第五話 彼女と禁書の魔法
2015/01/18 百十三話との整合性をとるため
『四肢の欠損は高位の回復魔法で再生が可能』という表記を
『四肢の欠損は断裂した部位があれば高位の回復魔法で治療が可能でした。ただし、粉々になっていない事』という条件に変更しました。
「まあ、魔法が無いぶん科学とか機械が発達してるからねぇ」
俺は姉にいれてもらったコーヒーを片手にアリスに説明をした。この世界は魔法が無い代わりに科学で全てが解明されつつある世界であること、火が燃えるのも水が蒸発したり竜巻などの自然現象も全て科学で説明できることを教えた。
「科学ですか~、すごいですね!魔法も無いのによく不自由なく生活できるものと思いましたが、科学も勉強したいです!」
アリスが科学に興味を示すので俺は押入れにしまってあった小中の教科書を後で貸すことを約束したが、アリスは今日の買い物も含め教えて貰ってばかりだと申し訳なさそうだった。
「そうだ!生活に必要な部分で魔法で代用できそうな事は私がやります!」
アリスの居た世界では生活魔法という一般でも普及している魔法があるそうで、それでこちらの世界でも活用できるらしい。
「まず、水が出せますので洗い物やお風呂の水は代用できますし、明かりも魔法で照らすことができますね!あとは・・・浄化魔法というのがありまして、対象の汚れを落とすことができる魔法なのですが、洗濯や掃除に活用できますね」
アリスが提案した魔法は姉がとても喜んだ!
「すごいわ!アリスちゃん。そこを代用して貰えるだけで水道代と電気代、掃除と洗濯の手間がだいぶ省けるし助かるわ!」
家電は流石に電気を使うとしても、毎日の蛍光灯での消費電力分が浮く計算だ。他にも掃除機での電気や洗濯での水、電気の使用も計算すると月に何千円かは光熱費が浮く計算だ。
姉の給料と親の残した預金に頼って生活していた俺たちにとって、これはかなり嬉しい金額であり、アリスが増えた分の食費とで相殺できるのではないだろうか?
今はアリスしか魔法が使えないから負担が大きいだろうが、俺や姉が魔法を使えるようになれば作業も分担でき利便性があがりそうだ。俺がこんな腕だから姉に負担ばかりかけてきたしなと俺が伝えると、アリスは少し聞きたいことがあると俺に話しかけてきた。
それは俺の腕のことだった、何故隻腕なのか?と。
俺は以前の事故の事をアリスに語った。一年半前に子供を庇って事故に遭ったこと、この世界での医療では切断するしか無かったこと、現存の義手では元の生活での作業は行えない事などを順に説明した。
アリスは成る程と頷きながら、向こうの世界での事を語って聞かせてくれた。
「フォーセンティアではまず、四肢の欠損は断裂した部位があれば高位の回復魔法で治療が可能でした。ただし、粉々になっていたり欠損してから刻が過ぎていないことが前提ですが」
これは気持ち的に微妙な情報だ、つまり今の俺の状態では治癒できないということである。現代でいう接合手術のようなものだろうか?断裂だけでなく複雑骨折くらいでも治せるが、ロータリーで砕けてしまうと駄目とか?
「ですので、トーヤさんの場合ですと今もしこの回復魔法を受けても再生はしません。そこで別な手段ですが、私は魔術学院に在籍中に主席の特権として禁書と呼ばれる書物の閲覧を許されました。そこには失った四肢を補う為の魔導技術に関しての記載がありました」
俺はアリスの言葉を聞き驚喜した!まさか、俺の腕がまた元に戻るのか?!
「そ、それはアリスは使える魔法なのか?!お、俺の腕がまた使えるようになるのか?!」
俺はアリスの肩をつかみ、揺さ振りながら聞いたがアリスの表情は暗かった。
「アリスちゃん、その魔導技術は禁書に書かれていたのよね?それは何故?」
姉の言葉で俺はハッとした、そうだ禁書なんていうのは大概ヤバい事が書かれていると相場が決まっている。俺は沸いてきた失望感を胸にアリスの言葉を待った。
「結論だけ言うとトーヤさんにその魔法を使う事は可能だと思います。問題なのはこれが魔族にのみ使用されてきた技術という事です。
その魔導技術で生み出された四肢は素材によって何かしらの特殊な力が宿るそうでして、人間に使用した場合に被術者がその特殊な力に負けてしまう事があるそうなのです」
アリスが見た禁書によれば、欠損した四肢を補うためには被術者の切断面に魔方陣を彫りこみ、そこへ様々な素材を接合し魔法を発動すると義体となるらしい。
しかし、その義体は何かしら力を持つ。それは怪力になるなどの肉体的強化や、伸縮などの形状の変化、又は魔法への適応を著しく変化させ耐性を得たり魔法の威力が上がったりする事もあるらしい。
問題なのは、精神への影響である。本来持ち得なかった力を得た体は拒絶反応をおこしたり、感情の躁鬱や異常な破壊衝動、ひどい場合には殺戮衝動まで起きる場合があるという。
しかし、俺はもう一度腕が動かせるかもしれない、元の生活に戻れるかもしれないという希望を捨て切れなかった。それに何も変化が起きず普通に生活が出来る可能性は皆無ではないらしい、俺は僅かな可能性だとしてもこの魔法に賭けてみたかった。
「アリス!その魔法を是非俺にかけてくれ!もし俺に何か変化が起きたなら姉やアリスが止めてくれ!頼む!!」
俺はアリスに懇願した。姉も何かあれば私が止めるから、とアリスに頼んでくれた。姉も格闘技では俺に適わないが槍術や棒術では俺よりも強い。
「分かりました。では明日、トーヤさんの腕への施術を行いましょう。ただし!義手はこの世界で公にはできない方法で出来ています。そこはうまく周りを誤魔化してくださいね?」
アリスは俺の想いを酌んでくれたようだ。
「まあ、人間に施術した際の影響も興味ありますし(ボソ)」
・・・何か聞こえた気がするが雰囲気が台無しになるのでスルーした。