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僕の彼女は異世界人  作者: 藤乃叶夢
第二章 異世界訪問編
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閑話 アリスティア

五章にて書いたものを移動しました。

地球へと来る前のアリスティアのお話です。

 「はぁ~、この魔王ベルドって本当天才だわ・・・」


 私はそう呟くと何度目か分からない溜息をついた。この研究を始めてから既に半年以上は経っているのに未だ全容の半分くらいしか見えてこない。進捗具合が芳しくない事に頭を悩ませながら私はもう一度溜息をついた。


 「アリスさん?溜息をついていると精霊が離れるそうですよ?」


 突然背後から聞こえた声に私は驚いて小さな悲鳴を上げた。私が急いで振り返ると学院長のレイネシア様がそこに立っていた。その女性はこの国の現王の母にして、ファレーム魔法学院の学院長をしている方、そして私に今の研究を依頼した依頼主でもある。


 私の名はアリス、地方貴族の娘で正しくはアリスティア・ローゼン・フレイアと申します。ファレーム魔法学院に六歳の時に入学し、本来なら十年かかる過程を八年でしかも主席で卒業した才女です。・・・コホン、自分で才女なんて言っては駄目ですよね。まあ、周りがそう言っているのです。


 「すみません、集中していて気付かなかったようです」


 私は学院長に謝罪をすると空いている椅子を勧めた。学院長がこの部屋に来たという事は進捗を尋ねに来たのでしょう、正直進展が無い現状だと何と答えたらいいのか考えるだけで胃がキリキリします・・・。


 「アリスさん、熱心に研究に打ち込んでくださるのは嬉しいですが息抜きも必要なのでは?他のメンバーは既に帰宅されたようですし」


 学院長が周囲を見渡してそう仰った、確かに他のメンバーはとっくに帰ってこの数時間は私だけしか残っていなかった。けれど、あんな人たち研究の何の役にも立たないわ!


 「お言葉ですが、学院長や先王の心労を思えば遊ぶ暇なんてありません。正直他の人方は真剣味に欠けていると思いますわ」


 私の率直な意見に学院長は苦笑していますが、その顔には影が常に差しています。学院長と先王のご息女であるリティアラ姫が駆け落ちしてから既に二十年の歳月が流れているそうです、当初は魔王との婚姻という事が先王の逆鱗に触れ、結果としてご息女は魔王と駆け落ちという結果になったそうです。私の生まれる前なので伝聞ですけれど。


 ところが、先王が数年前に体調を崩され現王のレオハルト様に王位を譲った事から気を落され一目でいいからリティアラ姫を見たいという話を学院長にお話したそうです。そして王立であるこの学院に研究する部署が立ち上げられ、空間魔法が得意だった私がそのメンバーに選ばれたという

訳です。学院長はリティアラ姫が駆け落ちした当初から心を痛めていて、夫であられる先王が娘に会いたいと言った時はとても激怒したと伺っています。


 「あの子が駆け落ちしてでもと懇願した時にどれだけ私も一緒に頼んでも首を縦に振らなかったのはどなたでしたかしら?!」


 その剣幕に先王は更に体調を悪くされ、床に伏せって居られるとか・・・。学院長が仰るには「ばつが悪くて仮病を使ってるだけよ!」だそうですが。


 そんな経緯を知っているのは、こうして時折お話をさせて頂く私だけしか知らないのですから回りのメンバーと温度差が出てくるのも仕方の無い事なのでしょうけれど。


 「ともかく、あと少しで何かつかめそうなんです。もう暫く居させてください」


 私が学院長へ頭を下げると学院長は困った顔をして下げた私の頭を撫でてくれる。親元から離れてもう九年になる私にはとても懐かしく、嬉しい事だった。


 「無理だけはしないでね?私達の為に頑張ってくれるのは嬉しいのだけども倒れられると悲しいから」


 学院長はそう言い残すと教室から出ていかれた。私は頬を叩いて気合を入れなおすとベルド王の残した書物を更に詳しく読み解くため机へ向かった。


 研究室の他に資料を模写して寮でも研究を続けること三日、私は遂に転移魔方陣を作成する事に成功しました。これが上手く発動すれば私の苦労も、学院長の長年の思いも報われる!私ははやる心を落ち着かせながら魔方陣へと魔力を流し始めます。


 その時です、違和感が私を襲いました!学院主席であった私の魔力量はかなり高いほうだという自覚があります。それなのに魔方陣へ魔力を流し始めた瞬間から無限に吸い取られるような感覚に襲われたのです。

 これだけの魔力を消費するのは成功した証だと思う傍ら、制御できないかもしれないという恐怖が襲ってきました。転移魔方陣は制御に失敗すると周囲を消失させてしまう事故が過去数例報告があるのですから。


 私は渾身の力で魔力を制御しようと試みますが、遂に魔力の枯渇状態に陥ってしまいました。魔方陣に倒れこみながら意識を失いかけた私に見えたのは今まで見た事の無い風景でした・・・。



 「ううん・・・、ここ・・・は・・?」


 私は頭痛と揺れる視界に辟易しながら意識を取り戻しました。最初に目に入ったのは緑の木々と開けた場所で遊んでいる子供の姿でした。

 私は上体を起し周囲を見渡します、木々の向こうには見た事も無い建物が建っていました。見た子とも無い景色に呆然としていた私に更なる追い討ちが襲い掛かりました。


 「!”#%”!&$!$&!?」


 広場で遊んでいた子供が私に気付いたのか近づいて来たのですが、その口から放たれた言葉は今まで聞いた事も無い言語でした。


 「もしかして、転移魔法成功したの?」


 私の呟きに子供は首を傾げていましたが、興味が無くなったのかまた広場へと戻って遊んでいます。私はひとまず言葉を理解する必要があると思い『知識複写』の魔法を唱えると先程の子供へと近寄っていきました。本来完全に言語を複写する魔法より精度は多少劣りますがこれを子供にかける事でこの世界の言葉が喋れるようになる筈です。私は心の中でごめんねと呟くと子供の頭を両側から挟みました。


 「!$#%!$!#)$!#!」


 子供は突然の私の行為に驚いたのか、泣いてその場から走り出して行きます。遠ざかる子供が叫んでいる言葉が徐々に理解できるようになってきます。

 さて、これで最低限の言葉は聞き取れるし話せるようになった筈です、私は草木の茂みに身を潜めて助けになってくれそうな方が通るのを待つしかありませんでした、先程の子供には魔力を感じませんでした、せめて魔力が使えそうな方が通ればとそれだけをひたすら待ち続けました。


 それから二日、通る人全て魔力の欠片も感じません・・・。寝るにも草の上で食べ物もろくに無い状態でこれ以上ここに留まる事が厳しいと切実に感じてきます。



「ハァ~、この世界は生き難い・・・」


 道を通る人の声が聞こえました、私はまた魔力を持っていない人だろうなと期待せずに通りを見ました。通ったのは一人の青年で真っ黒い上下の服を着ています。


 「っ?!」


 その時の私の気持ちはどう表現したらいいのでしょう、絶望感に囚われ始めていた私の前に現れたその青年は魔力の波動を放っていたのです!

 それと、ほんの少しだけその青年がかっこよかったのです。コホン、これは余計な事でした。助けてくれそうならば贅沢なんてしてられません。私は意を決して青年へと話しかけるのでした。

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