第五十三話 学院生活
「お疲れ様、最後は想定外の危険があったようね?三人は怪我は無かった?」
学院へと戻った俺達は翌日学院長から労いの言葉を貰い、ダンジョン四層での事を中心に経過と結果を報告した。種別の違う魔物が群れを作っていたという所ではお婆ちゃんも表情を曇らせていた。
「成る程・・・、白い固体が群れを率いていたのね。ありがとう、詳しくは学院で調査しておきます。遺骸はジェシカがアイテムボックスに入れているのね?研究室に運ぶよう言っておくわ」
気になってはいたので白い固体について心当たりが無いかと思ってお婆ちゃんに尋ねるとしばらく思案した後昔の事だけど、と話始めた。
「若い頃だけど、冒険者としてあちこち旅していた頃似たような事があったわ。その時は白い竜だったかしらね・・・、下位のドラゴンだったけど一つの地域の魔物の全てを率いていたわ」
お婆ちゃんの話だとその白いドラゴンは無秩序な群れを統率していたらしい。地域一帯の魔物を全部ってどれだけの規模なんだよ・・・、下手すれば王都くらい壊滅できるんじゃないか?
その時は緊急依頼という事で全ての冒険者、それこそ国中に通達が出されて強制的に討伐隊を組んだらしい。かなりの被害を出しながらも白いドラゴンを倒すと他の魔物はあちこちに散っていったらしい。今回と規模は違うが似たような状況だな、ダンジョン内という閉鎖空間だったからこの程度で済んだが下手すれば白いドラゴンの二の舞だったのだろうか?
結局それ以降同じ事は無かったので白いドラゴンについては特に調査はしなかったようだ。だが、今回まで数十年経っているとはいえ同様の事態となり徹底的に研究してみるとの事だった。
「ふう、予定外の事態だけどトーヤ達が倒してくれてよかったわ。今回の事で気付いていなかったら更に規模が大きくなってダンジョンから這い出してきたかもしれないもの」
お婆ちゃんに感謝され、ザップ達の事はついでのようだったが礼をされた。まああれだけの事態があればザップの事は些細なことだな。体験入学からまだ二日程度だが依頼された事についてはクリアしたので後は普通に学院で勉強するだけとなる、良くも悪くも今回の事で名前が売れたから知名度が少しは上がっただろう、そう考えていて思い出したのでお婆ちゃんに聞く。
「そういえば、親父達の事何か分かった?」
俺の問いかけにお婆ちゃんが首を横に振りながら「いいえ」と答えた。
「今は国内は元より多種族の国にも人を送っているのだけど、めぼしい情報は無いわね。妖精族や獣族の国だと人族や魔族は目立つから恐らく居ないわね。残るは人族のどこかの国か魔族の国だけど、この二つは広いから・・・」
まあ、直ぐに見つかるとも思っていなかったから特に残念という気持ちは無い。今は冒険者としての活動も楽しいしな。お婆ちゃんに焦らなくていいよと伝え、用件の終えた俺達は学院長の部屋から退出した。
部屋から出ると、外に数人の人影が見えた。どうやらザップ達とジェシカ先生が俺達が出て来るのを待っていたようだ。
「トーヤ・・・だっけな、その・・・ダンジョンでは迷惑かけた。改めて助けてくれてありがとう」
ザップ達が頭を下げた、隣ではジェシカ先生が嬉しそうに一緒に頭を下げている。
「俺は流れで助けただけだ、直接お前達を助けたのはジェシカ先生達なんだからお礼は先生だけでいいと思うぞ?」
俺はそう言ったがザップ達の気が済むならありがたく礼は受け取ろう。見る限りザップ達とジェシカ先生の間にはちゃんと信頼関係が戻りつつあるようだ。しばらく俺も学院に居るし様子を継続して見ていくか。
「想定外で入学初日からダンジョンに潜ったが、一ヶ月体験入学で学院に居る予定だ。色々思うところもあるかもしれないけど、これからは仲良くしてくれると助かる」
俺の言葉にザップ達も頷き「よろしく」と挨拶をして戻っていった。昨日の今日だから気持ちの整理が付くかわからないが、学友として軋轢無く過ごせればいいなと思う。
ザップ達が戻るとジェシカ先生だけが俺達のところに残り改めて御礼を言われた。
「私からも礼を言わせてね、ザップ君達も反抗的な態度が無くなったようだし。何より命を救ってくれてありがとう、大切な生徒ですから・・・」
「いや、ザップ達の態度が直ったのは先生の力だよ、俺は場を設けただけだ」
俺はそう言い、明日からもよろしくとだけ伝えて教室へと向かった。昨日はダンジョンの問題があって授業何も受けてなかったからな。久々の学院生活楽しんでみるかな~。
午前中の授業が終わった今現在、周りには人だかりができている。生徒達が昨日の事について尋ねて来るのだが、遠くでザップ達が居心地悪そうにしているので若干事実を曲げて話す。
「四層で俺達とザップ君達が魔物の群れに囲まれた、ジェシカ先生達に助けられた」
俺はそう言い、いかにジェシカ先生達が強かったかを語るとザップ達が驚いた表情で俺を見た。俺はザップ達とはもう戦友だと言い、姉もアリスも笑顔でそれを認めると俺達だけでなくザップ達にも生徒が色々と聞こうと近寄っていく。
これでザップ達がクラスで孤立する事は避けられるだろうか?今までの態度はあっても根っから嫌われていたわけでは無いのだろうし今後普通に生活できればいいと思う。
今日の学院での生活は概ね問題も無く過ごした、男がアリスへ親しげに話しかけている事に俺が嫉妬したり、俺の周囲に女学生が集まってアリスの表情が険しくなったくらいで、うん本当に特に問題も無かった。家に帰ってからが怖いけど・・・。
一日の授業が終わり家へと帰る道すがら、俺とアリスはお互いに今日の態度について言い合っていた。
「ちょっとあの男は近すぎるんじゃないか?」「トーヤ女生徒に囲まれて鼻の下伸びてませんでした?」
俺達の言い合いに姉が苦笑しながら俺達をなだめた。
「嫉妬するのはいいけど、度が過ぎるとお互いを信頼してないことになるからね?あれなら公表して公認カップルだって事にすればいいのよ」
姉の言葉に今度は俺達が顔を真っ赤にする、公認カップルとかどんな公開処刑かと思う。だけど、お互いに悪い虫が付かないのを考えるとそれも一考の価値があるか?その一言を境にピタっと言い合いを止めた俺達は逆に甘い雰囲気を出して歩く。今度は逆に姉が居心地悪そうにして後ろを離れて歩きながら呟いた。
「もう・・・痴話喧嘩は犬も食わないというけど。はぁ・・・私も彼氏欲しいなぁ・・・」
その呟きは聞こえていたけれど、あえて聞こえない振りをして家へと帰る道を歩き続けた。