第十八話 彼女とこれからも同居
「さて、まずはお二人の身元の確認を先に済ませてしまいましょうか?」
学院長は大きな水晶を持ってこさせた、ソフトボール程もあるだろうか?ここに学院長と俺達が互いに魔力を流し込む事で血縁者かどうかを判断する装置らしい。
これも継承権に絡む問題を調べるのに使われているそうだ、身内を騙る奴対策だな。
姉は一応ということで学院長に確認を取った、
「もし、血縁者でないと言う事になっても現時点で刑罰の対象にはなりませんよね?」
本来、王族を騙る事は重罪である筈だ。恐らく奴隷落ちか軽くても牢獄行きだろう、そうなれば今後の予定が根底から覆る事になってしまう。
姉の意図を察してくれたのか学院長は、
「ええ、本来なら王族の血縁者を名乗り、それが嘘だと分かった時点で罪だけれど。あなた達は異世界からの来訪者です。それに、アリスティアやこちらから血縁者ではないかと思っての調査となりますから、万が一違うと分かっても今回は罪には問いません。安心してください」
よかった、安心して俺と姉は水晶に手を置き魔力を流し始め、次いで学院長も水晶に魔力を流し始めた。
水晶には三種類の魔力が螺旋を画くように回り始め、数秒後には一つに纏まった。
次の瞬間、水晶は淡く光を放った!これはどっちなんだ?血縁者なのか違うのか?
学院長が手を離した為、俺達も水晶から手を離して座りなおした。
学院長はしばらく何も言わない、そして遂には俯いてしまった。まずい、これはダメなパターンか?俺は姉やアリスと顔を見合わせながら、どうした物かと戸惑った。次の瞬間!
「トーヤ、アキ。二人は私の純然たる血縁者です!お婆ちゃんと呼んで!!」
学院長が目に涙を浮かべながら俺達に叫んだ!俺と姉はキョトンとした顔をしていただろう。何せダメだと思っていたのだから。学院長の言葉の意味を徐々に理解してきた俺達は、互いに顔を見合わせながら声を合わせて言った。
「「初めまして!お婆ちゃん!!」」
学院長はテーブルから回り込み、俺達に抱きついてきた。リティは異世界で生きていたのだ、こうして孫を見ることができたと、涙ながらに呟いていた・・・。
しばらくして、やっと落ち着いたのか学院長は元の席へと戻っていった。
「ごめんなさい、取り乱しちゃったわね。リティが異世界で幸せな家庭を築いて居た事と二人のような可愛い孫が居た事でちょっと嬉しくて」
俺達も親以外の親族が居た事が嬉しかった、姉もちょっと涙目になってたし。
「いえ、お婆ちゃんが居た事を嬉しく思ってますよ?だから気にしないでください」
ん?そうなると先王が俺達のお爺ちゃんって事になるのか?流石に王様を前にして「お爺ちゃん」っては呼ぶ自信が無いぞ?
「一先ず、これで私と二人が血縁である事は証明されました。このレイネシア・アクア・ファレーンの名に於いて保障させましょう。・・・と言っても公には二人は平民である事を望むのですから、ファレーンの姓は名乗らないのですね?」
学院長は確認の為に再度尋ねてきた、俺は頷き言葉を返した。
「そうです、再度言いますが俺達の目的は親父とお袋を探す為です。その目的の為にもイガラシ姓を名乗って居た方が向こうからも分かりやすいでしょう」
「逆に、ファレーン姓を名乗る事で私達が王族と関わりを持ったと見なされて、行方を眩まされる可能性もありますよね?」
姉も俺に続いて言った、結婚を反対されての駆け落ちをした両親だから今更王族と関わりあいにはならないだろうという判断も出来る。
学院長は頷き、了承してくれた。
「そうね、但し完全な平民という事では私の気が済みませんから何かしらの援助はさせて貰うわ、それに関してはいいかしら?具体的には住む場所の提供と王族からの保護を与えます」
学院長からの提案はこうだ、住む場所はきちんとした住居を提供する。これは治安の悪い場所に住んでいての犯罪に巻き込まれる事への懸念と、学院長が尋ねたりする場合への周囲への配慮との事だ。
また、王族からの保護とはギルドカードでの身分証を発行する際に、ギルドや神殿などの幹部職員にしか分からない王族関係者であるというマークが刻まれるらしい。普段は特に変わらないが、何か特別な事があった場合に通常より身分が保障され、また戦争への戦役も免除されるらしい。
また、今後の活動方針として出来れば王都を拠点にして活動をしていて欲しいという提案も出された。各国を探すよりは一箇所で冒険者として名を上げたほうが名前が広まり易く、両親の方からも目に付き易いという事だった。
逆に、各国へはファレーン国から間者を情報収集に走らせるので、俺達が各国を回るより確実だと言われた。少なくとも住む場所に関しては断る理由がないな、宿屋とか気を使うし。
王族からの保護はあっても無くてもよかったが、戦争への戦役とか勘弁だし、それも受ける事にした。
「それと、何かと二人だけでは分からないことも多いでしょう?今までと同様、アリスティアを普段の生活の教育役として付けてもいいですが、どうかしら?」
俺と姉はもちろん、と喜んで頷いた。今更知らない奴からあれこれ言われるより俺達の魔術の師匠でもあるアリスのほうが気心が知れている。
「十夜もアリスもお互い一緒じゃないと寂しいものね?」
姉がまた爆弾発言をした!何言ってくれちゃってんの?!
アリスは顔を赤くして俯くし、学院長とかあらあらとか言ってすごい笑顔なんですけど?!
「トーヤとアリスティアはそういう仲なの?若いっていいわねー。じゃあアリスも二人と同じ家に住まわせることでいいかしら?」
いや、学院長そこは聞き直さなくていいから?ね?スルーしましょうよ。
「いや、俺達はあれですよ?まだそんな恋人とかっていう訳じゃないし。別に嫌いではないけれど、こういうのはお互いの気持ちというかですね・・・」
俺は何を言っているんだろうか?それにしても最近姉はそういうからかいが多くなってきたな。
最後のほうは混沌とした空気の中、学院長との話し合いは終わった。
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