第五十二話 決着
四層は想定通り敵が多い、ウルフを二匹相手している最中にトラのような大型の獣が襲ってきたりと周囲の警戒を怠れない。四層に降りて二十分程度なのに倒した魔物の数が十五匹を越えていた。
「四層ってこんなに多いのかよ?!」
俺は若干焦りながら叫ぶ、これだけの数が襲ってくるならザップ達はかなり危険な状況に陥っているのではないだろうか?性根を叩きなおすだけのつもりで別段死なせたくは無いのだから。
「事前に聞いていた状況より明らかに異常です!群れが発生したか何らかの異変が起きてると思いますが・・・。兎も角先を急ぎましょう」
アリスが叫び返す。流石にアリスも気が急いてるようだ、表情に余裕が無くなっていた。
ザップ達にはジェシカ先生の教師チームが付いているから余程の事が無ければ無事だろう。俺は焦る気持ちを抑えながら先へと進む。
すると、前方に魔物の群れが見えた。群れはウルフやトラ、ゴリラ等複数の魔物の混成だった。俺達と逆側を向いているってことは反対側に先生達が居るのか?俺は身体強化を掛けつつ魔物に向かって奇襲を掛ける。
「ジェシカ先生!近くにいるのか?居たら返事してくれ!」
数匹のトラやウルフに致命傷を与えながら叫ぶ、別な種類の魔物が群れを作っているなんて聞いた事が無い。明らかに群れを纏めているボスらしき奴が居そうだ。
「トーヤさん!こっちは囲まれていて身動きがとれません!全員無事ですが怪我人が多くて!」
群れの反対側からジェシカ先生の切迫した叫び声が聞こえた。どうやら全員無事なようだが予断できない状況のようだ。
「姉貴、アリス。魔法で全体への殲滅を開始!その後俺が突っ込むからフォローよろしく!」
俺は叫び魔物の群れから全力で離れる、俺の言葉を受けると同時にまずは姉の魔法が発動する。
「『氷結の嵐』!!」
姉が使える最強の魔法が発動した!最近覚えた水系の上級魔法だ。魔物の群れに氷の礫が襲い掛かり、体毛に覆われた獣共をズタズタにしていく。
「全て切り裂け!『千の刃』!」
続いてアリスの風系上級魔法が発動し追い討ちを掛ける!
「「ギャウン!」」
獣の魔物は最初の姉の魔法で動きが鈍くなったところへの追撃で避ける事も出来ずに細切れになって倒れていき、ダンジョンの床一面に血の海ができた。
獣の群れで出来た血の海を俺が一瞬で走りぬけ、魔物を蹴散らしながら群れを抜ける。その先にはジェシカ先生達に守られるように傷だらけのザップ達の姿が見えた。
「先生、ザップ!無事か?!」
俺が声を掛けるとジェシカ先生達の顔に安堵の色が浮かんだ。逆にザップ達は恐怖に怯えたまま五人が固まって震えていた。俺は周囲の魔物を切りつけ怯ませるとジェシカ先生達と合流する。
「トーヤさん!アリスたちは?」
「大丈夫だ、この群れの向こうにいる。直ぐにでも蹴散らしてやるさ!」
ジェシカ先生の言葉に軽く答える。一先ず群れのボスを見つけなければならないが、数が数だ。俺達が全ての雑魚を相手にするのは時間が勿体ないな・・・。俺はそう考えると震えたままのザップ達に話しかけた。
「おい!ザップ達。よく四層まで辿り着いたじゃないか。口先だけじゃないって認めてやるよ!」
俺の言葉に震えていたザップ達が初めて俺に気付いたかのように顔を上げた。俺は更に言葉を続けた。
「お前らの実力、認めてやんよ!だけどそれでもお前らを守ったジェシカ先生達の事はこれからは敬えよ?俺はお前達を認める、お前達はジェシカ先生達を認める。それでいいだろ?」
未だ恐怖に怯えていた顔が少しマシになった。ジェシカ先生の顔を見てザップが呟くように謝った。
「ジェシカ先生、ごめんなさい・・・。俺達自惚れてた・・・、先生達が実力もあって強いんだって理解出来た。助けてくれて・・・・ありがとう」
ザップの言葉にジェシカ先生はいつもの笑顔を浮かべザップ達を許した。さて、これで依頼分はクリアかな?後はこいつら片付けて送り返すだけだな!
「ザップ!立ち直ったら傷を癒して雑魚の殲滅に協力しろ!俺達だけで全部は無理だ、群れのボスを叩くしかないから力を貸せ!」
俺がまさか力を貸せと言うとは思わなかったのだろう、ザップ達は一瞬驚いていたが、すぐ歯をくりしばり立ち上がった。
「任せろ!数が多くて一旦は追い込まれたけど、全員で撃ちこめば俺でもやれるさ!」
ザップはチームメンバーに声を掛け傷を癒し始める。体勢を立て直すまで俺達で時間を稼ぐしかないが、適当に魔物を倒ししながら群れのボスを探す為気配を察知するスキルを最大に高める。
周囲に魔物の数が多い為かなかなか上手く感じられない、だが異質な気配を感じた方向があった。そっちへ向かい魔物を切りつけ、叩き伏せる。
その時、姉とアリスの方向から再度上級魔法が放たれた!俺が来た方向の魔物がほぼ壊滅したようで、姉とアリスの無事な姿が見えた。
「アリス!俺は群れのボスを叩く、ザップ達と雑魚を殲滅してくれ!姉貴は俺とボス叩くぞ!」
俺の言葉に二人は直ぐに行動を開始する。アリスはジェシカ先生と合流して初級・中級魔法で雑魚を順に始末していく。そして姉は俺の移動してきて俺と共に周囲の魔物を突き刺す。
「ザップ達の問題は解決した。あとはボス叩くぞ」
俺は姉にだけ聞こえるよう状況を伝えた、姉は不敵に笑って「お疲れ」とだけ返した。
二人で魔物の群れの奥に進むと白い体毛に覆われた巨大なゴリラが現れた。こいつか?異質な気配を感じるが、強さ的にはそこまで周囲の魔物と違わないような感じがする。
姉の魔法の援護を受け、全身の身体強化を最大にして白ゴリラに突っ込む。ゴリラは巨大な腕に棍棒を持って振り下ろしてくるが、俺が右手で受けると棍棒は半ばから圧し折れた。
「流石オリハルコン!頑丈だぜ!」
俺は獲物が無くなった白ゴリラの鳩尾に一発いれると下がった頭にもう一発拳を叩き込んだ。白ゴリラの巨体がグラっと揺れる。今の一撃で脳震盪を起したようだ。やはり他の固体と強さは変わらないな、なんでこんなのが群れのリーダーだったのだろうか?
俺は疑問を感じつつ、剣を首に突き刺し止めをさした。
白いゴリラを倒すと周囲に居た他のゴリラ共が雄叫びを上げて俺達に襲い掛かる、逆にゴリラ以外は何かから開放されたかのように一目散に俺達から逃げ去っていった。
襲い掛かってくるゴリラに向かってジェシカ先生やザップ達から魔法が飛ぶ、俺と姉は巻き込まれないよう下がりながら魔物が減っていく様子を眺めていた。
「どうやら、この固体はメスのようですね。詳しくは持ち帰って調べないと分からないですけど恐らくこのメスが他のオスを支配していたのでしょう」
ジェシカ先生が白いゴリラを調べながら推測を述べた。女王のような固体だったのだろうか?群れを作ったゴリラに更に使役される感じでウルフや他の動物型の魔物が一緒に居たのかもしれない。
群れが居なくなって静かになったダンジョン内で俺達は休息を取っていた。全員疲れきってはいたが、誰も犠牲者はいなかったようだ。
俺は手持ちの回復薬をザップ達に与えた、一度一緒に戦えば戦友だ。細かい事を気にする性格じゃないので気安く話しかけるとザップ達も謝りながら回復薬を受け取った。
しばらく休んだ後、俺達は地表へと戻る道を帰っていった。