いて依頼書を読む。そこには、転移魔道具の材料として天馬の羽根が必要なので数枚入手して欲しいという内容が書かれていた。
「へぇ、天馬の羽って魔道具の材料なんだ。転移魔法っぽいけどアリス何か知ってる?」
俺は横に居たアリスに尋ねると、アリスは頷いて説明してくれた。
「はい、天馬の羽根は都市間などの物資を輸送する為の魔道具の材料ですね。国の首都から他の国の首都までは馬車でも数ヶ月かかりますから魔道具を使って月に一度転送するんです」
どうやら長距離の輸送はたとえ高価でも転移魔法を用いるらしい。そりゃ数ヶ月もすれば食料なんかは腐るし必要な物資も不要になっているよな。それとは別に貴族や王族なども転移魔法具を用いて移動する場合があるようだ。
「この天馬って倒すのか?」
「いいえ?天馬は知恵が高く賢いので普通は交渉して羽を貰うみたいです。只、中には殺して奪う悪質な冒険者も居るので最近は天馬も警戒してるらしいです」
天馬の羽根は五枚もあれば半年近く足りる為、こうして数ヶ月に一度依頼が来るそうだ。幻獣かぁ、地球では空想上の生き物だっただけに見てみたいという気持ちが強い。隣の姉を見ると期待した表情で俺を見ている。
「よし、この天馬の羽根を取ってくる依頼を受けよう。アリス、天馬とどうやって今まで交渉してたかの情報が知りたいな、何か好物でも持っていけばいいんだろうけど」
俺の言葉に姉は「やったぁ!」と喜び、アリスも頷いて情報を集めるためギルドにある書庫へと向かって行った。俺は窓口へと行くとマリナさんにこの依頼を受けることを告げた。
「はい、では期日は二週間なので宜しくお願いします。あと、天馬を殺して奪う真似は絶対にしないでくださいね?そうすると一発で登録抹消になって国からもお尋ね者になります」
そう笑顔で脅された。国としても天馬が居なくなると転移魔道具が使えなくなるため、保護対象としているようだった。
「それと、万が一ですが天馬を殺害しようとしている冒険者を見た場合は阻止してください。その者を捕縛した場合は国から報奨金が出ますので」
そう言うマリナさんの台詞はフラグにしか聞こえないんだが・・・。俺はマリナさんに頷くと依頼を受け、情報を集めるために他の冒険者がどうやって交渉していたか聞き取りを始めた。
この日は数人の冒険者から過去の経験を尋ねる事が出来た。一番多いのは食料との交換で入手したという話だった。天馬が好物なのはフダン草という青菜で普段は天馬が生息している地域には生えていないそうだ。なので市場で入手するか自生している物を採取して持っていくらしい。
俺は情報を聞いて直ぐ様市場へと足を運んだ。通常の料理にも使う青菜だけあってフダン草は市場にもちらほらと見えた、可能であれば自生している新鮮な物を持って行きたいが手に入らなければ怖いので市場から一キロ程購入しておいた。
ギルドに戻るとアリスと姉が書庫から出てきたところで情報を報告しあうことにした。俺がフダン草というものが好物だと聞いたと伝えるとアリスは頷いて情報を補足した。
「トーヤが言うフダン草もですが、あとはコケモモという赤い果実とかも好物らしいですね。これは流石に市場に流通していないと思うので道中見つけたら採取しましょう」
こうして天馬の好物らしい情報を集めて俺達は天馬が生息するらしい山へと向けて出発することにした。道中は途中まで馬を使いたかったのだけど、天馬が他の馬の臭いを嫌うらしいので身体強化の訓練も兼ねて走ることにした。