第三十話 彼女とオリハルコン
いつもより遅くなりました。
俺達は一旦宿に戻り、明日の準備をする事にした。まだお昼を過ぎたあたりで日が暮れるまで時間がある。今日は三人で街を見て回り必要な物を買いに出かけることになった、昨日俺が怪我した為姉が監視するらしい・・・。
まずは万屋に行き、蜂に効果があるという発炎筒を数本買うことにする。発炎筒は薬効のある煙を吐き出し蜂や動物を軽く麻痺させるらしい、人間や体の大きな動物には効果が無いそうでよく小型の魔物や飛行タイプの魔物の討伐に使うとの事だ。
それぞれ2本ずつ購入して、あとは蜂蜜を入手した際にいれる容器をどうするかという話になった。瓶では何十本必要になるかわからない、蓋付きの樽を数個購入しアイテムボックスに収納しておく。これに蜂蜜ごと入れて街で加工して貰う予定だ。
また、蜂の子や素材用に大きめの袋を十数枚確保しておいた、巣を襲うのだしどれだけの蜂がいるか分からない、また女王蜂は丸ごと持ってきて専門の業者にそのまま卸したほうが無駄が無いそうだ。
万屋で必要な資材を購入した後俺達は、王都の中で未だ行ったことの無い場所を探して北側へと足を向けた。王都は綺麗に区画が整理されていて歩き易い、王宮と四方にある時計塔さえ見失わなければ道に迷う事も無いので俺みたいな余所者にはありがたい。
普段必要な建物が中央に集中している為、あまり遠くまで歩く必要が無く冒険へと街の外へでる際に通り過ぎるだけだった。余談だが昨日行った闘技場は王都の西側にある。
北側へと足を向けたのは、闘技場へ行く前にアリスから聞いた魔道具屋があると聞いたからだ。闘技場へと行っていなかったら昨日いく予定だった場所だ。
しばらく進むとアリスに「ここです」と言われた建物の前で足を止めた。大きさ的には泊まっている宿より少し小さいくらいだろうか?思ったよりは大きい建物だった。
「ここでは魔道具の販売だけでなく、製作も行っているのでオーダーメイドの魔道具とかも作れちゃうんです。もしかしたら掘り出し物もあるかもしれませんね」
アリスの案内に着いて店の中に入っていった。中には煩雑に道具が置いてあるが、一体何に使うのか目的がわからないものばかりだった。
「おや、いらっしゃい」
カウンターに座っていた60台程のじいさんが俺達に気付いて挨拶をしてきたが、それ以上何か声を掛けるでも無く、カウンターに向かったまま本を読んでいた。
あれか、客から聞かれるまでは放置してくれるタイプの店かな?俺はどうも家電屋でもどこでも店員が執拗に声を掛けてきて商品を勧めるのが苦手だった。
近所にあったPCショップだけは客から声かけられるまで店員からは一切声を掛けない店でそこばかり通っていたのを思い出した。
俺達はしばらく魔道具を見てはアリスに用途を尋ねていた、数点気に入ったのがあったので購入しようとカウンターへと向かう。店のじいさんは俺から商品を受け取り値段を計算していたのだが、ふと俺の右腕を見て首を傾げた。
「お前さん、その右手もしかして義手か?」
手袋と長袖だったのによく気付いたな、俺は隠すことでも無いので袖を捲くり鉄の義手を見せた。
「ああ、あまり見せる物でも無いかもしれないが、魔術で作った義手だ。これがどうかした?」
「いや、すまんな。義手なんぞ数十年ぶりに見たもんでな、俺がまだ若い頃には魔道義手も付けてた魔族が時折居たんだが、人間で着けてる奴見たのは初めてだ」
やはり人間ではいないか、魔族の技術みたいだったしな。そういや俺は魔王との子だからハーフって事になるのかな?
「魔族の血を引いてるらしくてな、義手の魔術も適応性があったみたいなんだ。昔見た魔族の義手ってどんなのだったんだ?」
店の親父は購入した商品を袋に梱包しながら俺の質問に答えてくれた。
「ああ、基本的にはそいつと見た目は変わらんのだよ。但し素材が違ったがな」
「素材?俺のは普通の鉄だからな、その魔族は何を素材にしてたんだ?」
俺は興味があったので尋ねる、別に鉄である必要性も無いしキロ数は反対の手と同じなんだが、軽くする為に中が空洞になっていたりと、強度的に問題があった。
「昔みたのはミスリル銀だな、魔力の伝達力が高くて身体強化との相性がいい。それに放出系魔法の威力も義手で飛ばせば強くなると言ってた」
「へー、ミスリルか。それで作れば俺ももうちょい強くなれるのかなー」
昨日闘技場で戦った時に辛勝だった事が気になっていた、あのくらいの闘士に負けているようじゃ魔物との戦いでも危険かもしれない。
「もしくはオリハルコンって手もある、義手だけにな・・・」
「「「・・・」」」
下らないジョークはさておき、オリハルコンで作った場合の利点も聞くと、この世界での最高の強度があって、鍛冶では加工ができないらしい。魔術で成型するしかないのだが、魔族かエルフが製法を秘匿していて人族や他の種族には伝わっていないらしい。
へぇ、オリハルコンか俺の魔術で作れるのかな?もし手にいれたら作ってみたいものだ。じいさんにどこで手に入るのか聞いてみる。
「ん、オリハルコン自体は王都にも稀に流れてくるぞ?使い道が無いから殆どが魔族かエルフへ流れていくがな、うちの店にも・・・・ほら、これがオリハルコンだ」
そういってじいさんは5kgくらいの金属の塊を奥から引っ張りだしてきた、つかオリハルコン持ってるのかよ!俺が驚いているとじいさんは苦笑しながら
「いつか加工できないかと思って昔手に入れたものなんだよ、この歳まで結局作り方すら知りえなかった。お前さんオリハルコンの義手を目指すならこのオリハルコンをやってもいい」
願っても無い話だが、何故貴重なオリハルコンを見ず知らずの俺にくれるんだろう?じいさんに尋ねた。
「俺は今日来たばかりの奴だぞ?何でくれようと思ったんだ?」
「別にな、このまま眠らせておいても無駄なだけだ、それに貴重といっても流通から言えばミスリルのほうが需要もあって価値は高い。オリハルコンは製法が無いと言ったろう?いくら貴金属でも使い物にならなければ価値はそれほど高くはならないんだよ」
そういうものだろうか、くれるというならありがたい。俺の義手に出来るか実験してみようと思い、じいさんからオリハルコンの塊を譲り受ける事になった。
「んじゃ、久々に発動してみっか、『義肢創造』!」
以前この義手を作った時より何倍かの魔力が吸い込まれるのがわかる。素材によって魔力量って変わるんだな、と思いつつ腕の状態を確認する。
正常に魔法は発動しているらしく、徐々にだがオリハルコンの塊が腕の形に成型されていく。その様子を見てじいさんも目を見開いて驚愕の表情をしている。
しばらく経過し、腕と手の成型が完了した。動かしてみるとスムーズに動くので成功なようだ。鉄で作ったよりも若干軽い?いや違和感が前より消えているからか、前回の義手に比べて手首や指先の動きと感覚がクリアに感じる。
「お、おどろいた。お前さんオリハルコンの成型ができるなんて・・・。その技術はどこで手に・・・、いや詮索は止めておこう、どうせ今更知ったところで俺には試せないだろうしな」
じいさんは鍛冶や金属加工の腕はあったが、魔法の才能は皆無だったらしく諦めた感じだった。
ともあれ、俺はじいさんの好意でオリハルコン製の義手を手にいれた!