第四十五話 セバスチャン
学院へと出かけた日から二日ばかり、俺達は依頼は受けずに王都の郊外で合宿の復習がてら体を動かしていた。やはり合宿前に比べて体の動きがスムーズになっている、気配を察知する能力も街中と郊外とで使い分けられるようになったので街での不快感が大分減った。
「大分連携も形になってきたよな、もう前みたいな隙も無くなってきたように感じるし」
俺は汗を拭いながら二人に話しかけた、二人共息を切らせながらその場に座り込む。
「十夜、あなた合宿で異様に体力ついてない?この世界に来た頃なら私のほうが体力あったのに・・・」
「そうですね、内燃系に特化しちゃいましたね。身体強化だけならバトラさんに並ぶんじゃないですか?その代わりなのか放出系は初級以上伸びませんけど・・・」
二人から体力バカの称号を貰ったようだ、そんなに体力あがったかなぁ?確かにカード上のPAは上がったけど自覚症状があるわけじゃないし。体力測定とかあれば比較できるのかな?100m走とか垂直とびとか、今度測って高校時代と比較してみよう。
しばらく休憩してから街へと戻る、今日はお婆ちゃんの紹介でメイドさんと執事の人を学院で面接する予定なのだ。メイドさんとかかわいい人なのかな~と考えていると横からアリスが頬を膨らませながら俺の脇腹を突いた。
「トーヤ?なんか変な事考えてません?鼻の下伸びてましたよ・・・」
おっと、顔にでてたか?どうせなら可愛い方がいいってだけで俺にはアリスが居るしな。
「なんでもないよ、今日面接する執事ってどんな人なんだろうな?ベテランって事は壮年の人かな。名前とかセバスだったりしてな?」
俺は冗談めかしてアリスに言った、敢えてメイドには触れない。自分から地雷を踏む必要は無いのだ。
「なんで執事さんの名前がセバスなんですか?」
アリスが分かっていなかったようなので、地球でのマンガなどの話をしながら宿へと戻る。
宿に戻ると学院からの使いが待っていた、どうやら面接の段取りが出来たようで明日の9時頃に学院へと尋ねてきて欲しいと伝えられた。俺は了承した旨を相手に伝え食堂で遅めの昼飯を食べる。明日は学院へ行くとして、今日の午後はどうしようかと思って二人に相談した。
「前トーヤが言っていたチームのエンブレムかお揃いの何かを選ぶのはどうですか?」
以前アリスと二人で買い物に行った時の話を覚えていたようだ、そうだなと俺は姉に話を持ちかける。姉は少し考えていたが頷いた、よし今日の午後は装飾品屋めぐりだな。
それぞれ部屋で着替えてから宿を出て街を歩く、装飾品屋は以前アリスと行った所でいいか。俺達は他愛の無い話をしながら店へと向かった。
「お揃いにするなら指輪とかネックレスとかかな?ピアスとかはこっちの世界にあるのか?」
「ピアスって耳につける装飾品ですよね?前後から挟むタイプでしたらありますが、冒険には向かないですよ?引っ掛けたりすると大変ですし落し易いので貴族の夜会とかでしか着けません」
穴を開けるタイプは無いようだ、アリスがピアスの用途などを俺達に説明してくれた。だとするとネックレスか指輪か、一発で分かるのは指輪かな?ブレスレットはアリスとのペアとかぶるしな。
三人で店へと辿り着き、店内へと入る。色々と物色しあーだこーだと意見を出し合う。
選択肢に出たのは半月刀が彫られている指輪、オーダーメイドで『侍』と彫って貰うだった。姉の個人的な趣味ではハートとか言われたが、チームの証としてはどうかと思うので却下した。
しばらく悩んだが、結局は『侍』と彫って貰う事で決まった。ひとまず三つ作ろうと思ったのだが、姉がお婆ちゃんの分もと言って来たので追加で両親が見つかった時にもということで六つ作る事にした、親父達に渡すかは現時点では分からないが、チームメンバーが増えた時に渡すにも一つや二つ予備が必要だろうと思って作った。
それぞれ出来上がった指輪を嵌める、ちなみにサイズは自動調整の魔法を付与して貰ったのでフリーサイズだ。作り直さなくてもいいのは嬉しいな、流石異世界。
翌日、俺達は学院へと出向いた。受付へ挨拶し中へと進む、もう何回か来ているので案内も不要だ、俺達は学院長であるお婆ちゃんの待つ部屋へと向かった。
「お婆ちゃん、おはよう。予定通り来たよ!」
扉を開け姉が挨拶をする、中にはお婆ちゃんだけが座っていて他には誰もいなかった。
「あらあら、時間通りね。メイド候補と執事候補の三人は別室に先程案内したばかりよ。丁度いいからこのまま面談へと行きましょうか」
お婆ちゃんの案内で隣室へと向かう、俺達が入ると中に居た三人が直立になり挨拶をしてきた。
「お初にお目にかかります、私セバスチャン・ホーネットと申します。以後お見知りおきを」
・・・本当にセバスチャン来た!俺達は昨日の会話を思い出し呆然としていた。お婆ちゃんが俺達が呆然としているのを見て首を傾げた。
「あら、どうかしたの?知り合いな訳無いわよね?」
その言葉で意識が戻ってきた俺は慌てて挨拶をした。
「あ、いえ!こちらこそよろしくお願いします。突然黙ってしまって申し訳ありません、俺は十夜、こちらは姉の千秋とチームメンバーのアリスです」
俺の挨拶に併せて慌てて姉とアリスも挨拶をする、とアリスが言葉を付け足した。
「チームメンバーで、トーヤの彼女のアリスです、宜しくお願いします」
照れて赤くなった俺を周囲の皆が微笑ましい物を見る目で見ていた、やめてくれ!恥ずかしい!
「私、メイド見習いとなりますララと申します、こちらは妹のリンです。まだメイドとしては不慣れですが一生懸命頑張りますので何卒お願いします!」
どうやら二人は姉妹のようだ、それにしても若すぎないか?どうみても十歳くらいにしか見えない。俺が疑問に思っていると、お婆ちゃんが察して話してくれた。
「一先ず皆さんお座りになって、まずセバスチャンですけれど私の私邸を昨年まで勤めていたベテランの執事です、息子に後を譲って隠居していたのだけど暇そうだったので召喚しました。ララとリンは学院に勤めていた教師夫婦の子なのだけど事情があって預かる事になったの、一般的な家事については出来ると思うけど他の貴族の屋敷に奉公に出して何かあってもいけないから貴方達に預けるわ」
なるほど、セバスチャンさんは兎も角姉妹のほうは訳ありか、面と向かって言えないようだから後で話しを聞くか。
「細かい事は気にしないから大丈夫、二人共事情がある見たいだけども俺達は貴族って訳じゃないから必要以上に畏まる事は無いよ?兄弟のように接してくれると嬉しいな」
俺が笑顔を向けると姉のララが頬を染めて頭を下げた。
「あ、ありがとうございます。精一杯頑張りますので妹と共にお願いします!」
妹のほうはあまり表情が動かない、ボーっとした目で俺と頭を下げてる姉を交互に見てから頭を下げた。どうやら感情の起伏が薄いようだな、これも事情の一つなのかもしれない。
姉が二人の姉妹を気に入ったようで、挨拶をしながらかわいいだと騒ぎながら頭を撫でていた。
「セバスチャンさんもお仕事とは思いますが、家族のように接して頂けると嬉しいです。また俺達はアリス以外常識や世俗に疎いので色々面倒かけると思いますが、助けて頂けると幸いです」
俺の挨拶にセバスチャンさんは皺を深くして笑顔で答えた。
「ほっほ、では私はセバスと呼んで結構です。貴族でないということですが、事情は伺っております。堅苦しい挨拶など抜きで今後はよろしくお願いしたいですな」
どうやら俺達の事情はセバスさんは聞いているようだ、これから長く一緒に住むのだからこのくらいの関係が丁度いいと俺は思った、貴族ではないのだし所詮冒険者風情だ。家族が増えたようで今後の生活が楽しみになった俺達だった。