第五十八話 魔改造
十夜の腕の改造のターンです、チートにならない程度にしたいと
思っています。
「一先ず、お主の能力から知らんとな。何が得意で何が不得意か?それを考慮せんと無意味な改造になってしまうんでの」
色々と改造リストを作っていたジャッカルさんが俺に尋ねてきた。割りとまともな事を言うな、もっと問答無用で台にでも縛り付けられて改造とか想像してたが・・・。俺はジャッカルさんからの質問に答えながら自分の戦闘スタイルや苦手分野などを紙に書いていく。
「ふむ、近接職で剣か殴りが中心で放出系魔法については初級程度と。だとすると遠距離の魔物に対して攻撃手段が皆無になるのう・・・、飛行系の魔物とかも出てくるしの。MPがいくらじゃ?・・・750か、少ないという事でも無いが多くも無いという所か」
遠距離の敵に対しての攻撃手段が足りてないことは痛感している。MPは出会った頃のアリス並にはあるんだが、やはり多いほうでは無いのだろうか?ジャッカルさんに尋ねると
「前衛職としては十分じゃろうな、だがギミックを発動させるのに魔法と同じく魔力を消費するからのう。それによってどの程度の代物が仕込めるか決まるんじゃ」
との事だった。成る程、機械式じゃなく魔法式だから発動は魔力を使うのか。普段使っている魔道具も少量ではあるが魔力を消費して使えるようになっている、火を付ける物や水を出すものもMP1~5程度だが消費するらしい。
「では遠距離攻撃用と、近距離用の攻撃と防御、範囲攻撃用は必須だとして、あとは何が必要かのう?」
ジャッカルさんに聞かれて俺はしばらく悩む、その3つがあれば十分じゃないかとは思うんだが・・・、あとは義手だと怪力が出せたりワイヤーが仕込めたりとかか?自分の義手が色々出来るんじゃないかと思うと楽しくなってくる。
結局ジャッカルさんと話し合い、5つの機能を組み込む事にした。
1.遠距離攻撃用・・・魔道砲という直径3cmくらいの筒に魔力を籠めると無属性の魔力弾が射出できる。威力は籠めた魔法に準ずる、単体か範囲かは籠めた魔力とイメージによる
2.近距離攻撃用・・・長さ20cmくらいの魔法の刃が飛び出してくる
3.近距離防御用・・・小範囲の結界を張る、魔法攻撃・直接攻撃どちらにも効果がある
4.怪力・・・籠めた魔力に比例して怪力が出せる、義手の素材によっては自壊する
5.アンカー射出・・・細いワイヤーを射出してアンカーで固定する事ができる、制限は300kg
正直に言うと調子に乗っていた、色々と決めるうちに楽しくなってしまったのだ。出来上がった腕を見ながら俺はジャッカルさんと同じ笑みを浮かべていた・・・。
「よし、こんな物かの?調整は実際に使ってみながら行おう」
ジャッカルさんに連れられて訓練所へとやってきた、少し離れた所に生徒達の姿が見える。どうやら魔法訓練の最中みたいで案山子に向けて魔法を撃っている生徒の姿があった。
「さてと、まずは簡単なやつから『魔法の細剣』!」
俺が叫ぶと義手の甲の辺りから長さ30cm幅2cm程の棒が出現した、剣というよりは細剣っぽい。本来長さがもう少し短く、剣のような物を出す技術だったのだが、長さが足りないのでちょっと弄って貰ったため形状が変化したようだ。これで武器を落したり持っていない状況でも戦えるわけだが、暗器を彷彿とさせる。しばらく細剣を案山子に突き刺してみたが特に問題は無い、魔力を増やせば固い物でも刺せるようだ。
「あくまで魔法で生成した物じゃから、魔法障壁や結界などがあると使えんだろう。そこは注意が必要じゃな」
ジャッカルさんが俺の腕を見て満足気に頷く、俺も暫く弄っていたが魔法を解除する。
「これで無手のときでも攻撃の幅が増えますね、今までは殴るだけだったからなぁ」
俺は次に案山子に向けて右手を突き出して魔法を発動させる。
「『アンカー』」
俺の短い言葉に反応して手の甲から魔法の鎖が伸びていく。鎖は案山子にぶつかると固定されたようで引っ張ってもびくともしない。
「これって、刺さっているわけじゃないんですよね?どんな仕組みなんだろう?」
「それは物理的なものじゃなく魔法で作り出した物じゃからのう、鎖部分は『束縛』で本来は相手を縛るための部分を流用したものだし、先端部分は目標と接着するよう魔法が籠められておる」
俺は全力で引っ張りながらも使い道について考える。これは縮めたり出来ないんだろうか?
「これって縮めたりできないですかね?」
「そんな事できるわけないだろう?出来たら『束縛』された奴が細切れになってしまっておるじゃろ」
そこは一緒に改造しとけよ、と俺は小さく呟く。まあ、無理な物はしょうがない・・・、落下したり落とし穴に落ちたときの緊急用だと思えばいいか・・・。
次は近距離用の小型結界を張るのだが、これは試すのに一人だと無理なので近くを通った生徒を捕まえてお願いすることにした。結論としては初級魔法であれば完全に防ぐことがわかった。直径は2m程度なので無理をすれば三人くらい入れそうな規模の結界だった。
問題としてはいくら魔力を籠めても中級魔法は完全に防げなかった、直撃は避けるのだが爆風で数メートル吹き飛ばされた。頼んだ生徒はとても慌てていたが気にしないよう言って帰って貰った。
次に怪力を試す、これは魔力を籠めれば自動的に発動するので簡単だった。案山子の頭にある兜を掴み、魔力を徐々に流していく。義手がオリハルコンだし鉄相手なら勝てる筈だ。
ギシギシと音が鳴り、徐々にだが俺の手が兜にめり込んでいく。かなり魔力を食うな・・・十秒程魔力を流していると兜がバキン!という音と共に拉げた。
「最初だからか感覚が掴めないな、もう少し試してみるか」
俺は並んでいた案山子の兜を数個使ってどの程度魔力を籠めると潰せるかを試してみた。慣れてくると瞬間的に潰せるようになったので満足気にしていると・・・。
「トーヤ殿?訓練用の案山子を壊さないで頂きたいのですが?!」
離れた所で生徒の訓練をしていた教師の一人に怒られた・・・。俺は謝って後で弁償する事を約束するとやっと教師は戻っていった。気を取り直して俺は遂に最後の実験を行う。