第二十四話 彼女と闘技場初体験
闘技場での賭けのレートは三人抜きまでは倍率はゼロで負けると戻って来ない、つまり四人目以降からは難易度が上がると俺は予想している。当然自分の力がどの程度かを未だ測れていないのだから三人抜けるかも分からないわけだけれど。
三人目からは勝てば1.5倍、2倍、2.5倍となる。そこから一気に跳ね上がり六人抜きで5倍、8倍、15倍、30倍、十人抜きだと50倍になる。
こういう賭場では胴元が損するようには出来ていない、つまりはいいとこ五人抜きくらいしか出来ない様に闘士の質を上げているはずだ。
アリスはきっと俺に賭けてくれているだろう、応援席でのあの熱の入り様を見れば分かる。せいぜい損をさせないようにしないとな。
そうこうしてる内に二人目の闘士がでてきた。今度は皮鎧を着た剣士だ、刃を潰された50cm程の片手剣を持っている。流石に二人目はさっきの筋肉男よりは強そうだ、俺は気合を入れ直し相手と向き合った。
また司会が色々な台詞を並べて観客を煽っている。それに合わせて観客席からの歓声も大きくなるが、集中力を限界まで上げている俺には遠い世界での会話に聞こえる。
審判の合図と同時に、今度は俺のほうから剣士に向かって突進した。相手はまさか突っ込んで来るとは思っていなかったのか、反応が少し遅れた。
その隙を突いて俺は打撃のラッシュを仕掛けた、試合が長引けば次の相手する時に俺が不利になるからな!左右と殴りつけ気を取れれた隙に足での蹴りや足払いを掛ける。相手が剣で反撃してきても右手でブロックする。相手も観客も俺の右手が普通で無いとこにはこれで気づいたはずだ。
普通なら相手が剣を持っている場合、こちらは回避するしか方法が無い。だが、俺はブロックし無駄に距離を空けるようなことも無いので相手に隙を与えない。数十秒の俺の攻撃の結果拳が相手の顔面に一発決まり、そこから足払いで体制を崩させての絞め技で落した。
相手が動かなくなった時に観客と審判が死んだと思ったのか、闘技場の空気が一瞬凍ったが俺が気絶させただけだと伝えると一転して大歓声に包まれた。
ふう、これでやっと二人抜きかと思っていると審判が連戦なので一度10分の休憩を入れると言って来た。俺はありがたくアリスが待つ応援席に向かい休む事にした。
「トーヤ、すごいです!最初の人を瞬殺した時もですが二人目を相手した時の体裁きは流石です!」
アリスが興奮し話しかけてきた。俺は照れながらもアリスに言った。
「いや、一人目はともかく二人目も俺の義手に気づいてなかったから何とかなっただけだよ。次からは厳しくなるだろうな」
アリスには悪いが二人目の時点で強さがかなり上がったのが分かっていた、義手に気付かれずに相対したから簡単に終わっているが、当然次の闘士からは対策を考えるだろう。
ふと気になり、アリスに幾ら俺に掛けたんだ?と尋ねると笑いながら「たった200エルくらいですよー?」と笑いながら答えた。
アリスさんや・・・賭け過ぎじゃないですか?昨日の稼ぎ殆どじゃないですか。次の奴倒せなかったら大損だよ?俺が心配すると、微笑んで「勝てば大丈夫ですよ!」と答えた。
すごいプレッシャーを受け休みが全く休めなかった・・・。
審判に声を掛けられ俺はまたアリーナの中央に戻る。今度は相手も既に出てきていて同時に中央にたどり着いた。
今度の相手は盾と鈍器を持ったスタイルだった。簡単には殴れなくなったな、防御力が上がってるわ・・・。
鎧も皮鎧ではなく騎士か戦士風の金属鎧に変わっているし、正直殴りたく無い。
正直どうしようか悩む、こっちは素手だし相手で露出してるのは顔くらいだ。
顔は盾でガードされるだろうし、全身鎧だから背後に回りこんで絞めるのも厳しいし・・・。
と、そこで俺は身体強化の魔法を思い出す。この世界に来てからバーサークボアを押さえつけるときにしか使っていなかった、あの猪を止められるのだからパワーはあるだろうしそれでごり押ししようと考えた。駄目だったらアリスの掛け金無駄になるなぁと思いながら魔力を高めて身体強化を行った。
審判の合図と同時に金属鎧が突っ込んできた、やはり防御に自信があるからかこっちからの攻撃は気にしていないようだ。盾は少し高めに構えられていて顔面を守る目的が分かる。
しばらく相手の斬撃を避ける、かなりの速度だが身体強化のおかげで問題無く避けれる。一撃を叩き込むとしたらどこだろうか?顔面は盾で防がれるだろうし、顔に入れるとフェイントを掛けての義手でのボディ狙いが無難だろうか?
ある程度狙いを付け、気付かれないよう視線は目標に合わせない状態で軽く攻撃を当てていく。やはり金属鎧はなかなかの強度で拳ではダメージが通らないようだ。
数発当ててから側面に回り込み、左手で顔面に向けてストレートを放つ!相手は顔を慌てて盾で守りに行くが、この視界が閉ざされた瞬間が俺の狙いだ。
右手に込めていた魔力を更に高める。フェイントの左手を引き戻し渾身の力で右手のボディブローを叩き込む! ガォン!金属同士を叩きつけるような音が鳴り響き、金属鎧が吹き飛ぶ。
え?吹き飛ぶ?・・・ 呆気に取られて相手を見ると、水平に5mくらい吹き飛んだ先でピクリともしない。まずい!?俺は相手に近寄り殴った場所を確認する。
金属鎧は5cmくらいの深さに、拳大に凹んでいた。審判も近づき、慌てて試合を終了させた。
少しして係員が回復魔法を使える人を連れてきて、数人がかりで鎧を外す。
鎧を外し服を捲くると脇腹がどす黒く鬱血していた。下手すれば内臓までダメージが及んでいるのではないだろうか?すぐ回復魔法を掛けられたようで変色した部位も消えていった。男が三人がかりで金属鎧の男を奥へと連れて行った頃、やっと審判の俺の勝利をアナウンスした。
力加減がわからなくやった行為だったが、少しやり過ぎただろうか?俺は男に申し訳ないと思い、後で出来るなら謝罪しようと決めた。