第六十話 体験入学終わり
やっと訓練場のクレーターを埋めた頃には学院に居る期間も一週間を切っていた。結局学院で手に入れたのは微妙に強化された義手だけか・・・。
姉は上級の魔法を学んで使えるようになったらしいし、アリスも同時に複数の魔法を展開できるようになっていた。俺も攻撃力は上がったけど、魔道砲は人目が気になって使えやしない。
「はぁ~、残り一週間何しよう・・・」
俺は学院へと向かう道を歩きながら呟いた。
「十夜はその義手があるじゃない?威力さえ調整すれば十分強いと思うけど。私かアリスちゃんが居ないと遠距離に難があったんだし十分でしょ」
姉はそう言いながら俺の背中を叩いた。姉はいいよな、魔法をばんばん使って異世界!って感じがして。俺は肉弾戦ばかりだからあまり地球に居た頃と変わらないんだよ。
それに義手を改造したとは言え、アンカーも魔道砲も制限があって微妙なのだ。身体強化の能力アップやせめて空を飛べるとか何かファンタジーな技が欲しいのが本音である。
「なあ、アリス?この世界では空って飛べないの?」
俺がアリスに尋ねると、唐突な質問に目をパチクリとして俺を見返した。
「突然ですね?空は飛べる人というのは聞かないですよ。跳び上がるか風魔法で巻き上げての方法なら聞きますが、必ず落下してますね。あ、魔人族や獣族でも翼持ちの人は飛びますけど」
どうやら飛行魔法というのは存在しないらしい・・・、目標の一つが潰えたな。だとすると後は何が可能なんだろうか?魔法への才能があまり無い俺には光学迷彩とか考えるのも無理そうだし。
そういえば、攻撃ばかりに意識が行っているけど防御に関しては余り考えていなかったな。皮鎧を俺と姉は着ているけどアリスに至ってはローブだし。地球のどこかの漫画にオリハルコン使った鎧とかあったよなぁ・・・銃弾とか跳ね返すくらいの。あれとか作れないんだろうか?
「俺ちょっと思いついた事あったから別行動するわ、また後でな」
俺はそう二人に言い残し一週間ぶりに魔道具研究室に向かった。俺は勢い良く扉を開けて部屋へと入って叫んだ。
「ジャッカル先生!いますか?!」
「うぉ?!びっくりするじゃろ!いきなり叫ぶでないわい・・・・ってお主か」
ジャッカル先生は驚いたのだろう、こちらを振り向いたが俺だとわかると元の作業へと戻って行った。以前より覇気が無いような気がするが、お婆ちゃんに怒られたのがかなり堪えているのだろう。
「まあ、そう言わないでください。今日は前回みたいになりませんから!」
俺はジャッカル先生の肩を叩き、向かいの椅子に座って俺が考えた鎧の考えを伝えた。ジャッカル先生は最初は適当な相槌で聞いていたが、段々興味が沸いて来たようで真剣に聞き始めた。
「ふむ、つまりオリハルコンかそれに近い金属で鎧を作ると。義手を作ったときの魔法陣を弄って鎧タイプを作れるようにしたいじゃと・・・」
義手作成の時に用いた魔方陣はイメージによってその形を変える性質を持っていた。腕は腕として使いたかったから以前はそのままだったが、もう一つ魔方陣を用意する事で鎧のような物を作れるのでは無いかと思ったのだ。
「しかし、金属鎧なんぞ着たらお主のスピードが落ちるじゃろ?持ち味が失われるのではないかのう・・・」
ジャッカル先生は俺の戦闘スタイルを思い出してそう呟いた。だがそこもちゃんと考えてある。
「だから魔法の伝わり易いように義手作成と同様の手順を踏むんですよ。普通に鎧として着るなら鍛冶屋の仕事でしょ?義手作成の陣を使う事で体の一部として動かせると思うんですよね。身体強化の魔力も上手く使えば今よりも全体的に力もスピードも出ると思うんですが」
俺は以前地球で読んだ漫画のような鎧が欲しいと思ったのだ。流石に技術力は無いが魔法のある世界である。鎧そのものに魔力を流す事によって体の一部のように動いたり出来れば攻防一体の鎧が出来るのでは無いかと考えた。
「失敗しても普通の鎧としては着れますし、鎧みたいに着脱を考えなくてもよさそうじゃないですか?『解除』するだけで金属の塊に出来ますし」
「一先ず試すだけ試してみるかの?義手のときと同様の魔方陣を体に画けばいいんじゃろ?金属と触れていなければ使えんのじゃから左の掌が無難かのぅ」
ジャッカル先生が腕に画かれた魔法陣の絵柄と同じものを左の掌に書き込んでいく。右腕の時もそうだったが擽ったく、笑いを堪えるのに必死だった。
二十分程で書き終えたようで、乾くまで少し時間を置く。その間にジャッカル先生がガラクタの中から使えそうな金属を探し出す。
「オリハルコンは無かったがミスリル銀なら多少あったな。重いと使えんじゃろうしまずはこれで試してみんか」
そう言ってジャッカル先生が俺に差し出したのは1kg程度のミスリル銀の塊だった。1kgか・・・上手く構成しないと足りなくなりそうだな。かといって2~3kgとなると重すぎるしこのくらいか。俺はイメージを固める為に紙に色々とアイデアを書きなぐる。急所は少し厚めにし、稼動部は動きに影響が無い構造にする。それ以外の太ももや腕のあたりは厚さ2mm程度を目安で一度作ってみる。
イメージが固まった俺は久しぶりにコマンドを唱える。
「『義肢創造』!」
左手に持った金属が液体状になり、俺の全身へと這い巡る。二秒程で俺の全身を覆う鎧が完成した。足の先から指先まできっちりと金属に覆われたフルプレートメイルである。頭部だけは色々と難しかったので覆ってはいないが、右腕を除き首から下は完全に金属に覆われた。
「ふむ、見た目はよさそうじゃな?動いてみろ」
俺はジャッカル先生に言われ足を動かしてみる。特に引っかかりも無く動けるようだ。屈伸したりラジオ体操のように体を動かすが動きに応じて鎧が微妙に動くようで特に動きに影響が無い。
「やりましたね!結構画期的じゃないですか?これ!」
俺は嬉しくなりジャッカル先生に声を掛けた。ジャッカル先生も「ウム」と頷く。
「全身を覆っておるから機密性も良さそうじゃの?水の中や火炎の魔法などの影響も見てみたいが、それはまた後にしておこうかの」
ミスリルなので魔法への耐性は高いはずだ、あとは火炎などの熱を受けた場合に中の俺がどうなるかだが・・・まさか蒸し焼きなんてならないよな?
「流石に先週の件があるからの・・・学院ではこれ以上の実験は危険じゃ。仲間に魔法使いが居るのだから街の外で試すのがよかろう」
先生はお婆ちゃんに先週こってりと絞られてよほど懲りたようだった。用が済んだらさっさと俺を追い出して自分の研究に戻っていった。
しかし、見た目がミスリル銀のままというのは目立ち過ぎるな。俺は一旦鎧を解除して金属の塊に戻した。少し考えて左腕用の篭手に見える様に加工しなおして教室を後にした。
それから一週間、姉やアリスも交えて見た目や耐久性について議論を交わしたこの鎧はだいぶ見た目も変わってしまった。街を歩いて居ても変に見られないように色を落ち着いた紺色にし、金属のような輝きも無くした。その上からジャンバーとズボンを履いているので見た目的には只の服にしか見えない。
俺としては金属鎧はカッコイイと思ったのだが、アリスが「一緒に歩くのはちょっと・・・」という言葉で断念した。
こうして学院への一ヶ月間の体験入学は終了したのであった。
今回で修行編は終わりです、次回から新章となります