第十七話 彼女と学院長
本日三話目投稿です。
調子が戻ってきました。
俺達が挨拶をすると、学院長は笑みを深くして挨拶を返してきた。
「ごめんなさいね、こちらから名乗るべきなのに。私は当『ファレーム魔法学院』の学院長をしています、レイネシア・アクア・ファレームと申します」
学院長はレイネシアさんと言うらしい。ん?ここがファレーム学院でレイネシアさんの家名もファレーム?俺は疑問に思い、学院長に尋ねた。
「大変恐縮なのですが、お尋ねします。家名がファレームとの事ですが、この学院の創設者とかですかね?」
俺の問いに学院長は笑みを浮かべたまま答えた。
「私が創設者という事ではありませんが、この学院は国が直轄で管理している魔法学院です。そして、ファレーム王国直轄の学院で国名から名を取りファレーム魔法学院と呼びます」
「え、という事はレイネシアさんは王族の方なのですか?!」
俺はまさかと思いながら尋ねてしまった。学院長は表情を一変させ威厳ある顔になり言った。
「そうですね、ファレーム国の先王の后にして現王の母。それが私レイネシア・アクア・ファレームです」
いきなりの王族、しかもかなりの上位の人だ。俺達の世界では王族となんて会う機会すらなかったので、どう対応したら良いのか分からず狼狽した。そんな俺を見ながら学院長は表情を元の柔和な笑みに戻しつつ言った。
「まあ、そんな硬くならなくて大丈夫ですよ?今の立場は学院長としてお相手しております。
それに、アリスティアに聞いた話が本当ならリティの子供かもしれないのですもの、堅苦しい礼儀など無用ですわ」
学院長はそう言い、俺達を学院長室に来るよう告げた。
・・・リティって誰?・・・
学院長室に案内されている間も周りの鎧姿の四人は一言も口を開かなかったが、特にこちらに害意を持っている訳では無いようだ。ただ、興味があるようでチラチラとこっちを見てはいたが。
俺も武術を小さい頃からやっていたからわかるが、この四人はかなりの手練だ。足運びなどに無駄が無く、俺達に気を向けながらも周囲に同時に気を配っている。
流石、王族の護衛という所だろうか。俺もこのくらい強くなりたいもんだと思いながら学院長室まで歩く。
「さて、ここが私の公務室よ。今お茶を持ってこさせるから楽に座ってちょうだい」
学院長はそう言い、メイドさんらしき人にお茶を持ってくるよう伝える。
やっぱ、メイドとか居るんだな。と俺はどうでもいい事に気を取られてしまった。
お茶が出されて学院長の向かいに俺、姉とアリスが座る。護衛の四人は学院長の両脇に二人、俺達の後ろの出口側に二人が直立で立っている。・・・疲れないのだろうか?
「さて、落ち着いたところで改めて自己紹介ね。私は学院長をしているレイネシアよ、そしてリティ、リティアラの母でもあるわ」
軽くお茶で口を潤してから学院長が口を開いた。さっきから言っているリティって誰だろう?
「学院長、先程から仰るリティさん、リティアラさんでしょうか?その方はどなたですか?」
姉が尋ねると学院長は驚きの表情を浮かべた。そして、アリスをチラっと見ると何か納得した雰囲気で俺達のほうを向きなおした。
「そう、アリスは機密だから伝えてなかったのね。リティは私の娘、つまり現王の姉という立場になるのかしら。アリスから聞いたと思うけれど、ある国の姫が異世界に駆け落ちした話は聞いているかしら?それがリティよ」
駆け落ちの話の所で学院長の顔が少し曇る。
えっと、俺達は駆け落ちした姫の子供かもしれなくて、その姫はこの人の娘で?この国の王の姉で・・・。
「えっと、俺達のお婆ちゃんかもしれないってことですか?って、すいません!失礼な事を!」
俺はつい口から言葉を出してしまった!あ、なんか護衛四人からすごいプレッシャーが!俺はすぐ学院長へ謝る。
「いえ、事実確認がまだだけど、恐らくその認識は正しいわ。そうね、もし本当に私の孫であれば先程みたいに「お婆ちゃん」って呼ばれたいわね♪」
学院長、すごい喜びようなんだけど?!それを見て護衛からのプレッシャーが消える。助かった・・・。
「そ、それでアリスからは何処までお話を伺っていますか?」
俺は話題を逸らして学院長に尋ねた。
「そうね、アリスからは研究中に異世界へ飛んだこと、お二人と出会い助けて頂いた事、お二人のご両親がリティと魔王ベルドの子である可能性が高いこと。両親を探しにこちらの世界に来たこと、までかしらね」
ん?また聞きなれない名前が出てきたぞ?
「すみません、度々話を遮って申し訳ないのですが、魔王ベルドってもしかして・・・?」
俺が再度問いかけると学院長がぽんっと手を叩き、
「ああ、そういえばこれも伝え忘れてるわね。あなたの父上と思われる前魔王の名がベルドと言うのよ?」
また新事実だ!そうか俺の父親の名前はベルドと言うのか・・・。日本名とは似ても似つかない名前だな。
「すみません、話の腰を折って。それで、話にも出た俺達の目的ですが、両親を探す事です。ですのでこちらの世界での情報を探しながら生計を立てていこうと思っています」
俺は今後の事を頭に浮かべながら話した、事前に三人で話し合っていたように王族とは関わりの無い平民という事にしたいという話、特に継承権が絡むようなトラブルはご免なのだ。
そして、多少は体を鍛えていた事と魔法をアリスから学んだ為に生計は冒険者と成りたてる予定という事を伝えた。
学院長は黙って俺の話を聞いていてくれたが、王族と関わりを持たないという所では少し悲しい顔をした。
「私の事をお婆ちゃんって呼んでくれないの?」
いや、そんな悲しげな顔で聞かないで欲しい。何か悪い事した気になってくる。
「い、いえ。公にはという話で本当に血縁があった場合は呼ばせて欲しいです!寧ろ両親以外に血縁者が居ないと思っていたので、正直お婆ちゃんとかお爺ちゃんって憧れてたっていうか・・・」
俺がそう言うと学院長はパァ!と顔を輝かせて嬉しがった。なんともやり難い・・・。
11/10 前王を先王に変更しました