第五十一話 ダンジョン
更新遅くなりました。本日分です
俺達はダンジョンの一層へと続く階段を下っている。事前に俺達もザップのグループも何層にどんな魔物がいるかは教えて貰っている、一層にはスライムやウッドゴーレムのような魔法生物が出るらしい。どちらも火の魔法に弱い為、ザップ達も余裕で通過しているだろう。
足早に、だけど油断はせず一層を進んで行く、スライムは不定形のドロドロした奴で壁や天井に張り付いて通る者に突然襲い掛かる、保護色なのか色が壁と同化しているので発見が遅れると頭や体にくっつかれてしまい、そこから徐々に消化される。まあ、俺達には合宿で鍛えた気配を察知する能力もあるし、魔法の気配探知も有効なので問題は無い。ウッドゴーレムは小人のような身長1mくらいの木製ゴーレムである、特に武器を持っている訳ではなく、木の腕で殴ってくるだけなので余程当たり所が悪くなければ致命傷にはならないだろう。
スライムは姉とアリスが火の初級魔法を放ち追い払う、別に倒す目的でも無いので追い払えれば問題は無い。・・・偶にクリティカルなのか蒸発して死ぬスライムがいたが。
ウッドゴーレムは俺の担当だ、胸に動力のコアがあるので右手で殴り破壊するだけの簡単なお仕事だ。大して苦労もせず進み、30分程で二層への階段が目の前に現れる。
ちなみにダンジョンと言っても迷宮のように複雑な構造にはなっていない、精々二手に分かれる通路があるくらいで、どちらを進んでも難易度に違いはあっても最終的に階段には辿り着く。
二層はゴブリンやコボルトなどの亜人系モンスターだ、ここは生き物を殺す事に嫌悪感があれば苦労しそうなのと、一応知恵があるから連携された動きや武器を投擲してくるので初心者には厳しいかもしれない。とはいえ、そこまで集団で襲ってくるわけではない、精々多くて五匹くらいなので落ち着いていけば十分ザップ達でも倒せるとは思っている。
「っと、これで全部倒したな。追いついて居ないって事はザップ達は三層に到着してるか?」
襲って来たゴブリンの一団を倒し、俺は一息つくためにアイテムボックスから水筒を出して水を飲んだ。ダンジョンに入ってからもう一時間は経過している、そろそろ三層が見えてくる筈なのでザップ達は先に進んでいるのだろう。
「恐らくそうですね、でも私達も大概ですけどダンジョン初心者がこのペースで進み続けると魔力の枯渇が心配ですね。私とアキさんは総量が多いので全然大丈夫ですけど・・・」
アリスが心配そうに言う、俺達は俺や姉が前衛も出来るのでMPに余裕があるが、ザップ達は全員が純然たる魔法使いだ。本来なら休憩を取り回復をしつつ進むのがセオリーなのだが・・・。
「装備が成金っぽかったしMP回復薬とかも持ってるんじゃない?」
俺とアリスの疑問に姉が答えた。確かに金に任せて回復薬という手があるか。傷の治療薬と違い結構値が張るので俺達も何本かだけは用意して冒険に出ていたけど、使った事が無かったので忘れていた。
「成る程、じゃあ予想以上に進みが速い可能性があるな。小休憩したら俺達も進むか」
俺の言葉に姉もアリスも頷く、正直戦闘では全く疲れていない。精々一時間も移動したことでの足の疲れくらいだが、冒険で半日移動したりする事に比べれば何ということはない。
更に三層へと向かう、ここからは今までと敵のランクが異なり更に強くなる。
「姉貴は左から!俺が隙を作るから弱点突いてくれ!」
俺の声に応じて姉が弱点であるコアを狙って槍を突き刺す、今俺達が相対している敵はアイアンゴーレムだ。腕が三対ある奴でそれぞれ武器を握っている、金属製なだけあって武器も魔法もダメージが通りにくく、持久戦に持ち込まれ易い敵だ。
弱点は腕の合間にある水晶、そこがコアになっている。だが三対もある腕から繰り出される武器に阻まれ接近戦は厳しい、そして魔法を放っても腕に当たって邪魔されるのだ。
俺はリザードマンとの戦いの後新調した剣で相手の武器を受け止めつつ、合間を縫って右手の義手でゴーレムの腕を掴む。接触した俺とゴーレムの隙間を縫って姉からの槍が突きこまれ弱点のコアを破壊する、 そうしてやっとゴーレムは動きを止めた。
「ふう、お疲れさん。やっぱりアイアンゴーレムは手間がかかるな、話に聞いてた通りだぜ」
直撃は食らっていないが、一体に掛かる時間が長い分何発かは攻撃が掠る。つくづく右手が義手でよかったと思う、普通の盾とかだとゴーレム数体でお釈迦になってる所だ。
「ザップさん達は大丈夫なんでしょうかね?いくらジェシカ先生が見守っているとは言え・・・」
アリスが競争相手であるザップ達の心配をしてダンジョンの先を見つめた。確かに魔法使いのみの構成であるあいつらには厳しいだろうが・・・。
「だが、そこが俺の意図だからな。あいつらが苦戦したところにジェシカ先生が助けに入って窮地を救うって。すんなり最下層まで行かれると逆に困るんだが」
俺の言葉に不安の色を顔に浮かべつつ「そうですね」と頷くアリス、まあそれでザップ達が性根を入れ替えるまではわからないが、少なくともジェシカ先生の言う事に反抗する事は減ると思うんだ。
しばらく三層を進むと四層の階段が見えてきた。流石に俺達も疲れが溜まってきたのでここで休憩を取る。すると階段の近くに小さく紙片が落ちているのを見つけた。
広げてみると先行してザップ達を見守っているジェシカ先生のチームの一人から俺達に宛てたメモだった。
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チーム『侍』殿
ザップ君のチームは三層で数名の怪我人が出ましたが何とか四層へと辿り着きました。怪我は治療薬や治癒魔法で治していますが在庫がかなり減ったようです。今の調子では四層は無理だと諭したのですが聞く耳持たれず、大して休憩も取らず四層へと降りるようです。
予定通り危険と判断した時点で我々が止めますが、トーヤ殿も可能であれば追いついて頂きたく思います。
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メモには文面と共にザップ達が四層へと降りた時刻が書かれていた。どうやら俺達と15分くらいしか離れていないようだ。俺はメモを二人に見せてから休憩の続きをとった。
「四層は何が出るんだっけ?」
休憩を取りつつアリスに尋ねた、アリスは水筒の水を飲んでいたが俺の質問に答えてくれた。
「四層は今より更に厳しいですね、動物系の魔物が多く数種類が同時に出るようです」
四層はウルフやゴリラのような動物が多数出現するらしい、そして稀にだが群れを作り集団で襲ってくる事もあるそうだ。過去の事例だとウルフの群れ二十匹が同時に襲って来た事もあり、熟練の冒険者でも苦戦したという報告がある。
「流石に集団だとジェシカ先生達が助けに入っても危ないか・・・。よし、俺達も合流できるように少し急ぐか」
二人共多少疲れは残っているようだが俺の言葉に頷き休憩を終えた。四層への階段を降り、少し足早で先へと進む。