第二話 彼女と魔法
「ところで、君の名前は?」
家には姉がいる。仕事でまだ帰宅してないかもしれないが、説明するのに名前くらいは最低知っておくべきだろうと思い、少女に問いかける。
「アリス、アリスティア・ローゼン・フレイア」
「やっぱり外国の人なんだね。俺は十夜、そっち風に言うとトオヤ・イガラシだね」
やっと自己紹介も出来たし、なんと言うか姉以外と喋るのが久々だったから、ちょっと嬉しい。
「ト・・・ヤ・・・、トーヤ?」
「うん、言いやすい言い方でいいよ。こっちもアリスティアちゃんと呼んでいいのかな?」
アリスティアに尋ねると自分を指差して「アリス」と言ってくれたので、アリスと呼ぶ事にした。
時間帯か家までの道には通行人がいなかったので、アリスの事を詮索されることもなく、家にたどり着いた。
「げ、姉貴が何でこの時間に居るんだ?」
家に着くと姉の乗っている車が車庫に入っていた。いつもなら帰宅してる時間じゃないのに・・・。帰ってくるまでにアリスに事情を聞いて姉に説明する予定が大幅に狂った、と俺は頭を掻いた。
「まあ、なんとかするか。あ~、アリス?家には姉がいるんだが、姉への説明が面倒なんだ。適当に言っておくから俺に口裏合わせてくれないか?」
アリスは「ワカッタ」と頷くと俺に続いて玄関を潜った。
「あ、十夜。お帰り~、今日も真っ直ぐ帰ってきたのね?」
姉が玄関にひょいと顔を覗かせた。次の瞬間
「?!! 十夜!ついに彼女が出来たのね?!キャ~嬉しい!」
一瞬俺には姉が錯乱したのかと思った。何をどうしたらその発想になる?
「ちょ、ちょいまって姉貴。アリスはそういうんじゃ・・・」
「アリスちゃんって言うのね?初めまして、十夜の姉の千秋って言います。アキって呼んでいいからね?」
「ワタシ アリスティア」
いや、俺抜きで話進めないでほしいんだけど・・・。
まあ、変に聞かれないだけいいか、と楽観的に考え姉を引っ張り耳打ちした。
「姉貴、ちょいアリスの格好、面倒みて欲しいんだけど」
「あ~ちょっと汚れてるね?十夜、押し倒したとか乱暴してないでしょうね?」
腰に手を当てて怒ってくる、・・・大変遺憾である。
「そんなんじゃないって。ちょっとそこで助けて欲しいって言われてさあ。詳しい事聞くのに連れて来たんだ」
「ふ~ん、何だ彼女とかじゃないのね~」
「だから違うって、あと腹減ってるみたいだから飯か何か喰わせてやってよ」
「わかったわ。お風呂に入って貰って、その間にご飯の用意しちゃうわね」
アリスを姉に預け、俺は着替えをするために自室に戻った。
俺は着替えて食事の支度をしている姉の所へ行った。
「アリスは風呂?」
「そ、シャワーとかわからないみたいだから湯船にお湯を張って入ってもらってるわ。覗いちゃダメよ?」
姉はテキパキと料理を食卓に並べながら答えた。
俺は学校からの帰り道でのアリスと会った時の状況を搔い摘んで説明した。
「・・・・ということなんだけど。とりあえずこっちの言葉は通じてるっぽいんだけど、アリスの喋るほうはカタコト程度みたいだ」
「そうみたいね、とりあえずどこの国の出身か次第だけど・・・。英語圏なら多少話せるんだけどね?」
流石は高校時代の成績が学年十位以内なだけあって、頼もしい言葉だ、俺とは大違いだ。
「そろそろ、あがる頃ね。着替えさせてくるから十夜はここで待ってなさいね?」
「了解~」
数分後、姉がアリスを連れてリビングにやってきた。なんというか、小綺麗になったアリスはとんでもなく美人だった!服は姉のお古かな?薄いブルーのワンピースなんだけど洋風な顔立ちもあってどっかの姫様っぽい感じになってた。
「さ、アリスちゃんはこっちに座ってね~。ナイフとフォークなら使えるかしら?スプーンも一応あるから好きに使ってね?」
姉は前から妹が欲しかったなどと言ってただけあって、ニコニコしながらアリスの面倒を見てる。俺も小さいころは今のアリスみたいによく世話をやかれたもんだが。ちなみに俺が隻腕になってからはスプーンやフォークで食えるものや片手で食えるものばかりだ、愛されてるなぁ俺。
アリスは余程お腹が減っていたんだろう、綺麗に、だけどすごいスピードで飯を平らげていってる。事情は飯食ってからでいいか、と思い直し俺も姉も飯を食べることにした。
食事を食べ終わると、姉が食器をキッチンに運びテーブルに戻ってきた。
「さて、アリスちゃん?色々聞きたいんだけど、アリスちゃんのお国ってどこかしら?」
アリスの出身国が英語圏なら姉に会話させるため、会話の主導権は姉に譲った。
どうせ俺は簡単な英会話くらいしか出来ないし、姉に通訳してもらおうと思っている。
「フォーセンティア、ファレーム」
アリスが短く答えた。・・・・って、聞いたこと無い単語なんだけど?と、姉と顔を見合わせる。
「フォーセンティアもファレームも聞いたこと無いわね。どこら辺なのかしら?」
流石の姉も聞いたことがないようだ。普通に社会で習った国名にそんなのは聞いた覚えが無い。
「フォーセンティア、ココ チガウ セカイ」
「「?!」」
聞き間違えか?「違う世界」と聞こえた気がしたが。とりあえず、出身国は置いておいて、次の質問に行くか。
「どうやって日本に来たの?」
アリスは何と言おうか悩んでいるのか、口を開いたり閉じたり、眼を彷徨わせてしばらく黙ったままだった。そして、意を決したのか真っ直ぐ俺の顔を見てこういった。
「マホウ キタ」
「「・・・・・・・・・。魔法?」」
俺と姉の言葉が綺麗にハモった。この現代でよりによって魔法だなんて、どこかの御伽噺か宗教団体かと。
「はっはっは。アリス、冗談はよしてくれ。この現代で魔法なんて存在してないよ?」
きっと、外国風のジョークか何かだろう。俺はそう思い軽く言葉を返した。
アリスは「信じて貰えませんよねー」というような顔をして溜息をついてから、更に言葉を続けた。
「マホウ ミセル。トーヤ テツダウ」
アリスはそう言うと椅子から立ち上がると俺の隣にやってきた。
アリスが両手を胸の前で合わせ、何か聞いたことの無い言葉を呟き始めた。
その状態で五分程たつと、アリスの両手がぼんやり光始めた。
「ア、アリス?ちょっと何か手が光ってきてるんだけど?!」
アリスは未だに意味不明な言語を呟き、意識を集中している。こっちの言葉に反応する余裕がなさそうだ。
次の瞬間、アリスが合わせていた手を離し、俺の頭を両側から押さえつけてきた!
「っ?!っがっ!!」
何か経験したことの無い衝撃が頭の中を駆け巡る。痛みでは無いものの、脳に電気が奔るというか表現が難しいがそんな感じの衝撃だった。
「十夜?!大丈夫?!」
姉がびっくりして、椅子を立った。次の瞬間
「?!っつ?!」
突然俺の額にアリスが自分の額をくっつけてきた!
さっきまでの衝撃よりもアリスの綺麗な顔が目の前に来た事に驚いてしまった。
「アリス?!近い、近いって!」
慌てふためいていると、さっきまで感じていた脳への刺激が無くなり、アリスがそっと額を離した。
集中力を使ったのか、アリスの額には汗が滲んでいて、若干息が荒い。
俺は別の意味で息が荒かった。
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