第百二十四話 決着そして・・・
土煙を立て地面へと倒れた爺ちゃんだったが、一瞬のうちに立ち上がって来た。
「うそだろ?!二発も直撃受けてノーダメージかよ!」
確かに殺さない程度に威力は抑えた。それでも鳩尾への一撃と雷撃は痺れて動けなくなる程度の威力はあった筈だ。余りの事に叫んでしまった俺に爺ちゃんはニヤリと笑うと口を開いた。
「なかなかの威力ではあるが、殺さない程度だと分かっておれば気合いで耐える事はできるわい。しかし、殺すつもりで放たれておったなら儂のほうが負けておったな」
そう告げると剣を納めてしまった。倒せなかった事に愕然としながら、反撃もされず剣をおさめたという事に意味がわからず唖然としていると、爺ちゃんが俺の方へと近づいて肩をポンと叩きながら言った。
「儂とここまで戦えたんじゃ。Aランクとして十分であろうよ」
どうやら訓練はここまでのようだ。終わりだと思った瞬間、どっと疲れが襲ってきた。俺がその場に座り込むと爺ちゃんも同様に座って俺に話しかけてきた。
「最後の儂の剣を捌いての一撃は見事じゃった。あれ程見事にカウンターを受けたのは初めてだ。成長したな」
そう言って俺の頭を力強く撫でてくれた。俺は爺ちゃんに褒めて貰えたのが嬉しかったが、少し気恥ずかしかったのでそっぽを向いた。顔を巡らすと姉と婆ちゃんの訓練も終わりを迎えたようだった。二人とも立ってはいたが肩で息をしている。どうやら婆ちゃんのスタミナ切れのようだ。
「さて、向こうも終わったようだ。皆集まって貰おうか」
そう言うと爺ちゃんは姉やアリス、サーシャさんと婆ちゃんを自分の所へと集まるよう告げた。すると見学者の中から見たことのある人がこちらへと歩いて来た。
「あれ?ギルドマスターとマリナさん?」
こちらに歩いて来たのはギルドマスターのガドンさんとサブマスターのマリナさんだった。訓練の様子でも見に来たのかと思ったが、一介の冒険者の訓練ごときを見に来る程暇でもないだろう。座っているのも失礼なので疲れた体に鞭打ち立ち上がる。何しに来たんだろうと疑問に思っていると爺ちゃんの近くまでやってきて爺ちゃんへと話しかけた。
「先王閣下、どうですかお孫様達の成長ぶりは」
「うむ、トーヤは見ての通り儂とある程度打ち合うくらいには成長しておる。問題ないじゃろう」
ガドンさんの言葉に爺ちゃんが返事を返す。何が起きているのか混乱していると続いて婆ちゃんとサーシャさんもガドンさんへと話しかけた。
「チアキも私とこれだけの時間戦えています。まだまだ伸びるだろうしいいんじゃないかしら」
「アリスちゃんの魔法すごいわね~。そのうちシアちゃんを超えるんじゃない~?」
どうやらガドンさんに俺達の評価を告げているようだ。俺とアリスと姉はそれぞれ顔を見合わせながら何の事かと首を傾げるしかなかった。するとガドンさんが大きく頷き俺達三人の方を向いた。
「チーム『侍』の三人はこの試験をもってランクAへの昇級を認める物とする。後日ギルドカードを更新するのでギルドへと顔を出してくれ」
ガドンさんの言葉を聞いても俺達は何を言われたか理解できなかった。たっぷりと十秒程経ってから三人揃って声を上げた。
「「「はぁ???」」」
俺達の間抜けな声に爺ちゃん達が大笑いしていた。意味がわからずガドンさんに尋ねると、先王である爺ちゃんからAランク試験の試験官を自分たちがやりたいと申し出があったとの事だった。本来バトラさん達『片翼』に頼むつもりだったが先王直々の頼みとあって断れなかったらしい。
「だが、身内という事で審査が甘くなっても困るからな。こうして俺とマリナも見学させて貰ってたというわけだ」
「ちょ!ていうか、来週やる筈だったバトラさん達との試験はどうなるの?!」
ガドンさんの説明に困惑しながら言った俺の疑問に対し、見学者の中から声が上がった。
「それなら問題ないぜ!」
そう言って人を避けて出て来たのは『片翼』のメンバーのバトラさん達だった。
「俺達も見学させて貰った。トーヤ達はAランクに足る実力があると俺達も認めよう!」
どうやらバトラさん達にも了承を得ていたようだ。つまり、俺達だけ何も知らずに訓練と思ってやっていた事がAランクへの昇級試験だったという訳だ。俺はあまりの出来事に力が抜け、その場にへたり込んでしまった。姉とアリスも気が抜けたようで呆然と立ち尽くしている。
「みんなグルだったの?全然気付かなかった…」
呆然としつつ呟く俺に苦笑しながら爺ちゃんが声を掛けた。
「なんじゃ、儂もこれだけ上手く行くとは思わんかったわ!だが、お主達のことは自ら成長を確かめたかったからな」
そう言われると何も言えないじゃないか!そう心の中で叫びながら立ち上がると帰る準備を始めた。
「さあ!今日はお祝いよ!屋敷に戻って祝杯をあげましょう。トーヤの家の執事達も全員呼んで来なさい!バトラ君達も参加よ?」
お婆ちゃんの声を聞きながら俺たちは訓練場を後にした。