第百二十六話 国王陛下と王妃
今月から18時投稿にしてみます。
「は?」
静まり返ったホールに俺の間の抜けた声だけが響き渡った。扉が開いてたから聞かれてしまったかもしれないが、驚いていた俺にはそれを気にするだけの余裕が無かった。俺たちが立ちつくしていると、爺ちゃんとお婆ちゃんに続いて壮年の男女がホールへと入って来た。
片翼の三人とセバスさんは片膝をついて頭をさげたが、俺と姉は呆然と立ち尽くしたままだ。すると小声でアリスが俺と姉の名を小声で呼ぶと注意をしてくれた。
「(トーヤ、チアキさん。驚いているのは分かりますけど臣下の礼を取ってください)」
その声でハッとした俺達は慌てて頭を下げた。メイド達もセバスさんに言われて頭を下げ始めた。
「あら、堅苦しく無くて良いのよ?ここは王宮では無いのだから。レオハルトもそれで良いわよね?」
「ああ、私は気にしないよ。父上と母上がそれで良いというなら文句は無いよ。皆面を上げてくれ」
婆ちゃんが尋ねるとレオハルトと呼ばれた男性は優しげな声で答えた。どうやら後から入って来た人が国王陛下で間違いないようだ。陛下に言われ立ち上がると初対面となる国王陛下と王妃へと視線を向けた。一目見た印象だと、レオハルト陛下は線が細く先王よりは婆ちゃんに似ているような雰囲気を感じた。並ぶメリーアン王妃は気品ある立ち振る舞いで、優しさと威厳を合わせたような風貌だった。
「まずは皆に謝らないと。私たちが訓練場で一戦する事がレオハルトにバレてしまったの。それでトーヤ達の事も調べられてしまったわ。そうなった今紹介しない訳にもいかなくて・・・」
婆ちゃんが申し訳ないという表情で俺達に謝った。俺は何と答えていいのか分からず、黙ったまま婆ちゃんと国王陛下とを交互に見やるだけしかできなかった。
「ふむ。極秘に動いてたのには驚いたけど生き別れていた姉上の子達ならもっと早く会ってみたかったね。安心したまえ、別に会ったからといって何か企むことは無いよ?姉上の話でも聞かせて貰えればと思っただけだしね」
陛下にそう言われると俺としても黙っている訳にもいかず、姉と共に陛下の前へと進み出て挨拶をした。
「初めてお目にかかります。トーヤ・イガラシ・・・母リティアラの息子です」
「同じく、チアキ・イガラシです。トーヤの姉です」
俺達が揃って挨拶をすると陛下は大きく頷くと自己紹介をしてくれた。
「私はレオハルト・アクア・ファレーム、この国の現国王にしてリティアラの弟にあたる。こちらは妻のメリーアンだ」
「初めまして、メリーアン・アクア・ファレームと申します。この子たちが私の甥と姪になるのね?」
レオハルト陛下に続いてメリーアン王妃が俺達に挨拶をしてくれた。そうか、俺達から見ると叔父と叔母に当たるのかと心の中で考えながら会釈を返した。
「どうやら父上と母上のお気に入りらしいじゃないか。私の子らより熱を入れてると聞いてるよ?」
「あら、レオハルトの子達も可愛いわよ?でも立場がとか習い事とか言って全然会いに来てくれないじゃない」
「それは父上が事あるごとに稽古だと追い回すからでしょう?息子たちは私に似て武より文なのです」
「なんじゃ?儂のせいか?!そもそもお主からして昔から儂の稽古となると逃げてばかりで・・・」
俺達を放置して三人で言い合いを始めてしまった。そんな三人を見てメリーアン王妃はにこにこしているだけで止める気配が無い。片翼の三人とメイド達も唖然と成り行きを見守っているし、ここは俺が止めなければいけないのだろうと口を開く。
「あの、国王陛下も爺ちゃんも婆ちゃんも。そろそろ話を先に進めません?」
どうも敬語というのは慣れていない所為か普段の言い方で喋ってしまう。失礼なのは理解しているのだけど、なにぶん上手く話せないな。
「あら、そうね。そもそも貴方たちのAランク昇格祝いの席なのだから!料理も冷めてしまうわね」
婆ちゃんの取り成しのお蔭で言い合いは止み、俺達はそれぞれ席へと着くことになった。
「では、トーヤとチアキ。そしてアリスのAランク昇格を祝って・・・かんぱい!」
爺ちゃんの音頭で皆がグラスを掲げた。皆でお酒に口をつけてからは料理を食べながら色々と話をすることになった。
「・・・そうか、姉上は異世界で幸せな人生を送っていたんだね。しかし、この世界に戻って来ているとは知らなかった。母上辺りが色々と動いてたのは聞こえてきていましたが、まさか姉上を探していたとはね」
「この子達がこの国や王族へ無用な混乱をもたらしたくないと臨んだからよ。貴方だってリティの子が公になった場合に何が起きるかわかるでしょう?」
俺が陛下に母の日本での暮らしぶりなどを聞かせると嬉しそうに頷いていた。そして何故黙っていたのかと婆ちゃんに追及すると継承権などの話へと言及した。
「その事ですけが。既に爺ちゃんと婆ちゃんには伝えていますが・・・、俺達は継承権や王族としての一切に関わりたくありません。親父と母を見つけたいだけですから」
俺の言葉を聞いて陛下は少し顎に手を当てて考えた後、俺達へと話しかけて来た。
「確かに継承権を持つ者が急に現れると邪な考えを持つ輩が出るかもしれないね。立場としては今まで通りで良いよ。だが、姉上の子らを無下に扱うのは本意じゃない。何かあれば可能な限り力になることを約束しよう」
その言葉に俺は嬉しくて涙が出そうになった。面倒事を引き起こす火種として排斥されても仕方のない立場の俺達へここまで配慮して優しくしてくれる陛下に心から感謝して頭を下げた。
「陛下のご配慮感謝致します」
「そんな堅苦しい言い方じゃなくていいのだよ?父上と母上を爺ちゃん婆ちゃんと呼んでるそうじゃないか。叔父さんと呼んでくれてもいいよ?無論、公式な場所以外でだけどね」
「あら、それじゃあ私は叔母さんですか?メリー姉とかお願いしたら呼んでくださるかしら?」
陛下に続いて王妃も呼び方を指定してきた。いや、流石にその呼び方はどうなんだろうと額に冷や汗が伝う。
「善処します・・・」
俺はそう一言だけ伝えると、陛下も王妃も次からよろしくと嬉しそうに言った。
国王との会話で敬語とか作法とかちゃんと書きたかったんですが
知識が及ばず違和感があるかも・・・