第五十七話 マッドな?
結局その日は顔を見合わせる度にニヤニヤされたので二人で部屋に篭っていた。俺の世界からもってきた本を見たりベッドでゴロゴロしたりと二人の時間を楽しんだ。
アリスと異世界に来てからこれだけ幸せな時間を過ごしたのは初めてだった。
以前は恋人とか興味なかったけど自分に出来ると気持ちも変わるものなんだな。アリスと結ばれてこれからも一緒に居るためならどんな障害があっても頑張れそうだ、親父たちもこんな気持ちで駈け落ちまでしたのだろうか?そんな気持ちになるなんてなと考えながら二人の時間を過ごした。
翌朝、学院へと俺達三人は向かっていた。未だ体験入学は二十日程は残っている、残った期間で少しでも今後に繋がるスキルを手に入れるか成長したいところではある。
以前アリスから聞いた話では魔道具製作と魔術応用だっけか?姉は魔術応用を習ってみるそうだ、地球での知識や姉の頭の良さがあれば新しい魔法でも開発しそうだな。そうすると、俺は魔道具製作でも習ってみるか、いい加減この義手にも何かのギミック付けてみたいからな。
「じゃあ、俺は魔道具製作の教室でも覗いてみるけどアリスはどうする?」
俺が尋ねるとアリスは姉と一緒に魔術応用の教室へと行くようだった。地球で少し得た知識や姉と協力して何か魔法でも開発を試みるそうだ。一人だと寂しい気がしたが諦めて二人と別れて別の教室へと向かった。
「すいませーん、魔道具製作の研究室ってここでよかっ・・・」
俺が扉を開けて挨拶をしている途中でドォーーン!!と激しい音と共に煙が俺へと向かってくる!俺は「うぉ?!」と叫びながら扉から横へと飛び爆風?を回避する。
一体何が起きたんだ?俺は煙の引いた教室をそっと覗きこんだ・・・。未だ天井あたりは煙が漂っていて部屋の中はうっすらと暗い、特に人影が見えなかったが俺は中へと入ってみる。
「あの~どなたかおられませんか?というか、無事ですか?」
俺は言葉に出しながら中へと進んでいく、色々な機材やガラクタ?があちこちに散乱していて下手に触ると崩してしまいそうな有様だ。部屋の中心と思われる場所まで来ると足元に何か物体が転がっていた。よく見ると人のようだ、白衣と思しき服は黒ずんでボロボロ、髪と髭が伸びきっていて浮浪者のようだ。俺は人影を転がして仰向けにしてみる、見ると老人のようだが身体ががっしりしている、これはドワーフか?物造りとドワーフは何もおかしくないがそれにしても身なりが・・・。
俺が爺さんを覗き込んでいると、突然「カッ!」と目を見開き立ち上がった。俺は驚いて尻餅をついてしまった。
「うぉおおおおお!失敗じゃぁっぁぁ!だが諦めんぞぉ次こそは・・・。ん?お主だれじゃ?」
爺さんはそう言うとやっと俺の存在に気付いたようで誰か尋ねてきた。俺は息を整え気持ちを落ち着けてから名乗った。すると爺さんは「おお、そういえば聞いたような名前じゃな」と頷いたあと俺に挨拶をしてきた。
「すまんのぅ、ワシはドワーフのジャッカルと申す。見ての通り研究者で日々新たな魔道具の開発に取り組んでおるのじゃよ」
見ての通りかは兎も角として、どうやら研究者らしい。少し話を聞いていくとどうやらこの魔道具製作の担任らしい。・・・これ程教師に似合わない人も珍しいが。
「それで、魔道具の作り方を学びに来たのですけど。お忙しいなら出ていきますが・・・」
俺は可能であればここから逃げ出したかった、絶対何かに巻き込まれるような気がしたからだ。だが俺の願いは虚しく打ち砕かれた。
「いやいや、ワシが研究をするのは生徒がおらん間だけじゃ。生徒が来たからにはしっかりと教えるぞ!・・・でなければレイネシアの嬢ちゃんに追い出されるわい」
ジャッカル爺さんはそう言って部屋を片付け始めた。ん?今なんて言ったっけ”レイネシアの嬢ちゃん”?あの、レイネシアのって俺の婆ちゃんの事か?疑問に思って俺はジャッカルの爺さんに尋ねた。
「ああそうじゃ。ワシが若いころからレイネシアの嬢ちゃんとは一緒に冒険もした仲でのぅ?ワシが五十歳くらいの時はまだ嬢ちゃんは十三歳くらいじゃった」
ドワーフも妖精族なだけあって長寿なようだ、ジャッカルさんは既に百歳を越していてまだ更に百年は生きるそうだ。ちなみにエルフは五百年くらいが平均、ドワーフは二百年と言われている。ついでにだが人族と獣族は百年、魔族は百五十年程度だ。
「それで?お主は魔道具を作りたいとの事じゃったが、具体的に何を作りたいというのはあるのかの?」
ジャッカルさんに言われて俺は右手の義手を見せた、これを強化できないかが俺の目標である。俺の右手を見たジャッカルさんは目を細めてじっと俺の義手を見ている。
「お主、その右手は魔法でか?素材はおりはるオリハルコンか?!だとすると禁書庫にあった魔族の魔法か。出所はアリスティアの嬢ちゃんだろう?近年禁書庫に入ったのはあの嬢ちゃんしか居らんからのぅ」
すごい、全部当たってる!俺は驚きジャッカル爺さんの顔を見た。ジャッカルさんは当然だと言う顔で義手を見ている。・・・が若干口の端が上がっているような気がする。
「ほっほっほ、いいぞ!これを改造して色々と強くしたいのならワシも協力しよう。こんな時の為に温めておいたアイデアが沢山あるんじゃ!今こそそのアイデアを実践する時じゃ!」
ジャッカル爺さんは目を輝かせて立ち上がる、俺は頬を汗が伝うのを感じた。
「・・・あ、これヤバイ奴だマッド的な人だぞ絶対・・・」
俺の呟きはジャッカルさんには聞こえなかったようで、部屋のあちこちから図面や素材を楽しそうに集めている。俺は不安と部屋を訪れた事に後悔しながら成り行きに身を任せるしか無かった。