第六十六話 魔法具店
武器の購入は万屋では無く、魔法具専門の武器屋へと行くことにした。万屋でも売っているのだが中古が多かったりメンテナンスが完全じゃなかったりで耐久性に問題がある場合が多いそうだ。
「姉貴、それ誰に聞いたの?」
「バトラさんよ、相談したら彼の知ってる店紹介してくれてさあ~」
どうやら『片翼』のバトラさんに教えて貰ったらしいのだが、そこから店に着くまで姉の惚気を聞かされる羽目になって俺は始終苦い顔をしていた。
教えられた地区まで来たのだがそれらしき看板が見えない、俺とアリスがキョロキョロとしていると姉が一枚の紙を持って「こっちよ」と俺達を案内した。どうやら隠れた名店という奴なのか看板やそれらしい店構えじゃないとの事だった。
「ごめんくださーい、バトラさんの紹介で来たんですけど・・・」
一軒の家の扉をノックして姉が中に声を掛ける。その外観は普通の一軒家だ、これは絶対に店だと思えないし気付かないわ。
少しすると中から一人の女性が出てきた、どうやらエルフのようで耳が長かった。
「いらっしゃい、バトラ君のお知り合い?紹介状とかあるかしら」
その人は姉に向けて言うと姉は懐から一通の封筒を出して手渡した。どうやらちゃんと紹介状は書いて貰っていたらしい。あれだろうか?一見さんお断りというレベルの店なのだろうか。
その人は紹介状を確認すると俺達を中に通してくれた。客間に案内された俺達は促されるままにソファーに腰掛ける。
「私は魔法具職人のソフィよ。最初に言っておくけどこの店の事は他では絶対に口外しないで、それが守れないのなら話はここでお終い」
ソフィさんはそう言うと俺達に確認してきた。俺達は口外はしない意思を示すが、何故他で口外してはいけないのだろうか?疑問に思った俺はソフィさんに尋ねた。
「商品を見せたほうが早いかも・・・」
ソフィさんがそう言い何も無い空間から杖を取り出しす、この人もアイテムボックス覚えてるのか。
俺は軽く驚いたが冒険者でも上位の人は覚えている魔法だと思い出し気持ちを落ち着かせる。ソフィさんは取り出した杖をテーブルに置いた。姉は許可を得てから杖を持ち様々な角度から眺めてみた。俺にも姉にも鑑定の能力なんて無いから精々高そうか魔法が籠められているか感じるくらいしか出来ない。
「何か魔法が籠められているのは私にも感じるけど・・・、このデザインって今アリスが持ってる杖に印象が似てるような気がするわ」
そこで姉の言葉にソフィさんが反応した。
「似た杖を持ってるの?よければ見せて貰えるかしら?」
姉はアリスを見て「いい?」と聞くと、アリスは元々俺達から借りた杖なのでと杖を姉に渡した。
その杖を見てソフィさんの表情が驚きに染まった。
「これは・・・私の作った杖!あなた、これはどこから?この杖を人族が持っている筈無いわ!」
ソフィさんの剣幕に押されながらも俺はどこまで説明したらいいのか考える、親父達の事は言えないだろうし・・・。
「これは親父が残していったものなんだ、だから来歴は知らない」
一先ず当たり障りの無い事だけ言おうと決め、それだけを答える。ソフィさんは自分が興奮していることに気付いてお茶を飲んで深呼吸してから話し始めた。
「これはもう四十年以上前に私が作った作品なのよ」
そう言うとソフィさんは杖を分解して見せた、作った人だからなのかこうも簡単にというくらいに杖がパーツ毎に分かれる。すると中心の核と思しき場所に文字が彫ってあるのを俺達に見せた。そこにはソフィ・アーガスという名前と作った年号と思しき数字が彫ってあった。
そしてその後に書かれていた名前を見て俺達は息を呑んだ。
『ベルド・イル・ガラルシィ』
「親父・・・」
俺はつい呟いてしまった、そうそこに書かれていたのは親父の名前だった。つまりソフィさんは四十年以上前に親父に対して杖を作っていたのだ。名前が入っている事から推測するとオーダーメイドだったのだろう。
俺の呟きを聞いてソフィさんの表情が驚きに染まった。だが、流石大人というかそれ以上聞いてこなかった。そして俺は次に思った事を叫ばずにはいられなかった!
「イル・ガラシィで五十嵐とか安直すぎるだろぉぉぉ!」
俺の叫びにソフィさんもアリスもびっくりしていたが、姉だけは俺に同意らしくウンウン頷いている。
多分だけど、親父のファーストネームとセカンドセームを日本で名乗った時に五十嵐に間違えられてそのままになったのだろう。暫く俺と姉の安直すぎる名前の話で脱線しまくっていたが、数分すると気持ちが落ち着いてきたので謝罪して話を元に戻して貰った。
「つまり、貴方達はベルド王の子供という事でいいのね?」
ソフィさんが俺達に対して確認してくるが俺は首を横に振る。
「いいえ、俺達姉弟はあくまで只の冒険者トーヤ・イガラシとチアキ・イガラシです」
俺はそう名乗り真っ直ぐソフィさんの目を見る。ソフィさんは暫く俺を見つめていたが、溜息をつき首を横に振った。
「わかったわ、今私の前にいるのは三人の只の冒険者。それ以上でも以下でも無い。ただ、昔の私の知り合いの子供らしい。これでいいのね?」
ソフィさんの言葉に俺は頷く、今更否定しても意味が無いかもしれないけど暗に秘密にして欲しい意図を汲んでくれるだろう。
「それで、ソフィさんがこの杖の製作者というのは分かりましたけど・・・、何故口外しない事になるんですか?商売なら普通は店を構えて人を集めるのが本分だと思うんだけど」
「その杖もだけど本来は王族クラスが使うような特殊な効果を持つ杖を作っているのよ。商品見せたら気付いて貰えると思ったんだけど、あなた達品を見定める目持ってないようね?」
ソフィさんの辛らつな言葉に俺は頭を掻いた、剣や槍なら使って手に馴染むかバランスがどうかという程度は分かる。だが杖ともなると魔法の威力が上がるとかそのくらいしか判断出来ないのだ。
「まあ、他で鑑定して貰わなくてよかったわ。万が一その杖を他店で鑑定してたら今頃大騒ぎね」
どうやらソフィさんの作った杖や装備は国宝にされる位の価値があるらしく、一般に出回る事はほとんど無いのだとか。
「まあ、折角作ったのに売りに出されてたら売った奴は二度と日の目見れないようにするけどね」
そう言っているソフィさんの目は本気だった。こっちの世界に来てからこの杖売らなくてよかった・・・、そう思える程だった。