第六十五話 報告とお風呂
「ふぃ~疲れたなぁ」
俺は今、家の風呂に入ってゆったりしていた。冒険者ギルドから帰り何はともあれ風呂で疲れを取ろうという事になった。先に姉とアリスが入り俺はその残り湯に浸かっている、入れ替えてもよかったが他人でも無いので特に気にしないし、湯を張りなおすのが面倒だった。
俺は少し温くなったお湯に浸かりながら村での一戦を思い返していた。人喰鬼八体は普通なら村ごと壊滅していておかしくない数だった。かなり厳しい戦いだったとしても俺達の参戦が村を救ったのだと思うと嬉しかった。
「魔道砲とか義手を改造しててよかったなぁ・・・」
俺はお湯で義手を洗いながら呟いた。改造した当初はジャッカルさんと調子に乗ってしまい一週間穴埋めをする羽目になったが、こうして使ってみると有って良かったと心から思う。
直撃すれば一撃必殺、当たらなくても牽制としてはとても便利だ。魔力を食いすぎて最後の方は魔力切れを起しかけたが俺自身が成長すればもっと使えるようになるだろう。
姉やアリスについてもそうだ、広範囲への上級魔法の連発や混戦へのピンポイントでの支援魔法など学院へ行く前に比べて威力も精度も上がっていた。二人の先制魔法で手傷を負わせれたからこそ俺の攻撃が当たったとも言えるのだ。
そんな事を考えていると、風呂場の入り口の扉の外から声がかけられた。
「トーヤ?まだ入ってますか?」
アリスだ、俺は風呂に浸かりながら返事を返す。
「あ~まだ入ってるよ~。長湯でごめん~」
俺の言葉に返事は無かった、不思議に思っていると一分ほどしてから扉が開いた。そこにはタオルで前を隠したアリスが立っていた。俺は驚いたがじっと見つめているのは悪い気がして視線を逸らしながら聞いた。
「アリスさっき姉貴と入ったんじゃなかったっけ?俺は構わないけど湯当たりすんなよ?」
実は俺とアリスがこうして一緒の風呂に入るのは初めてじゃない、二人で結ばれてから何回か深夜にこっそりと入っていたりした。まあ、こうして皆が起きてる時間に入るのは初めてだが。
「トーヤは今回いっぱい頑張ったのでご褒美に体でも洗ってあげようかなと思いまして・・・」
アリスが頬を染めながら体をお湯で流してから湯船に浸かる。大きめの湯船に作ってあるので二人でも狭くは無いのだが、アリスは俺の近くに寄り添ってきた。
「今回は合宿や学院で学んだ事の効果が出たおかげで村一つ守る事が出来た、アリスもお疲れ」
俺はアリスへも礼を言って肩を抱いた。アリスは嬉しそうに俺の肩に頭を預ける、暫く二人無言で湯船に浸かるだけの時間が流れる。俺はさっきまで一人で考えていた事をアリスにも話ながら村での戦いを振り返る。
「そうですね、トーヤの魔道砲でしたっけ?あれは今回連発してましたね。でも頼るのは危険なので切り札くらいに考えておかないと。また魔力切れおこしちゃいますよ?」
アリスからも釘を刺された。便利なものには依存してしまいがちなのが現代っ子な俺の欠点だよな。魔道砲に頼ってばかりだと他の武術の技がなまってしまうだろうから気をつけないとなぁ。
この後、アリスに背中を流して貰い二人でお風呂を出た。部屋へ戻る途中メイド姉のララに見られてしまい、また顔を真っ赤にして逃げられた。これで暫くは余所余所しい言葉遣いになるのかと思うと苦笑しか出ないな。ララ位の歳の子に慣れろというのは酷だろう。
その晩は飯を皆で食ってゆっくり寝た。明日にはギルドに行って経緯を説明しなければならないのだ、朝一にでも起きて向かうことにするか・・・。
翌朝、朝食を食べてから俺達はギルドへと向かった。殆どの冒険者は既に討伐などの依頼に出たようでギルド内部は割りと空いていた。俺はギルドの窓口へと向かい受付のマリナさんへと挨拶をする。
「マリナさん、おはようございます。昨日の依頼の詳細報告に来ました」
俺の言葉にマリナさんが挨拶を返して奥の部屋へ行ってて頂戴と言って奥を指差した。
俺達は他のギルド員の案内に着いて行き奥の会議室へと入る。中には久々に会うギルドマスターが既に座っていた。
「おう、トーヤと譲ちゃん達。久しぶりだな?先日の活躍も聞いたぞ、Bランクなる日も近いな!」
ギルドマスターのガドンさんはニヤっと笑いながら俺達へと挨拶をしてきた。俺達も各々挨拶を返して勧められた椅子に座る。それから村での人喰鬼を討伐するまでの経緯を説明した。
ガドンさんは秘書らしき人に報告書を書いて貰いながら気になった点などを俺達に尋ねたりした。
暫く聞き取りが終わった時点でガドンさんは深く息を吐き背もたれに体を預けた。
「これでお前さん達への聞き取りは終わりだ、よく他冒険者達を救い村も救ってくれた。感謝する」
どうやら依頼が失敗した場合俺達冒険者だけでなくギルド自体も信頼を失うなどのデメリットがあるらしい、場合によっては仕方が無い時もあるのだろうが依頼失敗が続くとギルド長が責任を取らせられたりもあるそうだ。俺は大変ですねと言うしか無く、自分達がやる分には頑張りますと伝えるに留めた。何事にも絶対は無いのだし、俺達も何時かは失敗する時があるだろう。
その際にはギルド長にも迷惑をかける事になるだろうし、下手な事は言えない。そんな言葉を交わしつつ俺達はギルド長へ挨拶をして部屋から退出した。
「ギルド長ってのも大変なんだなぁ・・・」
ギルドの建物から出た俺は空を見上げながら呟いた。どこの世界でも上に立つ人というのはそれなりの気苦労があるのだろう、最も一番きついのは中間管理職だろうが。
報告が終わった俺達は近くの店で昼飯を食べてから街を散策して体と心をリフレッシュした。
今回の依頼で10,000エルを稼いだので生活費には困らないが、姉が武器を見に行きたいというので武具屋へと向かうことにした。どうも最近魔法がメインになっていて増幅用の杖が欲しくなったようだ。確かに今までは槍と使っていて杖は持っていなかった。親父の残していてくれた武器関係にあった杖はアリスに持たせた一本だけだった。