第百二十七話 『片翼』解散?!
暫く食事を続けていると、公務があるからと陛下と王妃は屋敷から城へと帰っていった。俺はやっと重圧から解放されテーブルに突っ伏した。
「ちょっとトーヤ、行儀が悪いわよ?」
姉から注意を受けて俺は体を起こした。俺は水を一口飲むと先ほどまで緊張で味のしなかった料理を再び食べることに専念した。
「悪かったわね。知られると思っていたけどこのタイミングとは思っていなかったわ」
俺をみて婆ちゃんが謝罪してくれたが、俺としても何れ会う必要性があったので仕方がないと割り切っていた。そこからは緊張の解れた俺達やメイド達も楽しく会話をしながらゆったりとした時間を過ごした。
「そうだ、トーヤ。ちょい頼みがあるんだけどよ」
食後のまったりとした空気の中、バトラさんが俺に声を掛けて来た。
「ん?バトラさん何か相談ですか?」
バトラさんからのお願いというのは初めてだったので俺は少し姿勢を直して尋ねた。
「ああ、実は俺をそっちのチームに入れて欲しいんだ」
「「「えぇ?!」」」
突然の申し入れに俺とアリスとフラウが驚いて大きな声を出してしまった。姉が驚いて居ないのを見ると、何かしら知っているんだろうか?
「突然どうしたんです?片翼はどうするんですか?!」
俺は事情があるのだろうとは察していたが、聞かずにはいられなかった。何しろ同じ境遇の三人がずっと組んで来たチームだ。それをバトラさんが抜けるなんて重大事件に違いない。
「いや、実はリッヒとベルチェがな・・・。結婚するから冒険者を引退したいって言うんだわ」
「えええええええ?!」
俺はさっきよりも更に大きな声を上げてリッヒさんとベルチェさんを見た。リッヒさんは頬を指で掻きながら照れているし、ベルチェさんは頬を赤らめて下を向いている。
「それに、どうも腹にガキも居るようだしよ?流石に冒険は出来ないって事だし。そうすると俺はソロになっちまう。でだ、チアキも居るしトーヤ達もAランクだ。よければ俺を入れてくれないか?」
成程、状況は理解した。つまりリッヒさんとベルチェさんはそういう仲だったと、それで子供出来ちゃったし冒険者を辞めるということか。ぶっちゃけ国王陛下と対面したときより驚いたわ。
「そりゃ、バトラさんの実力は身に染みてますし俺は歓迎しますよ?姉貴も一緒に居る時間が増えて嬉しいだろうし。つか姉貴、この事知ってたよな?さっき驚いてなかったし」
そう言って姉の方を見ると、姉は頷くと謝って来た。
「うん、二人の引退の話は事前に聞いてたの。でもバトラがこっちのチームに入るかどうかは私たちがAランクチームに成れるか分からなかったし保留にしてたの」
そういうと小さく「ごめんね」と言って頭を下げた。まあ、別に大したことじゃないからいいんだけどね。俺達も無事にAランクになったしバトラさんが加わっても問題は無いわけだし。
「そりゃ、俺としては経験豊富なバトラさんが加わってくれるのは大歓迎ですよ?でも前から話してた通り俺達の目的は親父と母を探す事です。近々旅にでるかもしれないですけど、それでも良いんですか?」
「ああ、それは大丈夫だ。俺とてチアキのご両親には会いたいと思ってるし問題ない」
俺の確認にバトラさんは即座に頷いた。付き合ってる彼女の親を探すのだから問題無いっちゃ無いんだろうけど、即決とか男らしすぎるだろうバトラさん。
「アリスとフラウはどうだ?問題なければバトラさんをうちに加えたいけど」
蚊帳の外だったアリスとフラウにも確認したが、二人とも問題ないと頷いてくれたので俺は正式にその申し入れを受けた。こうして片翼のバトラさんは俺達のチームへと加わる事になった。
「じゃあ、この話はこれでいいとして。リッヒさんとベルチェさんの結婚式はいつにするんですか?」
「「え?」」
俺の質問に二人は同じタイミングで返してきた。
「いや、ふつう結婚式するでしょ?お腹が目立つようになる前に。それとも魔人族って結婚式って文化無いんですか?」
「いや、魔人族でも結婚式はあるけどよ?片翼の俺達にはそんな式とか挙げるなんて・・・」
俺の言葉にリッヒさんが反論してきた。いや、片翼とか関係ないよね?魔人族としてはどうか知らないけどここは人族の町だ。式挙げるのに反対するやつなんて居るもんか!
「魔人族の国ではどうか知りませんけど、ここは人族の国ですからね?やっぱり結婚するなら式はしましょうよ!ベルチェさんも花嫁衣裳とか着たいですよね?ね?」
畳み掛けるように言うとベルチェさんは勢いに押されたように頷いた。よし、これで言質は取ったとばかりに俺は婆ちゃんへと向く。
「という訳で、婆ちゃん。ちょっと結婚式の仲人してやってよ。式場とか伝手あるでしょ?」
「なるほどね。そういう事なら任せて頂戴。すばらしい結婚式にしてあげるわ!」
俺の無茶振りに困るような素振りも見せず請け負う婆ちゃん。二人には合宿の頃もヒュドラ退治の時もお世話になっていたからね。ここは身内のコネも使って盛大に祝ってあげたい。当人の二人を無視して話を進めている俺と婆ちゃんを見て、姉もバトラさんも苦笑していた。
一応、リッヒさんとベルチェさんにも最終確認はした。二人は最初こそ戸惑っていたが、やはり式を挙げれるのは嬉しかったらしくお礼を言って来た。
こうして慌ただしい一日は終わり、明日からまたそれぞれに新しい一歩が始まる。