第五十九話 破壊兵器
「遂に、魔道砲か・・・。ジャッカルさんこれってどの程度の威力なんでしょうね?」
俺の問いかけにジャッカルさんは「フン!」と鼻息を荒げると身も蓋も無い答えをくれた。
「それを確かめるためにここにおるんじゃろう?何せ今まで使った事など無いからな!」
俺はジャッカルさんの言葉に諦めて魔道砲の準備をする。これは工程が別れていて筒を作成するのと、魔力を籠める、魔力弾を放出する三つに分かれる。
「『魔道砲展開』『充填』」
俺の言葉に従い腕から直径3cm全長30cmくらいの筒が腕に沿って出現する。ちなみに素材は腕のオリハルコンを流用しているので頑丈だ。『充填』のコマンドによって俺から腕の筒に魔力が集まるのを感じる。
「これはどの程度魔力籠めたか感覚で覚えるしかないのか、難しいな」
俺は呟きながら魔力を籠める。戦闘で身体強化をする時の感覚で魔力を籠めていく。感覚的に魔力50くらいか?一般人の総量くらいを詰めてみる。
「『発射』!!」
最終段階のコマンドによって俺の腕から魔力弾が射出される。結構反動があり、数歩後ろに下がってしまった。
放った魔力弾は10m程離れた案山子に当たると爆発をおこした!案山子は胴体の中央から吹き飛び、後方数メートルに渡って残骸を吹き散らかした。
「「・・・」」
遠くでさっきの教師が怖い顔で睨んでいる。弁償しますから、ちゃんとお婆ちゃんにも謝るから!そんな俺の気持ちが通じたのか近くには来なかった。
「なかなかの威力じゃの。今のでどのくらいなんじゃ?」
ジャッカルさんが俺の近くに来て聞いてきた、俺は一般人の総量くらいと伝えると納得して離れた場所に戻り言った。
「では最大で行ってみようか?確か750だった筈だったからあと700くらい残ってるじゃろ?」
「完全人事だと思ってますよね!?これで何かあったら学院長に怒られるのはジャッカルさんも一緒なんですよ?!」
「大丈夫じゃ!ほれ、探究心を求めるための学院じゃ!さっさとやれい!」
ジャッカルさんは意味不明な言い訳を叫びつつ俺を急かした。俺は諦めて可能な限り人の居ない方向へと腕を向ける。
「『充填』」
俺の全ての魔力が腕に集まっていく感覚を感じる、すごいな・・・身体強化ではここまで魔力を使った経験が無かった、せいぜい地球に居た頃に探知魔法の魔方陣に魔力を籠めた時くらいか。
俺の全魔力が一箇所に集まるにしたがって周囲から悲鳴か叫び声らしきものが聞こえた。声の方へと視線を回すと先程の教師が生徒を避難させていた。
どうやら俺の異様な魔力の高まりに教師が気付いたようだ、何か途轍もない事態に避難を始めたようだ。俺はジャッカルさんへと視線を向けたが、ジャッカルさんは嬉しそうな顔で「撃て!」と叫んでいるだけだった。
「『発射』!!」
俺の言葉で全魔力が放出された。とてつもない威力で残ったわずかな魔力を身体強化へと回し留まるように足に力を籠める。筒からは閃光のような魔力の奔流が噴出して目標のある案山子へと伸びていく!魔力の奔流は案山子を一瞬で消滅させて更に先へと伸びていき・・・。
ズドォォォォォン!!!
途轍もない爆発が起きて俺は吹き飛ばされた。何が起きたか全く理解できず、だけどこれはお婆ちゃんに大目玉食らうなと漠然と思いつつ意識を失った。
どの程度気を失っていたのだろう、俺はどこかのベットの上で眼を覚ました。
「知らない天井だ・・・」
「そういうネタは要らないんだけど」
俺の台詞に横から突っ込みが来た。俺が頭を動かすとそこには椅子に座ったお婆ちゃんと姉、アリスが立っていた。頭を動かした瞬間に目の奥に痛みが走った感じがして顔をしかめた。
「大丈夫ですか?魔力の使いすぎで体に負担がかかったようです。しばらく安静にしていれば治るそうです」
アリスの言葉に気を失う前の記憶が蘇る。そうか、魔道砲の実験してたんだっけ。俺は腕を持ち上げてみると元の義手に戻っていた。
「あの後どうなったんだ?ジャッカルさんは何処へ?」
俺の言葉にお婆ちゃんが俺の頭を撫でながら説明してくれた。
「ジャッカルの馬鹿は私が厳重に注意をして今は反省房に入って貰っています。まったく、私のかわいいトーヤにこんな事して・・・今回ばかりは許しません」
怖い、笑顔で目が笑っていないという表情を初めて見た。俺は素直に謝る。
「お婆ちゃん、ごめんなさい。俺も調子に乗ってやったから同罪だよ」
俺の言葉にお婆ちゃんは優しく撫で続けて言った。
「トーヤは素直に謝れて偉いわ。ジャッカルの馬鹿は俺は悪くないだの、言い訳ばかり!近くに居た先生がちゃんと状況を見ててくれたわ。トーヤも悪いけどやっぱり諸悪の根源はジャッカルよ!」
聞いてみるとジャッカルさんは過去に何度も似たような事件を起こしていたらしい。様々な実験をしては教室の全壊くらいはあたりまえなのだそうだ。今回もジャッカルが絡んでいると知って他の教師達は「ああ、またか」という台詞しか出てこなかったらしいからお察しである。
俺はその日は医務室で休み、翌日朝まで寝ている事となった。夜が明けてアリスと姉に連れられて現場を見に行く。そこに広がっていた光景は・・・
「うわ、なんだこれ・・・」
訓練所だった所は俺が腕を向けていた方角に数十メートル程クレーターが出来ていた。
上級魔法を連発しても耐える魔法障壁を突き破って周囲を吹き飛ばしたらしい。
俺は言葉がでなかった、周囲に人的被害は出なかったようだし訓練所の向こうは空き地だったので被害総額はそんなに酷くは無いらしいが、それでも自分が数十メートルのクレーターを作ったことにショックを受けていた。
俺はその日から一週間訓練場の修復に勤しんでいた。身体強化と魔法でクレーターを埋め、壁を作り直す。偶に訓練中の生徒や教師から恐怖の目で見られたりしながらの作業は肉体的よりも精神的に辛い時間だった。
学院長からの説明はジャッカル爺さんが原因とされ、俺の名前は出なかったが当時近くに居た生徒から噂が流れたのだろう、俺も原因だと生徒の間に広まった。
「よう、トーヤ。手伝いに来たぜ」
声の方を見るとザップ達クラスメイトが近づいて来た。彼らは俺の噂を聞いても引くこと無く変わらない態度で接してくれた。嬉しくて涙が出る。問題を起こした時の対応で本当の友達かどうかわかると言うが、入学当時や今回の件を通して俺とザップは大分仲良くなっていた。
一ヶ月程度の付き合いにはなるが、体験入学を終えても何かあれば互いに力を貸すという事を約束するくらいには仲良くなっていた。他のクラスの生徒には怖がられているが、ザップ達は友と言ってもいいだろう。