第二十九話 彼女と巨大蜂
本日二話目です、最新話からとんだ方は二十八話からお読みください。
結局、家というより館?それよりも屋敷と言ったほうが正しいのか、屋敷の内装についての意見を聞かれただけでこの日はお開きとなった。
屋敷ができるのは約半月後らしい、そして二週間くらいの内にはメイドを雇うための面接をするのでまた顔を出すようにといわれた。
予想以上に大きな屋敷になりそうだと言う事で明日からもう少し依頼を受ける数を増やさないといけないかもしれない。安定して稼ぐにはDランクだと心許ないのが実情だ。名前を売るための目的にお金をきっちり稼がないといけないという別の目標が増えた気がする。
元々チーム名を登録する為にギルドに行く予定だったので、ついでに依頼書を見る事に決め俺達三人は冒険者ギルドへと向かった。
現状俺達は無名のランクDだ、それなのに魔術学院の長との知り合い、闘技場の支配人と知り合いにもなり、そして無駄に大きな家をメイド付きで持つことになる・・・。はっきり言って分不相応だと思ってる、これじゃ周りからなんて言われるかわからない、やはり名実共に認められるくらいに努力しないと変な噂が立つんじゃないかと不安になる。
色々考えながら歩いていたら冒険者ギルドの前に着いていたようだ。扉を開けて中へ入ると雑多な音が溢れている、依頼書を見ながらチームで相談してる人たち、窓口で依頼の内容を確認しているのか達成を報告していのか係り員に話しかけている人、メンバーが足りないのか募集を掛けている人もいる。
当然、全ての人がチームを組んでいるわけではないだろう、昔からの知り合いや数回組んで気が合った人達がチームを組む一方、何らかの理由でチームを解散した人、ソロを好む人などはチームを組まず募集があり、報酬が見合う所にその場に応じて組むらしい。
そんな人たちを横目に俺はカウンターの係り員にチーム名を決めたので登録したい旨を伝える。
「そういえば十夜、武士と書いてサムライにしたのは意味があるの?」
いきなり姉が聞いてきた、今更?とも思うが一応答えておく。
「いや、本当は侍でサムライだけど、一文字って何かなーと思ってさ、武士の本来のもののふでもいいかとは思うんだけど、気分でサムライ」
「結構いい加減な理由ね、何かもっとマシな理由とか無かったの?」
姉からの突っ込みが入る、別にいいじゃないか。武士とかかっこよさげでサムライって響きも好きなんだし、どうせこの世界で知ってる奴いないじゃないか!親父が見て突っ込みに来るかもしれないじゃないか。
「つか、昨日の時点で突っ込めって、今更言うなよ」
「いや、何か深い考えあるのかと思ったのよ。別に拘ってるわけじゃないのよ?ただ素で間違えてたんなら今ならやり直せると思っただけ」
元の世界での話しだが、名前とかどうやってもその漢字でその読みは無いだろうっていうのが最近多い、俗に言うキラキラネームはまだ許せるんだが根本的な読み間違いだけは許せない。
金星をマーズって読ませたり、宇宙をテラとかってのもあった気がする。当て字ならまだいいんだが流石にそれはって思う。
・・・もしかして俺も同じ状況なのか?やはり普通にもののふとかぶしとかにしたほうがいいのか?
「もう侍でいいじゃない?じゃなければ新撰組ね」
新撰組はなんかどこかで見た気がするからアウト、じゃあ『侍』か『武士』のどっちかだな。
結局昨日あれだけ悩んでたのに、やり直しである。散々悩んだ挙句、『侍』にした。三匹が切るとか三銃士とかもアウトだよな?
長くカウンターの前で議論していた所為かギルド員が呆れてこちらを見ている。俺は謝りつつチーム名を登録した。
「さて、依頼書でも見るか。何か手ごろなのはないかな?アリス見繕って頂戴」
俺と姉は未だ文字が読めないのでアリス頼みである、明日から文字の勉強もしないと駄目そうだな。何となく文字が読めないのは色々とアウトな気がする、アリスが居ないと何も出来ないし・・・。
「そうですね、値段と対象との比較ですとこの2枚あたりが妥当でしょうか?」
そう言ってアリスが説明してくれたのは、キラービーという巨大蜂の退治と蜂蜜収集の依頼だった。キラービーを倒していけば巣に当たるし、そうすれば蜂蜜も一緒に収集できて一石二鳥な依頼だな。俺は頷いて姉の方を伺う、姉もいいわよと頷いたのでこの2枚の依頼を受ける事にした。
「詳しい説明ですが、キラービーは体長30cmくらいの大きさでお尻に針があります。が、特に危険な毒は無いです、どちらかと言えば針に貫かれるだけでかなりのダメージを負いますから、出血に注意するくらいですね。あと蜂蜜が取れる巣ですが、巨大女王蜂が要ることがありますのでそちらも注意が必要です。蜂単体だと大丈夫なんですが、女王蜂がいると連携した行動を取るので難易度が上がりますから」
俺と姉はアリスの説明を聞き、毒が無くてよかったと思った。あとは女王蜂さえ会わなければ問題は無さそうだ。30cmもあれば飛んでても当てれる自信がある。
ギルドのカウンターに依頼書を持って行き、受付に依頼を受注する旨を伝えた。期日は一週間以内という事だったので、明日にでも出発することにしよう。
「ちなみに、蜂蜜はもちろん蜂の子とかも高く食料として売れるんで残らず持ってきましょう!あれは美味しいんですよ~」
アリスが期待しているのは蜂の巣に当然居る蜂の子である。元の世界でも日本の一部や海外で食ってるの見たなぁ、クリーミーで美味しいらしいが俺は絶対食えない自信がある!
姉もどちらかと言えば食べたくない派のようだ、顔をしかめてアリスを見ている。
依頼を受けたので俺達はギルドを出て、宿へ帰ることにした。