第六十八話 受けたダメージ
「俺は魔道砲で、アリスと姉貴は中級魔法での狙撃でいいかな?」
「そうですね、ワイバーンは本来Bランクですけど単体ならCランクに落ちます。魔法で翼を潰してしまえば墜落しますし、そうしたら接近戦に持ち込めます」
俺の確認にアリスが補足も含めて答えてくれる。アリスの知識はこのチームにとってとても助かっている。俺や姉は未だに魔物も世界への知識も足りていない、交渉や魔物に対する知識、地理などもアリスが居なかったら全くわからなかっただろう。
「いつも教えてくれてありがとうな」
俺からの感謝の言葉にアリスは頬を染めて喜んでいる。姉はそんな俺達を見てご馳走様状態だが、感謝はしているらしく姉もアリスに礼を言っていた。
そうこうしていると遠くからワイバーンが飛んでくるのが見えた。俺達は横並びになりワイバーンが近づいてくる方角を見る。既に村長に頼んで年老いた家畜を一頭だけ小屋の近くに繋いでいる。
ワイバーンは他に餌が無ければこの家畜を襲うしか無い。そして三人で狙えば外れる事もまずないだろう。ワイバーンが上空から村の周辺を見ていたようだが家畜が今日は一頭しか無いと見ると急降下して家畜へと襲い掛かった。
「『発射』!」 「『風の刃』!」 「『氷の槍』!」
ワイバーンが射程に入った瞬間、それぞれの魔法が発動する。と、その時!
ビギィ!
俺の腕から鈍い嫌な音が聞こえた。気にはなったが今はワイバーンだ、俺達の魔法でワイバーンの翼には穴が二つ、反対側は大きく裂けていた。どうやら三人とも命中したらしい、俺は剣を抜いてワイバーンへと駆け寄る。
「グォァァァァァ!!」
ワイバーンは雄叫びを上げながら俺の方を睨む、両側の翼を傷めて飛ぶことが出来ないらしく、足で駆けて俺へと近づいてくる。俺は牙による噛み付きを避けると首筋に剣を叩き込む。しかし皮が硬いのか思った程傷を与えれなかったようだ。ワイバーンは傷ついた羽の先端に付いている鉤爪を俺に振り下ろしてくるが難なく回避する。
数回剣を叩きつけ傷を負わせていく、俺とワイバーンの距離が近い為アリスや姉は魔法が撃てないのである程度攻撃しては一旦距離を取って魔法の援護を貰うべきだろう。そう考えて俺は隙を見て後ろに下がったのだがその判断がまずかった。
俺が至近距離から離れたのを見てワイバーンがその巨体を支える足爪で蹴りを放ってきた。その攻撃は翼の鉤爪と牙に意識が行っていた俺には不意打ちに近いものだった。咄嗟に右腕で受けるがバギン!と爪と金属がぶつかる音を響かせながら俺が数メートル吹き飛ばされた。
「『氷の弩砲』!」
そこへアリスの上級魔法が炸裂した!範囲攻撃では無く、氷の巨大な槍が二本ワイバーンに襲い掛かる。氷の巨大な槍がワイバーンの胴体に突き刺さり断末魔の鳴き声が響き渡った。
「アリス、ナイスアシスト」
俺はそう言って立ち上がろうとした。だが、右腕に違和感があって上手く手を着けない。俺は訝しく思い右腕を見ると・・・
「トーヤ、義手が・・・!」
アリスが近づいて俺の右腕を見ると驚いて叫ぶ。そう、どうやらワイバーンの一撃を受けた衝撃で義手が折れていた。
「その前の魔道砲を撃った時に変な音が聞こえたんだよな、その時既にひびが入っていたのかもしれない・・・」
俺はそう言うと一旦義手を解除して再度義手を構築した、学院で組み込んだ機能が全て失われてしまうが今は仕方無いだろう。一先ず元通りに動くように腕を作り直して俺達はワイバーンの素材を剥ぎ取る作業にかかった。
その晩、村長の家の一部屋を借りて寝ていた俺は呟いた。格好良いと思ってやった、威力が高すぎて一週間穴埋めをした事もいい思い出だった。だがオリハルコン製の腕がダメージを負うくらいの負荷がかかっていたのは事実だろう。
「まだ寝れないんですか?」
隣からアリスの声が聞こえた、起してしまっただろうか?今俺達は三人並んで寝ている。部屋を分けるか聞かれたが何時も冒険の間は一緒なのだし他人という訳でも無いので一緒の部屋にしてもらっていた。
「ごめん、起したか?」
「いいえ、トーヤが腕の事で考え込んでたのは分かってましたから・・・」
アリスに心配を掛けていたようだ、俺はおもちゃが壊れた子供のようなもんだよと苦笑してアリスの頭を撫でた。
「明日には元気になってるよ、もう寝よう」
俺はそう言い目を瞑った。そう、おもちゃが壊れたようなものだ・・・今度は上手く負荷のかからないように作ればいい。そう俺は自分を納得させ眠りについた。
翌朝、俺は元気を取り戻していた。壊れたといっても腕を失った時の喪失感に比べればなんということもない。村を出発し、王都へと戻るとギルドへの報告をしつつ、職員にギルドカードの修正を依頼した。義手に付けた機能分を削除して貰い、報酬を受け取ると家へ戻って体を休めた。
翌日、学院を尋ねるとジャッカルさんの教室へと向かった。義手に付けた能力をまた付けて貰うためだ。
「ジャッカル先生ーいますか?」
「お?お主かどうした?魔道鎧のほうの調子はどうじゃ?」
「魔道鎧は今んとこ出番あまり無いですね、最近はもっぱら篭手として使ってます」
教室に入るとジャッカルさんと魔道鎧の話をする、魔道鎧は左手をベースとしたミスリル製の魔道具なのだがつい展開するのを忘れて篭手のままにしている。
「実は義手を改造した時に付けた機能なんですけど・・・」
俺が話を切り出すとジャッカルさんは露骨に狼狽して首を横に振った。
「もうその話はせんでくれ!レイネシアの譲ちゃんがやってくる!」
「一体お婆ちゃんに何されたんですか!そうじゃなく一昨日魔道砲使ったら・・・」
俺は郊外での話しをして事情を説明した。ジャッカルさんはフムフムと頷いて話を聞いていたが、腕を再構築して魔道砲などの機能が消えた話をすると唸って黙ってしまった。
「やはり負荷がかかったんじゃろうな、その前の人喰鬼討伐から無理があったんじゃろう。今後も同じことがあるかと思うと毎回同じ手間がかかってしまうのう」
ジャッカルさんは頭を悩ませ俺に提案をしてきた。威力を弱めるか付ける機能を減らすのが無難だろうと、俺はそれを聞いて悩んだ。
「アンカーは別に要らないですし、防御系も諦めるとして。魔道砲だけは何とかなりませんか?」
俺の言葉にジャッカルさんは苦い顔をした。学院長にまた怒られるではないかと・・・。
結局、再三に渡る説得も虚しくジャッカルさんは首を縦には振らなかった。そこまでお婆ちゃんが怖いのかと・・・。結局義手に直接魔方陣を刻む事は諦めた。