第六十三話 人喰鬼退治1
村に居た冒険者達から集めた情報をまとめると、人喰鬼は十体は越えないであろうと言う事と、群れのリーダーらしき固体を見たという事だった。これは冒険者の一人が王都へと走りギルドに伝えた情報と同じだったので新しい情報とは言えなかった。よくよく考えれば王都に伝達した頃から村に籠もっていたのだからそれ以上新しい情報がある訳は無いのだ。
「うーん、どこか拠点になってる場所があると思うんだけど情報が足り無すぎるな・・・」
俺は他の冒険者の治療を終えたアリスと姉の所で情報を付きあわせていた。こちらから仕掛けたいのだが情報が足りない、やはり襲って来たときに迎え撃つしか無いのだろうか?
「村人に聞いても近くに洞窟のような場所も無いようですし、やはり奇襲は難しいですね」
アリスや姉も村人から色々と聞いたようなのだが、これといった情報は無かった。迎え撃つとしても人喰鬼十体近くを相手にするのは流石に自殺行為である。
「もう一つ手としては村を襲って来た奴を退けた後を追うのもありよね?」
姉が別の手を提案する、それも有りだが下手すると守っている間に犠牲者が出てしまう可能性もあるので悩みどころである。そもそも人喰鬼はどの程度強いんだろうか?一度も見てないのだから知りようが無いので他の冒険者に聞くことにした。
「ああ、あいつらは2mを越す巨体と怪力が最大の武器なんだ。体は筋肉に覆われていて生半可な攻撃は寄せ付けないし、弓くらいなら皮にしか刺さらないよ」
バリケードに居た冒険者に聞くとそんな事を教えてくれた。だとすると接近戦は厳しいのか、姉とアリスの魔法と俺の魔道砲で遠距離から叩くのが理想的か。俺はバリケードの近くにある民家の屋根に上って周囲を見渡した。見晴らしが良い為、人喰鬼が近づいたなら直ぐ分かる。村に近づく前に遠距離から仕留めれれば理想的だな。それで倒せなかったら守りに専念して、奴らが諦めて戻っていった時に追跡して塒を突き止めて一体ずつ奇襲を掛けるか。
俺は方針を決めてアリスと姉に考えを説明する。特に反対も無かったので他の冒険者にも同様に伝えて協力を仰ぐ事にした。とはいってもバリケードまで来た時に今まで通り守ってもらうだけだ。遠距離で仕留めれなかった場合は俺もバリケード組へ参加して防衛に回る。
順番を決めて交代で見張りに付く事にして、今まで防衛を続けていた冒険者達も休んで貰う。一週間近くも緊張が続いていたのだから精神的にも肉体的にも疲れきっているだろうと思ったからだ。俺達三人が一番疲れてないので最初に見張りに立ち、その後順番に他の冒険者に見張りに付いてもらう。
その日は何事も無く朝を迎えた。冒険者達の顔色が村に来た時に比べると多少マシになっているように感じた。やはり食事をして休息を取れたのが大きかったのだろう。怪我をしていた冒険者も治療の甲斐があって見張りくらいは出来る程度に回復していた。戦闘は厳しいだろうが見張りを優先的にして貰う事をお願いしているのでその分他の冒険者は休息を多めに取れる。
翌日の昼頃に見張りの冒険者が人喰鬼の接近を知らせてくれた。
俺達が屋根の上に立つと、東の方角から巨体の魔物が八体程近づいてくるのがわかった。俺は他の冒険者に指示を出し、守りに専念するよう伝える。万が一にも犠牲者は出したくないのだ。
あまり距離があると威力が低下するし、逃げられても困るので村にひきつけてからの一斉攻撃をする事にした。俺の魔道砲と姉とアリスの上級魔法を同時に放つことで倒せなくても手傷を与えて逃げれないようにしたいものだ。そうこうしている内に人喰鬼共が雄叫びを上げて村へ駆けてくる。
「アリス!姉貴!詠唱開始!・・・『魔道砲展開』『充填』・・・」
二人に詠唱を開始するよう伝え、俺も魔道砲に魔力を籠める。人喰鬼がバリケードまで残り二十メートルまで迫った。
「『発射」!!」「『氷結の嵐』!!」「『千の刃』!」
俺の魔道砲から一筋の光が放たれると同時に姉の水系上級魔法とアリスの風系上級魔法が放たれた!ダンジョンで使った魔法だが、あの時とは唱えた魔法が逆である。この間ギルドで調べた得意属性を参考にして各々が適正のある魔法を唱えたのだ。
「「「ギャアアアアアアオオオオ」」」
二人の上級魔法が人喰鬼達に襲い掛かり全身に傷を与えた。足元が凍りついたり全身に傷を受けた奴は居るが倒すまではいかないようだ。逆に俺の魔道砲は範囲を狭めて貫通力に特化した状態で放ったので、一体の頭を運よく貫通したようで大きな音を立てて崩れ落ちた。
姉とアリスは更に上級魔法を放つ!流石学院で一月学んだだけあって威力がダンジョンの時より高いように感じる。それに上級魔法を連続で放つにはかなりの集中力が必要な筈なので流石というところだろう。俺も負けてられないとばかりに魔道砲を放つ、残念な事に一撃で倒せたのは最初の一体だけだった。後は胴体に当たったり腕を貫通したりと手傷は与えているのだが致命傷とは言えなかった。
人喰鬼は七体殆どが体に傷を負っているが逃げる気配は無かった。逆に手傷を負った事で怒り狂っているらしくバリケードまでぐんぐん近づいてくる。ここまで近づかれると範囲魔法を撃つわけにもいかないな、味方を巻き込んでしまう。
俺はアリスと姉にフォローを頼み、バリケードの外へと飛び降りた。中に入られたら終わりだ、外に居る内に足を止めないと誰かが犠牲になると思い人喰鬼に向かって突進する。
「「『大地の戒め』」」
アリスと姉の詠唱が重なって聞こえた。同時に人喰鬼の足元から蔦のような物が伸びて足へと絡みついた。地属性の中級魔法で足を止める魔法だ。俺は至近距離から魔道砲を一体に向けて放ち、頭を吹き飛ばした。血や脳漿をぶちまけながら一体が倒れていくのを横目に、剣で別の一体に切りかかるが流石に剣は避けられた。しかし、身体強化で速度があがっている俺は避ける際に体勢を崩した人喰鬼に追いつき右手で頭を殴りつけた。
「『魔法の細剣』!」
拳で人喰鬼の頭を打ち抜くと同時に魔法を発動させる。ただ殴りつけるだけならダメージは低いだろうが魔法の細剣で頭蓋を貫いて致命傷を与える。これで最初の奴を含めて三対を始末する事ができた。